国家設立編~50億VS2万
バトルの力を見て、岡部は唖然とする。
戦闘力50億。それで本気でないと知った時には、恐ろしくて堪らない。
「いったい何をしやがった!」
戦ったことの無い勇者たちは実力差も分からずパニックになる。
何せ、バトルが発する赤い闘気で近づけないのだ。暴風のような風で立つことさえできないのだ。
勇者たちの戦闘力は一人2万程度で、全員合わせても200万に届かない。
勝負の結果など初めから分かっている。
「ん? どうした? こっちはもう準備ができてるぜ」
バトルは不審に思ったようで、少しずつ勇者たちに近づく。すると勇者たちは木の葉のように舞う。
「ば、化け物が!」
すっかり怖気づいた勇者は、バトルから後ずさるばかりだ。
「まさかお前ら? この姿になっただけで怖気づいたのか? そんなに弱いのか?」
バトルは詰まらなそうに、闘気を収める。
風が止んだ。
「さあ、これなら良いだろう。さっさとかかってこい」
バトルは苦々しくため息を吐くと、ちょいちょいと手招きする。構えてすらいない。
「くそったれ! スピードでかく乱しろ!」
「わ、分かりました!」
勇者たちは風のように素早い動きでバトルに接近する。
「もらった!」
体格の良い男性の拳がバトルの顔面を叩く。
男性の体は爆発四散した。
「い、いったいなにが?」
勇者たちは狼狽えるばかりだ。
バトルの体は高密度な魔力と筋力を秘めた戦闘力の塊である。
見た目は人型でもその実、天も貫くほど高い巨人と同じ質量がある。
男性が死んだのは、バトルという太陽に触ったから。
それだけであった。
「詰まらない連中だ。あれほどデカい口を叩くからどれほどかと楽しみにしたのに……時間の無駄だったか」
バトルは無表情になると闘気を開放する。それだけで建物が吹っ飛び、地割れが勇者たちを飲み込む。
「ちょっと待ってくれ!」
勇者たちは地割れに飲み込まれ、建物に押しつぶされ、闘気で体を焼かれた。
しかし、たった一人だけ、生き残りが居た。
それは、学生とともに転移した男性教師だった。彼は柔道選手のように体格が良かったが、今は情けなく腰を引いている。
「悪かった! でももう気が済んだだろ! 殺し合いは良くない!」
生徒たちが死んだのに命乞いしかしない。この男が調子に乗ったから、学生たちも調子に乗ったのだが、今のこいつはそんなことすべて忘れ、立派な聖職者面をしている。
「馬鹿かお前は? お前は俺に勝つか、死ぬかの二つしか選択肢はない」
無慈悲な声が響く。
「お前はジークを殺そうとした。ならば敵だ。俺が死ぬか、お前が死ぬか。答えは二つに一つだ」
バトルの目頭が険しくなる。するとチリチリと空気が焦げる。
そして極太の雷がバトルの手に落ちる。
それは、身の丈100mを越える雷の剣となった。
「死ね」
バトルは思いっきり、剣を振りかぶる。
「た、助けて!」
それが、男の最後の言葉だった。
バトルが全力で振り下ろすと、次元ごと男を真っ二つに切り裂いた。
「弱者は強者に媚びるのに。そして強者はジーク。てめえはジークの靴を舐めるべきだったな」
バトルは鼻を鳴らすと、人間形態へ戻った。
「いやー! 終わったぜ! かっこ良かっただろ!」
バトルはジークに手を振る。
「凄くかっこ良かったよ! 次元を切り裂いたから大変なことになってるけどね!」
「え?」
バトルが後ろを向くと、次元の裂け目がメリメリと大きくなり、空間を飲み込んでいく。
ブラックホールだ。
「やっべこれどうしよ!」
バトルはオロオロとブラックホールの周りをうろつく。その間にもブラックホールは巨大化し、空間を削り取っていく。
「あれー!」
そしてバトルはスッポリとブラックホールに飲み込まれた。
「馬鹿は去ったな」
「これで静かになりました」
「あいつと居るほうが怖いわ」
「二度と関わりたくない奴じゃ」
「早く帰って子供たちにご飯を食べさせないと」
「良い奴だった。最後の最後まで笑わせてもらった」
「お腹空いた」
ジルたちは全く気にせず、欠伸をした。
「いやいや、助けようよ。それに次元の裂け目はどんどん大きくなってるし」
このままだと世界がブラックホールに吸い込まれてしまう!
「どうしてあいつは私をイライラさせるんだ? ジークのことも少しは考えろ!」
ジルは手を掲げると、ギュッと、ブラックホールに向けて拳を握り込む。
ブラックホールは握りつぶされるように消え去った。
「これで終わりだ。アトランティス皇帝たちを殺そう」
ジルは何事もなく歩き出す。タマモたちもそれに続く。
「ちょっと母さんたち! バトル母さんを助けないと!」
「あんな程度で死ぬ奴なら私たちも苦労しない!」
ジルが叫ぶと、ズバリと空間が切り裂かれる!
「いや~! 焦った焦った! 危うく昼飯を食い逃すところだったぜ!」
そしてバトルが無傷で帰ってきた。
「バトル母さん……もう戦わせないから」
「……え!」
ジークが疲れ切った顔で笑うと、バトルは驚愕した。
ちなみにバトルが戻ってきたことで、またブラックホールができたため、ジルがしっかりと後始末した。
こうして世界は危機を脱した。
「異世界転移したら宇宙を滅ぼせる神様に睨まれたんだけどどうしたら生き残れるでしょうか?」
岡部はぽろぽろと儚い涙を流しながら、諦めの笑みを浮かべた。
ちなみに勇者の中で、岡部と同じく常識人だった美紀子はしっかりとジークが守ったため、生き残りました。
ブラックホールに飲み込まれたくらいで、ブラックホールを無傷で消せないで最強を名乗る?
そんなんじゃ甘いよ
しばらくお母さんたちは戦わない予定です。強すぎてジーク君が目立たないからね。
あと次の話で国家設立編の最終回を予定しています。




