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平穏は終わる

ギャグあり、シリアス有りのラブコメですが読みたい方はぜひお読みください!

 俺吉条宗弘(よしじょうむねひろ)は今日はすこぶる気分がいい。

 小説の新刊を買うことが出来たからだ。小説と言うのは例外を除き発売されるのは漫画より圧倒的に遅い。

 だからこそ、ずっと待っていた本が買えるというのは本当に嬉しいものだ。

 ハイテンションになり、思わずスキップしながら帰っていると、


 「キャ!」


 テンションは一気に冷めた。

 ……一体なんだ?

 疑問と苛立ちが募りながら女性の声であろう奇声が発せられた近くにある路地裏を見る。

 そこには複数のヤンキーであろう男達が金髪の女を二人襲うとしていた所だった。


 ……帰ろう。


 今、最低だって思った奴がいると思うが、仕方のない事なのだ。

 絶対に関わったらいけないパターンだ。

 揉め事にあうのは間違いない。

 俺は事なかれ主義者なのだ。

 女子生徒が危険な場面で実は格闘技をしているとか、古くから伝えられる武術をしているなどと、特殊な経験はない。

 普通の一般市民に不良が適う訳が無い。

 

 万が一正義感を振りかざして立ち向かい不良から守ったとしても、今後に報復されない可能性は零ではないし、何も見ていないふりをして帰るのが妥当な判断だ。

 ……ただ、一つだけ問題なのはあの金髪の二人に見覚えがある。

 基本俺は人を覚えられないが、あの二人だけは覚えている。

 俺と同じ学年でクラスメイトの美人で明るく、誰からも人気があり学園ナンバー2、3を争う二人だ。

 駄目だ。嫌な予感しかしない……それに俺には家で待っている妹がいる。あいつの為にも俺は早く帰らねばならない。

 そう自分に言い訳をして帰ろうとした時だ。


 「誰か!助け」


 「黙れ!」


 金髪の一人の悲痛な助け声が言い終わる前に男に口を塞がれたようだ。

 ……ああ!くそ!めんどくさいがしょうがない。

 こんなテンプレ場面を俺の前に出してくるなよな!


 「お巡りさん!こっちです!こっち!」


 鞄で顔を隠して指を路地裏に指して大声で叫ぶ。

 仕返しが怖いから顔を隠したわけではないぞ?

 無意味な暴力を後々振るわれない為に必要なことだ。

 断じて俺が怖くて報復を恐れているのではない!


 「クソ!あとちょいだったのに!逃げるぞ!」


 その男の声と共に不良のような連中は反対側の道から逃げて行った。

 ……はあ。どうして都会にはこういった連中が多いのか分からんが、まあ気にしてもしょうがないか。

 不良連中が逃げ帰った事に思わずため息を吐きながらその場を後にしようとしたが、


 「ちょ、ちょっと待って!」


 金髪の一人が、不良たちに襲われて乱れた制服を直しながら慌てた様子で止められる。

 まず服を綺麗に着てから話しかけてくれないと目のやり場に困るんだけど。

 因みに、容姿は覚えているが残念ながら他人にあまり興味がない俺なので、名前は知らない。


 「どうした?」


 「お巡りさんは?」


 「あれは嘘だ。俺の実力じゃ倒せないしな。ああ言うしかなかったんだ」


 そう言ってこれ以上関わるのも面倒なので改めて帰ろうとすると、


 「誰か分からないけど助けてくれてありがと!」


 もう一人不良に捕まっていた金髪の女の子も現れ、二人が頭を下げてお礼を言っているが、俺はどうしようもない気持ちになってしまった。


 ……俺クラスメイトなんですけどね!


 クラスで一人で読書をしているカースト最下層の人間をカーストの頂点に立つ二人に逆覚えられているはずがない。

 影も薄しって自分でも分かってることだし、本当に!本当に全然気にして何かないし!


 「気にすんな。今度から気を付けろよ」


 今の言葉は自分でも少しカッコイイんじゃないかと思ってしまった俺は間違ってない筈だ。

 背後にいるであろう二人に背後から手を振りながら家に帰るのだった。


 「ただいま」


 帰ってきた際に扱う基本の挨拶を伝えながらリビングに向かうと、パジャマ姿の妹、吉条愛奈(よしじょうあいな)がいた。

 夕方なのに、既にパジャマとはどういうことなのだろうか?とはいつも思ってしまうが、敢えて言わないであげる優しい兄。本当に優秀だと思う!


 「おかえり」


 ダイエット番組を見ながら現在進行形でスナック菓子を食べている妹が俺を見ないで呟く。

 果たして、今お前が見ている番組を見る必要があるのか?

 女の基準は良く分からないが小言でダメ出しをして夕飯のおかずを一品減らされては困るので黙認するのが一番だ。


 冷蔵庫にあるアイスを食べながら妹と同じくテレビを見ていると、こちらを向かずに話しかけられる。


 「そういえば今日ちょっと遅くなかった?」


 「ああ。ちょっと面倒事にあってな。本を買うだけのつもりだったんだが」


 「へえ。珍しいね。お兄ちゃんが面倒事に合うなんて」


 「本当だ。もうこれ以上はごめんだけどな。俺二階にいるから、飯が出来たら呼んでくれ」


 「はーい」


 二度とテンプレな定番イベントに出くわさないことを祈るしかない。

 妹は俺が言わなくても呼んでくれることは知っているが、一応伝え今日買った本を読もうと……。


 「本落した!!!!」


 「お兄ちゃん!近所迷惑!」


 妹に怒られてしまうが、俺は絶望するほかなかった。最高の一日は最悪の一日となってしまった。

 ――――本当に人助けをして碌な目に遭わないのはテンプレとして一番駄目だと思う!

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