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国家設立編~最終章 魔物の国、シギュン国、建国

 アトランティス国の皇都を制圧し、勇者を倒し、アトランティス皇帝を捕らえた。おまけにけが人は無し。

 なんだかんだあったけど、結果を見れば完全勝利だ。


「首尾はどう?」

 皇都を制圧してから三日後、皇都の玉座でゴルドーとコーネリア、アレクシアに状況を確認する。


「教会はジーク様を神と認めました。当然のことですが、嬉しいことです」

 アレクシアはうっとりとした表情で告げる。夢心地みたいだ。


 ラファエル母さんと一緒に協会本部へ行ったのが効いたみたいだ。あいつら、最初はしどろもどろで狼狽えていたけど、ラファエル母さんが力をちょっと見せたらすぐに手のひらを返した。寄付金もたんまり渡したら靴も舐める勢いだった。


 あれからわずか一日しか経っていない。それでこの結果。

 ああいう奴らは話が早くて助かる。

 絶対に部下にしないけど。


「食料と薬の配給、病人の治療、そして失業者の雇用。すべて順調です」

 ゴルドーはハッキリした声で書類を読み上げる。

「ゴルドーは凄いね。僕の指示が無くても全部やっちゃう!」

「恐れ多いことです。あなた様の故郷である古の森とお母さま方の力が無ければ不可能なことでした」

 微笑みかけると、微笑み返す。

 良い部下だ。とてもよく働いてくれる。


「民たちは最初こそジークを恐れたが、ここ三日で恐怖は消えた。だからこそ、興味を持ち始めた。ジークはなぜ、皇都へ攻め込んだのか。そもそもジークとは誰か。そろそろ、政権交代の日だ」

 コーネリアが微笑したので、嬉しくなる。


「国が欲しいとは思っていたけど、まさかアトランティス大陸の支配者、アトランティス国が奪い取れるとは思わなかった。これで大陸は僕の物か」

 玉座に座り直し、背もたれに背中を押し付けて、天井を仰ぐ。


 まだ支配者と呼べる立場ではない。国家設立を表明すれば、反感を持つ国が確実に現れる。


 でも恐れる必要はない。他国は未だに大飢饉と大恐慌の傷が癒えていない。

 少しずつ、僕に助けを求める。

 いずれ、すべての国が僕に屈する。


「最初は町が欲しいだけだったのに、まさかここまで来るなんて」

 それに前はタダの冒険者だった。それが今は大陸の王。

 随分と出世したなぁ。


「これまでくればようやく、母さんたちに恩返しできるかな」

 両側に座る母さんたちを見る。


「そうだな。ジークが大陸の支配者になれば、エルフといった魔物たちも、差別から脱することができる。私ももう、戦わなくて良い」

 ジル母さんは安心したように目を瞑る。


「ワシたちは今も昔も楽しんどるから幸せじゃ!」

「ジークが傍に居ればずっと幸せじゃ!」

 タマモ母さんとリム母さんはニッコリと笑う。


「ジークが魔物と人間の王となった。当然のことですが、それでも、嬉しいですね」

 ラファエル母さんも安心したようにため息を吐く。


「私はジークの手伝いをする過程で十分楽しめた。我が子である虫人たちは、人々や魔物と手を取り合える。それだけの知性がある。それが見れただけでも十分だ」

 ベル母さんは小さく笑う。


「私を見ても怖がる奴が少なくなった。寂しくはないな」

 ブラッド母さんはカッコつけたようにニヒルな笑みを浮かべる。


「お菓子美味しい」

 青子は満面の笑みでボリボリとポテトチップスやチョコレートを食べる。食べかすは落とさないように。


「俺は詰まらん! ジークのために戦ったのに文句を言われるなんて!」

 バトル母さんは一人唇を尖らせていた。


「バトル母さん。あれは母さんが悪いんだよ? 母さんが全力で戦ったせいで、みんな死んじゃうところだった」

「あんなんが全力な訳無いだろ~千分の一の力も出してないよ~」

 バトル母さんは一人不貞腐れる。

 やれやれ、あと三日はへそを曲げたままだ。


「ロクサーヌたちは、ここまでよくやってくれたね。ありがとう」

 バトル母さんは放っておいて、ここまで付いてきてくれたロクサーヌたちに微笑む。


「私たちの心は、ジーク様にお会いした時から一時も変わりません。これからもジーク様のお世話をさせていただきます。それが私たちの喜びです」

 ロクサーヌたちは恭しく頭を下げる。


 彼女たちと出会った。そして彼女たちが、古の森の近くに町を作った。そこが始まりだった。


 懐かしくて、涙が出そうだ。


「君たちに会えて、本当に良かった。ありがとう」

「……私たちも、ジーク様に会えて、本当に幸せです」

 皆、少しだけ、涙を流した。


「ジェーンは初めて会った時、びっくりしたでしょ」

「それはもう! でも今思うと、あれで良かったと思います」

 ジェーンは玉座の間から見える町並みに目を向ける。


「あなた様と出会わなければ、今も私は銀行で働いていたでしょう。もしかすると、失業して死んでいたかもしれません。あなた様と出会ったからこそ、ここに居る。幸せです」

 ジェーンはニッカリと、元気に笑ってくれた。


「ヴァネッサはどう?」

「あなたと出会えて幸せよ。もしもあなたが来なかったら、ボッタ商会の奴隷で、今も人々が苦しむのを見ているだけだったから」

 ヴァネッサは懐かしむように目を瞑る。


「アレクシアは僕と出会ってどう?」

「とても幸せです!」

 ハッキリと断言する。


「ジーク様が居なければ、私は今も病人の手を握ることしかできませんでした。誰が何と言おうと、あなた様は私の神です」

 慎ましやかな声が響いた。


「ゴルドーは驚いた?」

「驚きましたが、この結果を見るなら、納得するしかありません。王の時を思うと悔しくも思いますが、同時に、何もできなかった情けない自分を乗り越えられた。今は誇りに思います」

 ゴルドーは深々と頭を下げる。


「ユーフェミアはびっくりしたでしょ。というか僕がびっくりした」

「運命的な出会いで、思い出すだけで顔が赤くなってしまいます」

 ユーフェミアは両手で頬を押さえる。真っ赤だ。


「コーネリアは可愛いよね!」

「どうして私にはそんな言葉なんだ!」

 コーネリアはゴホンと咳払いする。


「私は国のため、大陸のために行動する。それがジークにとって良い結果となる。そう信じているからな」

「ありがとう。これからもよろしく」

 皆の言葉を聞いて安心した。


 これなら、これからもやっていける。


「それで、国名はどうしましょう?」

 ゴルドーの質問に、言葉が出なくなる。


「国名?」

「ええ。まさかアトランティス国と名乗るつもりでしたか? それでは政権交代したという示しがつきません」

 全く考えていなかったため、目が泳ぐ。


 どうしよう?


「シギュンだ」

 突如背後から声がしたので振り向く!


「ロキさん!」

 いつの間にかロキさんが立っていた!




「ロキ! 何の用だ!」

 母さんたちが一斉に臨戦態勢を取る。


 凄い警戒の仕方だ。


「ジークが偉くなったからね。お祝いの言葉を贈ろうと思って」

 ロキさんは居に返さず笑うだけ。

 母さんたちを全く怖がっては居ない。

 対して母さんたちはロキさんを異常に怖がっている。張りつめる表情がそれを物語る。


「何の用ですか?」

 正直、どこが怖いのか分からなかったけど、母さんたちの手前、睨みつける。


「言っただろ。お祝いの言葉を贈りに来たって」

 ロキさんは僕の前に回ると、そっと、僕の頭を撫でる。


「ここまでよく頑張った。偉いぞ」

 その優しい声が、とても嬉しかった。


「ロキ! ジークから離れろ!」

 ジル母さんたちは今もロキさんを睨んでいる。


「母さんたち、落ち着いて。ロキさんは僕たちの敵じゃない」

 手のひらで母さんたちを止める。


「ジーク! お前はそいつを知らないからそんなことが言える! すぐにそいつから離れろ!」

「落ち着け! 僕はそう言った」

 母さんたちを睨みつける。

 いくら母さんたちでも、無法は許さない。


「……ロキがジークを連れてきた。なら、今だけ信用してやろう」

 母さんたちは渋々と椅子に座った。


「それで、シギュンって何ですか?」

 場が落ち着いたのでロキさんに笑いかける。


「僕の奥さんの名前。良い名前だろ」

 ロキさんも美しい顔で笑う。


「シギュンですか。思いつかないし、それでいいか」

 なぜかフレーズが気に入った。

 それにリム母さんを筆頭に、母さんたちの名はロキさんからヒントを得たものだ。

 ならそれに倣うことにしよう。


「ありがとう。じゃあ、僕は少し出かけて来るよ」

「何じゃ? いつもみたいに訳の分からんこと言って消えんのか?」

 ロキさんの背中をタマモ母さんが睨む。


「僕はしばらく、ジークの傍に居たいからここに居るよ。邪魔しないから、安心して」

 ロキさんは手のひらをヒラヒラさせて、歩いて外へ出て行った。


「ヘラヘラした態度に油断するなよジーク。あいつはとてつもなく強い」

 バトル母さんがギリギリと歯を食いしばる。

「何があったの?」

 尋常じゃない態度に、思わず問う。

「昔、あいつが遊び半分で喧嘩を売ってきたことがあった。油断した私たちも悪かったが、酷い戦いだった」

 ジル母さんは陰鬱な表情でため息を吐く。皆も一緒にため息を吐く。


「そんなに悪い人なのかな?」

 そんなに悪い感じはしないけど?

 母さんたちの勘違いじゃないかな?


「そ、その! とにかく、何事も無かったようですし、そろそろ政権交代をしませんか!」

 隠れていたユーフェミアがひょっこりと顔を出して元気いっぱいに作り笑いをする。母さんたちの殺気から逃れたコーネリアたちも姿を現す。


「尋常じゃない因縁があるみたいだが、今は敵対していないようだし、建国宣言のことを考えたほうが良いだろう」

 コーネリアは姿を現すと咳払いする。


「そうだね。今は分からない未来を心配するよりも目先のことを考えよう」

 立ち上がると、皆でアトランティス皇帝たちが居る牢へ向かった。




「来たか化け物ども!」

 アトランティス皇帝とその家族は、僕たちを見ると吐き捨てる。

「お父様! そんなことを言ってはダメです! 刺激してはいけません!」

 唯一、第一王女のオリビアだけが、立場を弁えていた。


「やっぱりいい子だ。君は殺さない」

「は?」

 オリビアは目を丸くする。後ろでコーネリアが盛大なため息を吐く。


「私を生かす? ならばお父様たちも助けていただけるのですか?」

「それは出来ない。君のお父さんたちは僕たちの敵になる。必ずね」

「ならば私もあなたの敵になります! 一緒に殺してください!」

「家族思いのいい子! 君みたいな可愛くて素敵な子は殺さない。そして僕と仲よくしよ!」

 オリビアの背後に瞬間移動して、トンと軽く後頭部を叩く。


「あ……」

「今は忙しいから、また後でね」

 眠らせたオリビアをコーネリアたちに預け、アトランティス皇帝と向き合う。


「なるほど、所詮は下等生物だな。下半身で物を考える知れ者だ」

「良い度胸だね! 最後だからもっと言っていいよ」

 鼻で笑うと、アトランティス皇帝はぐうの音も出なくなる。


「言っておくけど、本当に最後だ。何せ、今から君たちを洗脳する。君たちは自由意志も何もなく、政権交代の駒として動き、三日後に処刑される」

「何だと!」

 アトランティス皇帝は白目になるほど驚く。


「君たちは悪政を敷いた。さらに数々の罪を犯した。だから罪を認め、政権を誰かに渡す必要がある。でも君たちはそんなことはしない。だから洗脳する」

「そうか! このまま私たちを処刑しても民や属国の信頼は得られない! だから一芝居する! そうすれば争いなく国を奪える!」

「僕は戦乱を望んではいないからね。攻め込んで奪いましたじゃ属国が離反する。でも君たちに政権を渡してもらう形なら、属国も文句は言えない」

「愚か者が! お前たちは私たちの国に攻め込んだ! 民は忘れんぞ!」

「覚えてるかな?」

 チラリとアレクシアを見る。


「覚えています。愚かなる皇帝を断罪しにやってきた神であると」

「……何を言っている?」

 アトランティス皇帝はアレクシアの言葉に目をパチクリさせる。


「僕は民に食事と薬を与えた。病人も治した。経済も立て直している。教会も僕を神と認めた。あとはお前が僕に政権を渡すと言えばそれで終わる」

「わ、私が愚か? ぐぐ! 屑どもが! 私を誰だと思っている!」

 アトランティス皇帝は拳を握り込んで、何度も床を叩く。見苦しい。


「もういいや! タマモ母さん、こいつらを洗脳しちゃって」

 クルリと踵を返す。もうこいつらに用はない。


「私を殺したくらいで世界の支配者になれると思うな! 権力は魑魅魍魎! アトランティス国が無くなったら、次の支配者は俺だと挙って馬鹿どもが立ち上がる! 必ず戦乱が巻き起こるぞ!」

「ならばその戦乱を治めて見せる」

 振り向かず進む。


「待て! 手を組もう! 私が居なくなれば、No.2の国力を持つ同盟国やNo.3の国土を持つ属国が牙を向く! 私の養子になれ! 第一皇子だ! 女も金も手に入る!」

「お前なんぞの養子になったら母さんたちが汚れる」

 振り向かず、牢を出る。


「あ、悪魔が! 必ず天誅が下るぞ!」

 足を止めて振り返る。


「僕は悪魔じゃない。魔物の王、ジーク。たとえ神様でも、僕には従ってもらうよ」

 笑ってやると、タマモ母さんがパチンと指を鳴らした。




 三日後、アトランティス皇帝たちの処刑を見物しようと多くのやじ馬が集まる。

「執行しろ!」

 宣言とともにギロチンが落ちて、アトランティス皇帝たちの首が落ちる。


「皇帝万歳! 皇帝万歳!」

 人々の割れんばかりの拍手が処刑場に響く。


「おめでとう、ジーク」

 遠くでロキさんも、拍手をして、歓迎してくれた。


「ありがとうございます」

 僕は手を振って、拍手に応えた。

頑張ります!


次回から帝国建国編です。

ジーク君に大陸の支配者になってもらいます。

お母さんたちはそろそろベンチ行きか。見守るだけで充分なくらいジーク君は強くなったし。

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