漫才「自動販売機」
漫才14作品目です。どうぞよろしくお願いいたします。
自動販売機の前にて。ジュースを買いに来た人と、そこを通りかかった親切な人。
「あっ、しまった」
「どうかなさいましたか?」
「落としたコインが販売機の下に入ってしまったんです」
しゃがんで覗き込む。
「五十センチくらい奥にあります」
「手では届きませんか?」
「だめです。隙間が狭すぎて入りません」
「うーん、困ったなあ」
「そもそも、コインが小さすぎるんですよね」
「そうですよね。直径が五十センチあったら、簡単に取れたのに。まあ、今愚痴ってもしかたありませんがね」
「販売機を動かして取ることにしましょう」
「そうですね」
「よいしょ」
「ダメだ、びくともしない」
「重すぎるんですよ。中はジュースで一杯になっているんでしょうから」
「ジュースを全部買ってしまいますか」
「おお、そうすれば軽くなりますね。頭いいですな」
「売り切れランプが全部点灯しました」
「中が空っぽになったわけですね。これで動くでしょう」
「よいしょ」
「ダメだ、動かない。なんでなんだ?」
「あっ、この販売機、地面に杭で打ち付けてありますよ」
「本当だ」
「なんだよ、これじゃあどう頑張っても動くわけないや」
「こんなことが許されてもいいんでしょうか」
「まったくです、我々が持って行くとでも思っているんですかね。文句を言って取り外させましょうか」
「無駄ですよ。おそらくは、転倒防止のために不可欠ですとでも言って言い逃れされるのがおちです」
「くやしいなあ」
「別の方法を考えなきゃいけませんな」
「困ったなあ」
「コインのある場所まで地面を掘って行ったらどうでしょう」
「おお、名案ですね」
「空き缶をスコップ代わりに使いましょう」
「頭いいですねえ」
「なーに、たまたま閃いただけです。まぐれですよ」
「ご謙遜を」
「ははは」
掘り進めているところに、お巡りさんが通りかかった。
「あ、お巡りさん、僕達は怪しい者ではありません、本当です。落としたコインを取ろうとしていただけなんです」
「そうですか、勝手に道路を掘っちゃいけないんですか」
「わかりました。すみません、すぐに埋め直します」
「お巡りさん、なにか他にいい方法がありませんかねえ?」
「え? 掃除機を買ってきて吸い取る?」
「なるほど、頭いいですねえ」
「電気屋さん近くにあります?」
「え? 案内してくれるんですか?」
「ありがとうございます」
「親切なお巡りさんに出会えてよかったよかった」
読んでいただき、どうもありがとうございました。