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完璧主義者

 最早何を言っても意味がなく諦めがついた『お悩み相談部』での日常。

 何時もなら俺や清水が読書を始めて、南澤、泉、寺垣が三人で女子会を始めて稀に話を振られて答える程度の雑談会を開いている日常なのだが、部活に全員が席に着くと南澤が全員が見渡せる場所に腕を組んで仁王立ちしている。


 「私は前回と同じように宣伝をして行こうと思います!」


 南澤が高らかに宣言する。


 「宣伝ってここの部活をですか?」


 泉が疑問に思ったようだが同意見だ。

 この部活を宣伝した所で誰も来ないだろう。

 今までの泉と伊瀬が特殊なケースだ。

 だからこそ、あまり意味が無いように感じる。

 前回も宣伝を開始して即刻怒られる羽目になったのだから。


 「そう!前回の広告みたいに、紙に私達の部活を宣伝するの!」


 「はい、待て」


 速攻で止めに入ってしまった。

 始まる前からオチが読める。

 

 「何よ」


 「お前は前回の経験で学習しなかったのか?また、怒られるのがオチだろ」


 「フフ。甘いわね吉条。私は馬鹿じゃないの。前回は無断でやったから怒られたわけで、今回は既に萩先生からの承諾済み、そして、教室で配ってもらう手筈になってるわ!」


 「ほー。お前もきちんと考えてたんだな」


 「まあ、当然よね」


 皮肉で言ったつもりだったのだが、南澤は分かっていないようで誇らしげにしている。

 やはり、馬鹿であった。


 「書く内容は決まってるのか?」


 「全部決めてるわ!皆の意見も聞いて多少の変更はあるかもしれないけど大丈夫なはずよ。後はパソコン室で写すだけ!」


 「本当にどうした。用意周到過ぎるだろ」


 「吉条は私を甘く見過ぎよ。私は学習する女よ」


 本当に今日の南澤はどうしたのだろうか。

 完璧すぎて逆に何処かに落とし穴があるのではないかと疑わずにはいられない程に不気味だ。


 「さあ!パソコン室に行きましょう!」


 「私も行きます!」


 「私も!」


 南澤が立ち上がり、それに倣う形で泉、寺垣もまた立ち上がって教室を出る。


 「あれ?吉条と清水は来ないの?」


 寺垣が教室を出る際に確認するが分かっているだろうに。


 「俺は行かない」


 「私も」


 「オッケー。じゃあね!」


 寺垣もまた分かっていたのか、何も疑問に思わないようで教室を去っていく。

 騒がしい三人がいなくなり、部室は静寂に包まれる。


 「――――貴方は帰らないの?」


 少しの静寂の後、清水が真っ当な質問を聞いてくる。

 もう少ししたら俺から話しかけようと思っていたが、手間が省ける。

 別に話し掛けられないから、話しかけられるのを待ってたとか話ではない!決して違うぞ!


 「お前に少し話があってな」


 「貴方が私に話って何かしら」


 「伊瀬の案件だ」


 「解決したと思うけど?」


 「まだ解決はしていないだろ」


 伊瀬の案件は傍から見れば解決しているように見えるかもしれない。

 だが、実際は違う。

 伊瀬の依頼は平穏に暮らしたいというもの。

 黒柿が罪を認め、一件落着と言う形になっているが、一気に学校中に広めた輩がいる。

 もう一人の犯人にも罪を償わさなければ、また伊瀬が標的になるかもしれない。


 「一気に広めた人物がまだ分かってないだろ?」


 「……確かにその通りだったわね。すっかり忘れていたけども、それを見つける必要はあるのかしら?黒柿が罪を認め、一件落着じゃ駄目なのかしら?」


 「九十九%は大丈夫なのかもしれんが、一%は可能性がある。俺はやるなら完璧にやりたいんだよ」


 「フ。貴方らしいと言えば正しいのかもしれないけど、どうしてさっきの場面で全員に言わなかったの?」


 清水は微笑を浮かべながらも、真面目に話を聞く態勢に入り本を畳んでこちらに視線を向けてくれる。


 「それは簡単だ。泉にしろ、南澤、寺垣もまた学校中で有名な人間だ。泉は伊瀬の件がまだ済んでいないと分かったら派手に動き回りそうだしな。南澤、寺垣達も然りだ。だからこそ、清水も有名かもしれないけど、あんまり人と話さない形でもお前なら凄い意見をくれると感じてる。泉達は行動するのは得意だが作戦分野は苦手だしな」


 「私ならいいと?」


 「お前なら協力者としてうってつけだし、伊瀬に関して無頓着であまり空回りする可能性も無い。だから協力してくれないか?」


 「お断りよ」


 協力の申請に対し、清水の言葉は即答であった。

 断るにしてももう少し悩む素振りを見せてもいいんじゃないだろうか。

 可愛げのない奴である。


 「……対価がないのにする訳ないじゃない」


 清水の言葉の意図に気づき、思わず頬が緩んでしまう。


 「ハハハ。そうだな。確かに俺もそうだ。対価なら俺が出来ることならやってやる。協力してくれ清水」


 「それなら、別に良いわ」


 ……本当に可愛げのない奴である。


 「まずは、これからどうやって調べるかだな……あ、一人だけ俺が聞ける人物がいるな」


 「貴方に聞ける人がいるの?」


 大変失礼なことを言ってくる清水の言葉はスルーして話を進める。


 「有意義な答えが返ってくるかは分からないけどな。何もないよりはましだろ。少し行ってくる」


 清水に伝えながら、席を立ち、行くのは昨日行ったばかりである一年の廊下だ。

 辿り着いたのは見覚えのある教室だが一度来たことがあるのが功を成してか、あまり緊張はしなかった。


 「あの、黒柿涼君は」


 「あ!兄貴じゃないですか!どうしたんですか!」


 いますか?と尋ねるよりも先に、放課後に教室で友人だろう二人と談笑していた黒柿が、俺の姿に気づくと、直ぐに駆け付けてくる。

 ご主人の登場に敏感な犬である。


 「兄貴じゃないが、少し話が出来るか?」


 「大丈夫です!」


 「友達は良いのか?」


 「今すぐ重要な話をしてる訳でもないですし、兄貴の方が優先です!」


 「お、おう。なら、少し頼む」


 黒柿の勢いに若干引いてしまうが、話が出来るのは幸いだ。

 やはり、リア充と言うのは放課後も残って談笑していると思ったが、本当に要るとは思わなかった。


 「――――話なんだが、昨日の出来事を蒸し返すようで悪いんだが、伊瀬の噂の話だ」


 昨日の出来事と聞いた時、若干黒柿の眉が吊り上がったのは見間違いではないだろう。

 黒柿の中で払拭できるものではないのは分かるのであまり強要はしたくは無い。


 「あまり急いでないから今度でも良いが」


 「兄貴は心配性ですね。昨日の話って聞いて少し驚きましたけど、大丈夫です。それで、何が聞きたいんですか?」


 黒柿の足は若干震えているようにも見えるが、我慢して話を聞こうとしているのは、少しは彼なりの頑張ろうという行動なのだろう。

 頑張って話を聞こうと黒柿の気持ちを踏みつぶす訳にもいかないので手短に要件を言った方がよさそうだ。


 「学校中に噂が流れた件なんだが、誰が言ったか心当たりはないですか?」


 「――――薄々思ったんですけど、やっぱり茜の噂を流したのは俺だけじゃないんですか?」


 「その可能性が高いと俺と清水は踏んでいる。だから、お前に少しは心当たりがないかと思ったんだが」


 「茜の件なら全力で手伝いをしたいんですけど、心当たりはないですね」


 「……やっぱそうだよな。じゃあ伊瀬に恨みを買ってる人物とかも知らないよな?」


 「本当に申し訳ないんですけど分からないっすね。茜が聖女なのは置いとくとしても、大人しい性格ですし、恨みを買うような人間でもないですからね」


 「だからこそ謎なんだがな……」


 伊瀬が大人しい人物で恨みを買うような人間ではないという黒柿の見解は間違いではないと思う。

 だが、犯人を追い詰めようと策を練る側としては今回の件は仇となっている。

 反対に、恨みを買うような人間であれば、犯人を絞ることは出来たのだが、恨みを買う人間がいないのであれば、絞るのが難しい。

 学校中に噂が流せると考えると人望や、知名度がある人間だ。

 それだけ言えば、黒柿も候補の中には入る。


 俺が前回の件で一つ間違っていたのは黒柿は人望があまりないのではなく、噂があまり広まないように調整する程の頭脳があったということ。昼休みの件を見ても分かるように黒柿は結構な人望があった。

 その点だけ見れば黒柿が犯人の可能性があるのだが、こいつにはアリバイと言えば大げさかもしれないが、初めから一気に広めなかった事実がある。

 何があろうとその点だけは揺れることはない。

 だからこそ、黒柿は犯人候補からは外れている。


 「俺だけでは有意義な情報を手に入れるのも難しいので教室の中にいる友達にも聴いてみましょう」


 「え」


 黒柿は俺の返事を聞かずに、教室に入り俺を手招きする。

 こいつは分かってない。

 俺はコミュ障と言うわけではないが、あまり人と話すのは得意ではないということに。

 しかし、このままでは全く手掛かり一つないということも事実だ。

 依頼を完璧にこなすためには行くしかないよな。


 「ちょっとさ、兄貴の話を聞いて欲しいんだけど!」


 「兄貴ってお前って兄さんいたのか?」


 「知らなかったな」


 「本当の兄弟じゃないけど、それぐらい尊敬してるってことだよ!さあ、どうぞ兄貴!」


 黒柿が椅子を引き導くが、人をこき使っている人間に見られそうで座りずらさが増すのだが言ってられないか。

 渋々、椅子に座り目の前にいる黒柿の友人二人と対面する。


 一人は、ワックスを付けて、髪が上にあげてあり、少し茶髪が入り混じっているイケイケ系男子である。

 もう一人はまたしてもワックスを付けており、左側の十分の二ぐらいの髪を後ろにし、八は上にもっさりと整えてあり、髪は染めていない。簡単に言えば、二人ともモテそうな男である。


 「突然来て邪魔するのもあれだし要件だけ聴いたら直ぐにどっか行くから一つ聞きたいんだが、噂とかを学校中に広める人物を知らないか?」


 「噂ですか?広めるって言われても、俺はそんなに知らないっすね。噂にはあんまり興味無いっすからね。だけど、学校中に広めるなら学校で有名人なんじゃないっすか?」


 「俺も景に同感ですね。学校中に広めるなら有名人にしか出来ないでしょ」


 「お前らまずは自己紹介しろよ!ここにいるのは隠れた天才超人な兄貴だぞ!?」


 いつの間に天才超人になったのか詳しく聞きたい。

 今、初めて聞いた。


 「そんなに凄い先輩なのか?昨日来てたから見覚えがあるけど」


 「俺も聞かない人物だな」


 すみませんね知名度が低くて。

 なにぶんボッチな者でね。


 「ああ!だからな、ここにいる吉条宗広と言う兄貴はな!自分が凄いけどそれを自慢しない、凄く凄く凄い人間なんだぞ!」


 何か所もツッコミたい所があるが、まずどうして名乗った覚えのない俺の名前を知っているのか、凄いを連発しすぎだと黒柿に言いたいが、話が逸れそうだし長くなりそうなので言わないでおこう。


 「へえ。涼がそんなに先輩褒めるなんて今までなかったけど、取り敢えず俺は古宮景一ふるみやけいいちす。皆からは景って呼ばれてます」


 「俺は、小倉鷲高おくらわしたかです。皆からはオックーって言われてるんで、オックーで大丈夫です」


 「景にオックーだな。俺は黒柿が言ったように吉条宗広だ。適当に呼んでくれ」


 「じゃあ、ヨッシーっすね」


 「だな」


 「だなじゃねえよ。何でマリ〇に出てくる名前なんだよ」


 「そうだぞ!お前らも兄貴って呼ぶんだ!」


 「「兄貴は無い」」


 「二人に同感だ」


 黒柿が意味が分からないことを言っているのは放っておくとして、話が脱線してきた。


 「……話しが戻るんだが、悪い人間じゃなくてもいい。学校中に広めるとすれば」

 

 話そうと思ったが、黒柿たちは兄貴呼びでの口論が未だに続いていた。


 ……帰ってもいいだろうか。


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[気になる点] 兄貴が急に敬語になっとる
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