情報
「え、それって私達と同じ学年の小野ちゃんと別れるってことですか?」
「ああ……こういうことを言えば、馬鹿だと思われるかもしれないけど、重圧に耐えられないんだ」
確か春義が言っていることを、昨日の放課後に景とオック―も言っていた。
春義は馬鹿だと思われるとは言ったが、個人の意見として言わせてもらえば全く思わない。
学校一美少女と付き合うということは、他の人には理解が出来ない程に重みを背負うのだろう。
あの人が小野と付き合った、などと様々な事を陰でヒソヒソと言われて学校で生きた心地がしないのかもしれない。
一つだけ疑問を挙げるとすれば何故春義がここに来たのか?と一瞬思考がよぎったが理由は直ぐに分かった。
相手が学校一美少女だから困るのだろう。
もしも、ばっさりと振ればイケメンであろうと何様だと罵倒され、これからの学校生活に支障をきたすかもしれない。
様々な事を考慮して不安や緊張が勝り相談しに来る理由も分からないではない。
「普通に断っても後々怖そうですもんね」
寺垣は春義の苦悩を理解しているのか、春義の気持ちを汲み取った答えを返す。
やはり、コミュ力の神様である。
必要最低限の言葉で完璧に伝えるべき言葉を理解している。
「そうなんだよ。自分からは振りにくいし美佐子の方から振って欲しいんだが、それも何時になるか分からない。だからと言って、無理に避けたりするのはやばいと思うし、もうどうしたらいいか分からないんだ」
相当苦悩しているのか、頭を抱えて蹲る。
最早、そろそろ病んでもおかしくないレベルかもしれない。
既に病んでいる可能性もある。
早急に解決した方が良いと思うが、中々に難しい案件で打開策が全く頭に浮かばない。
一つだけ考えが浮かんだのは徐々に避ける方法だが、春義が既に拒否をした。
南澤が頭を上にあげて思考してるが何も思い浮かばないのか顰め面になっている。
「うーん。だけど、小野ちゃんがいつ振るのかも分からない状況だったら、もう自分から振るしかないと思うけどどうすれば良いか分からないわ」
「最もらしい振る答えがあれば大丈夫なんだろうけどね」
寺垣の意見がこの場では一番最適解だろう。
最もな答えがあればいけるかもしれないが、それが無ければ無理というお話。
重圧にきついから別れてくれと言えば、なら何で付き合ったんだ!ふざけるな!と沢山の人から罵倒され、学校生活は終わりだろう。
「小野の悪い所はないんですか?」
伊勢に関する噂の件で小野が犯人とは限らないが、少なからず情報はいるだろう。
ついでに問題解決にも繋がる可能性はあるので一石二鳥の考えであり自分ながらに凄いと絶賛したい。
「悪い部分があれば苦労しないよ。彼女は本当に話しやすいし、明るくて、良い子過ぎるんだ。だから、振る理由が無いんだよ」
そうだよな。
小野に悪い所があるのなら一気に広まりそうだし、春義がここに来る必要もない。
漫画や小説の様にご都合主義展開で噂に関する情報が見つかる訳が無いよな。
これ以上情報を引き出そうと考えても、清水以外の三人にも不審がられるし今からは春義の問題解決を手伝うのが良いのかもしれない。
「だったら悪い所じゃなくて合わない所とか無いんですか?価値観の違いなら、断る理由が出来るんじゃないですか?」
「あー、確かに吉条の言う通りかも。好みの顔だけど、一緒に居て合わなかったら、私も無理かも」
寺垣も俺の意見に同意を示し、春義もまたそこまでは思い至ってなかったのか、顎に手を当て考える仕草を行うので、もう少しアドバイスをした方がいいだろう。
「難しく考えなくても大丈夫ですよ。例えば、自分はあまり外に出たくない派なのに、向こうは外で遊びたい人とかでも、良いんですよ」
「……それって、片方広先輩じゃないですか?」
「今、先輩にアドバイスしてるから口を挟むんじゃない。お前は本でも読んでろ」
「はーい」
至らないことを言う泉は本に集中させ、俺は春義の問題解決、そして、小野の潔白を示す情報、もしくは犯行を行うかもしれない情報を少なからず手に入れる。
「……うーん。やっぱり、美佐子は俺に合わせる形が多いから、価値観の相違は無いんだ」
「……そうですね。では、それを利用するのはどうですか?」
「どういうことだ?」
「小野は春義先輩に合わせる人なんですよね?」
「ああ。そうだな。間違ってはいないと思う」
「なら、春義先輩は自分に合わせる人物じゃなくて、合わせてくれなくてもいいから一緒に楽しむ人と居たいという理由はどうですか?」
俺の言葉に春義は大きく目を見開き、席を立ちこちらに近付いて来る。
……なんで、こっちに来る?
逃げ出したいが先輩の前で粗相を行うのもどうかと判断に迷っていると、両手で強く肩を掴まれる。
「それだよ!君は凄いな!僕は一緒に楽しむ人が好きなんだ!君のおかげでどうにか出来そうな気がする!ありがとう!」
「…は、はあ。助けられたなら何よりです」
凄い勢いで迫ってくる春義に一瞬たじろいでしまうが、スッキリしたのか明るい表情で退出していく。
「結局吉条が解決してるじゃん!私達で頑張ろうと思ったのに!」
南澤が悔しそうな声を上げるが、まさか助言程度で解決できるとは思わなかった。
「…だけど、良かったのかな。小野ちゃんは好きで付き合っていたいのかもしれないのに、こんな形で終わっても」
寺垣の些細な言葉に本を読んでいた泉もまた寺垣を見てしまい、南澤もまたどう答えていいのか分からないような顔をしている。
確かに、俺達は片方の意見しか聞いていない。
そして、泉の時もそうだ。
だが、
「手助けをして良かったと思ってるぞ。これがまだ喧嘩だとか、言い争いによる別れならまだ両者が納得できる形で終わるのかもしれない。だけど、どうしようもない時だってあるだろ。片方は好きでもないのに付き合い続けて、最終的にはお互いが辛い思いをするだけだ。付き合うってそうなんじゃないのか?好きでもない相手に対し優しさで付き合うと言ってもそれは思いやりや、優しさなんかじゃない。後々相手を傷付けるだけだ。別れるのに、お互いが納得する形なんて普通はないだろ」
「……広先輩って付き合っても無いのに、どうしてそんな真っ当な意見が言えるんですか?」
「馬鹿にしてるのか?」
「純粋な疑問ですよ」
一瞬馬鹿にされたのかと思ったが違うらしい。
「小説の見過ぎで、俺が思った感想みたいなもんだ」
「理由が想像以上に凄いんですけど!?」
「小説見たらそんな事が言えるようになるって、小説も馬鹿には出来ないわね」
泉には驚かれ、南澤には感心されてしまった。
「いや、他人は知らないぞ。俺は見るたんびに色々と考えるからな。それで、思った気持ちだ」
自分で喋っておきながら付き合っても無いのにまともな事言えてるな。
自分でも驚けるわ。
「ねえ、話している所悪いけど次の人呼ばなくていいの?」
「あ!つ、次の人どうぞ!」
南澤が今気付いたと言わんばかりの声を上げ次の人物が現れるが、これまた特徴が凄い女だった。
黒く日焼けした身体に、制服は校則なんて笑えるぜ!と言わんばかりの恰好であり、スカートなんてパンツが見えるのではないかと言わんばかりに短くしており、自分が持っている学校バックにはキーホルダーが団子のように詰められている。
挙句に、髪の毛はピンク。
見た目で判断するのならギャルである。
因みに制服の襟についている印で三年であり春義と同学年ということだけは示されている。
「あ!次うちの番?よろよろ!」
よろよろ?
俺が知らない単語だ。
まず、日本語かどうかが知りたい。
「え、ええとじゃあ座ってください」
カースト上位に入る南澤もギャルの格好、言動には耐性が無い様でたじろぎながら座らせるよう促す。
「じゃあよろぴく!ってか、ここ美人多すぎない!?ウケるんだけど!マジ卍じゃん!」
よろぴくって何?
卍って何?
この人、本当に日本語を喋っているのだろうか。
だが、美人と言われたことに気を許したのか南澤と寺垣は少し笑顔だ。
ちょろい奴らである。
「それじゃあ、相談って何ですか?」
「あー。ココ相談部だもんね!」
なら、貴方はここが何だと思って来たのか聞きたい。
「まあ、うちもちょっぴし相談しようかなって思ったんだけど、結局大丈夫になっちゃって!」
貴方は本当に何しにここに来たのだろうか。
今すぐ立ち上がって周り右をした方が良いと思う。
「……ハア。ではここに何しに来たんですか?」
「うーん。適当に並んで立ってたって言うか、そんな話は良いんだよ!君ってさ!ここに男子一人で気まずくないの?」
相談ではなく雑談をしに来た暇人の話を聞く必要性も見当たらないので本を読むほうが有意義だと既に関係のないふりをしていたのだが、話を振られてしまった。
「…初めは戸惑いましたけど、もう慣れましたよ」
「へえー。めっちゃモテるんだね。名前何て言うの?」
「吉条宗広ですけど」
「じゃあ、ひろひろだ!」
「いや、それは本気で意味が分かりません」
今まで何とか会話が出来たが、こればっかりは全く出来なかった。
「えー。ひろひろでいいじゃん!良くない?超いいよね?」
あ、多分あんまり人の話を聞かない系の景やオック―とはまた違った自由人だ。
「あだ名は良いですけど、相談無いならここにいる必要あるんですか?」
「えーと、もうちょい時間あるんだよね。暇だし」
違う。
求めていた答えは、『あ、確かに相談無いし帰るね!バイバイ』、と言った形を期待したが、自由人に期待した俺が馬鹿だった。
「ねえ、そこの美人の二人は付き合ってる人とかいる訳?」
「わ、私はいないです」
「私も」
南澤も寺垣も突然話を振られて、少し驚くがきちんと受け答えが出来る。
流石だな。
俺は少し間を開けないと返答出来ない。
「ええ!勿体ないな!美人なのに!」
あからさまに美人と言われ嬉しそうな表情を隠そうともしない二人。
まさか、ここまでちょろいとは思わなかった。
今後で二人に反感を買ってしまった場合は美人だ!可愛いと誉め絶やして許しを請う。
「逆に先輩は付き合ってないんですか?」
「うーん。うち好きな人はいるんだけど、付き合ってるって言うのかな?良く分からないけど、恋する乙女なわけ!」
……今何だか曖昧な返事だった気がするが、どういうことなんだ?
少し不思議に思っていると、丁度下校のベルが鳴る。
「あ!時間だ!うち今から男とデートだからじゃあね!」
「「さようなら」」
南澤と寺垣が手を振りながら、嵐の様な自由人ギャルは去って行った。
「それじゃあ、俺達も帰るか」
直ぐにバックを持ち、席を立ち他の三人も帰り支度を済ませるのだが、一人だけ下校のチャイムに気付いていない泉は俺が貸した本を見ている。
「……おい!もうベルなったぞ!」
「え!?何時の間に!」
泉もまた慌てた様子で帰り支度を済ませる。
校門を出たあたりで全員は別々の道で帰る姿を見送り、必然と俺と清水だけはその場に立ち止まっていた。
「それで、今日俺を残らせたのは小野の彼氏がいたからか?」
「その通りよ。私が部室に来るときにこの辺をうろちょろとしていたから、相談に来ると思ったわ」
「成る程な。だけど、あまり有意義な情報は無かったと思うけど?」
「貴方は何も思わなかったの?」
「何が?」
「何でもないわ」
「おい、気になるじゃねえか」
「いえ、私の思い過ごしという形もあるわ。私は正しいという確証がないと言いたくないの。だから、忘れて」
「へいへい。じゃあな」
「ええ。さようなら」
清水の方を見ずに家まで帰る道を辿るのだが、先程の清水の言葉が少し気になる。
今日は依頼人が今までが何なのか?というぐらいに来た。
もしかしたら、その中でも気になる人物でもいたのか?
それとも、聞いた中に変なことを言う人間がいたのか?
聞いている分には何も気付かなかったが清水は頭が良い。
学年一位の清水涼音にしか気付かない程の些細ではありながらも不明な気になる点に気付いたのかもしれない。
結局の所は俺が幾ら考えた所で清水と同等の頭脳を持ち合わせている訳でも無いので、気にする必要もないし、万が一にも何か分かれば清水が伝えてくれるのを祈りながら安寧の自宅への帰路へと立つのだった。
翌日
「……せ、先輩」
今日もまた、放課後には相談者が殺到。
南澤、寺垣が捌き、今日もまた清水には部室での待機を命じられ、本を読もうとしたのだが、泉が顔を朱色に変えてモジモジとしながら俺へと話しかける。
「どうした?」
「あ、あの」
今までとは比べ物にならないぐらいモジモジとしている。
トイレでも我慢してるのか?
「いや、どうしたんだよ」
「つ、続き貸してください」
か細い声を出し、そっぽを向きながら黒いブックカバーで覆われた先日に貸した本を返してくる。
――――こいつマジか。




