帝国設立編~ラストバトル
「お前が相手なら全力で行くぜ!」
血気盛んなバトルが真の力を開放する。
「変身なんてダメだよ。君たちはタダの女の子なんだから」
しかしロキが微笑むと、突如力の波動が止まる。
「……おいおい! どうなってんだよ!」
バトルは自分の両手を見て叫ぶ。何も変わっていない。
「な、なんじゃこれは!」
「体が重いぞ!」
タマモとリムは自身の体を見る。何の変哲もない女の子だ。
「ゆ、融合が解けた!」
ジークもびっくりして、分離したスクとヤタに顔を合わせる。二人とも普通の女の子の姿だった。
「ジーク様! 未来が見えなくなっちまった!」
「不老不死の力が感じられない!」
二人とも大慌てだ。いくら真の姿になろうとしても力が湧いてこない。
「空間支配! 現実改変! これがロキの力か!」
ジルは唇を噛む。
「なんてことだ! これでは戦えない!」
「まさか人間に変えて力を封じるなんて!」
「うにゅ! どうしよう!」
「ふざけた話だ! 今の私たちは人間の女と変わりないぞ!」
ベル、ラファエル、青子、ブラッドは困惑して互いを見合う。
「よそ見してる暇は無いよ?」
バシンとロキの裏拳がバトルの顔面にぶち当たる。
「が!」
バトルは弱弱しい女と同じく、地べたに転がった。
「バトル母さん!」
ジークは生身でロキに殴りかかる。
「全然遅いね」
簡単にカウンターを顔面に叩き込まれ、力なく地べたに転がる。
「ジーク!」
「かみ殺してやる!」
「調子乗るんじゃなかこのクソガキ!」
ジル、タマモ、リムがジークを守るためにロキに立ち向かう。
「ほんと、女の子だね」
しかし三人の拳はポスポスと、ロキの体を撫でるだけだった。
「女の子は殴っちゃいけないかな?」
バシンとロキは三人にビンタを食らわせる。
「きゃ!」
三人は女の悲鳴を上げて、倒れた。
「い、いたい! 無敵結界も無くなってる!」
「なんてこっちゃ! 力が戻ればあんな奴!」
「く! 頬を叩かれるのがこんなに痛いとは!」
ジルたちはビンタ一発で動けなくなってしまった。
「たとえ人の身でもジークを放っておけません!」
「ジーク守る!」
「女にしたくらいで私たちを止められると思うな!」
「殺してやる!」
ラファエル、青子、ベル、ブラッドが突撃する。しかし、その速度は女と同じで、見る影もなく遅い。
「ダメダメだね」
バシンとロキがビンタすると、四人は動けなくなってしまった。
「なんて力だ……」
足に来たジークは必死に立ち上がる。
「勇気があるね。さすが僕の子」
ドスンとロキの拳が腹にめり込む。
「ぐ!」
ジークは胃の中身を全て吐き出す。ジークも魔法が使えなくなっていた。
「これが悪神ロキの力だ。いくら君たちが最強でも、僕にとっては最強のシロアリに過ぎない」
ロキはジークの胸倉を掴むと、冷たい目で、ジークを見下す。
「さあ、これで実力の違いは分かっただろ? 素直になるんだ」
絶望的な力の差。ジークは顔を伏せるばかりだ。
「……ジーク」
母たちは己の無力さを呪うことしかできなかった。
「嫌だ!」
ジークはそれでも諦めなかった。
裏切りが許せなかった。母を見捨てたことが許せなかった。自分を捨てたことが許せなかった。
何より、ジルたちを殴ったことが許せなかった。
「お前なんかに絶対に負けない!」
ジークはロキの腕に噛みつく。
「ん! さすがに痛いね!」
ジークを突き飛ばして手を振る。噛み跡から血が滴る。
「この状態の僕は滅茶苦茶強い人間だから、噛まれると痛いんだよね」
ロキは相変わらずヘラヘラした態度だった。
だがジークは違った。
突如、力が湧き上がった。
「だったら死ね!」
そしてロキも反応できない速さで、顔面を殴り飛ばした。
「ぐ!」
衝撃で数メートル転がり、地面に倒れた。
「ああくそ!」
ジークは再び膝を付く。力が嘘のように抜けていく。
あと少しでロキを倒せるのに!
「いやー! やっぱり僕の子供だな。一瞬とはいえ、現実改変できた」
ロキは震える足で立ち上がる。
ジークは覚悟を決める。
「やーめた! 飽きちゃったよ!」
突然ロキは満面の笑みで両手を上げる。同時にジルたちに力が戻る。
「何を考えている?」
力を取り戻したジルたちはジークに駆け寄り、ロキをけん制する。力が戻ったとしても、ロキに勝てるとは思えないから、攻撃できない。
「僕は悪神だからね! やることなんて行き当たりばったり! 飽きたらもうどうでもいいのさ!」
ロキはヘラヘラと、ふらつくジークに目を向ける。
「君のお母さんはとても愛おしい人だった。悪神である僕を愛してくれた」
表情を変える。昔話を語るように、優しい目だ。
「でも神が人を愛してはいけない。それが神のルール。悪神の僕はそんなの知ったこっちゃないけど、オーディンやゼウスたちは違った」
ロキは初めて、苦々しい顔をする。
「君の母さんはゼウスとオーディンの剣を受けた。さすがの僕も、一人じゃあいつらに勝てない。だからこそ、色々やったのさ」
ロキは背を向ける。
「今回は引き分けだけど、もしも納得いかなかったら、もっと強くなって天界に来ると良い。そうしないとゼウスやオーディンに睨まれる。さすがの僕も、守り切れないからね」
「待って!」
ジークは消えゆくロキを呼び止める。
「父さん……母さんの名前は? そして僕の本当の名前は?」
ジークは真実を知っても複雑だった。だからこそ、繋がりが欲しかった。
「シギュン。偶然だけど、天界での僕の妻と同じ名前だった。そして、残念だけどお前の名前は無い。名づける前に、シギュンは殺されてしまった」
ロキは天を仰ぐ。涙が宝石のように一粒零れる。
「だからこそ、お前の名はジーク。魔物の王であり、僕の子であり、シギュンの子であり、魔物たちの子供さ」
ロキは溶けるように消え去った。
「全く、ふざけた奴だ」
ジルたちはほっとして座り込む。
「昔々もけた違いに強かったからな……あいつとだけは戦いたくねえ」
「昔々も殺されかけたからな。今回みたいに手のひら返しされなければ死んでいた」
「疲れた……」
「本気を出したら、私たちは一瞬で消滅させられていたでしょうね」
「あいつなりの、子供の接し方だったのかな?」
「迷惑な話じゃ。素直に事情を説明すればいいのにのぅ」
「神々の考えることは良く分からんのぉ」
一同は安どで立ち上がることもできない。腰が抜けてしまった。
「でも、ようやく終わった」
ジークは一人、微笑む。
「これで大陸は僕の物だ。それに、これから先勇者が召喚されることも無い」
天を仰いで星を見る。
「嫌な父さんだ……いつか必ず、完膚なきまでぶっ飛ばしてやる!」
ジークは拳を握りしめて、泣き笑いをする。
いつか必ず、父親をぶっ飛ばし、和解する。
その決意を拳に込めて。
次で最終回です。
今回の結末は納得できない方も居るかもしれませんが、僕の趣向として、肉親には簡単には勝てないがあります。ロキ自身作中最強なので、一発殴るのが限界でした。
ロキも殺すつもりは無かったので、落とし所としては充分だと思っています。




