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国家設立編~第一王女は素直になれない (勇者発見一日前)

 ジークがゴルドー国を支配して2日目の昼、ゴルドー国は魔物の力に酔いしれていた。


「治ってる!」

 ある男は元冒険者だった。ゴブリンとの戦いで毒の矢を膝に受け、片足を切断する重傷を負った。それからは、乞食として、惨めな路上生活を行っていた。

 軽蔑の眼差し、いつも満たされない腹、金を稼げないからゴミ扱い、誰にも好かれない人生。やり直したいと何度も願った。

 それが叶った! 奇跡だ!

「ありがとうございます!」

 男はブラッドに何度も何度も頭を下げる。

「ジークに感謝しろ」

 ブラッドはそう言うと、別の男の治療を始めた。


「そんな! 治ってる!」

 ある女は結婚相手から壮絶な虐待を受けていた。酔った勢いで煮えたぎった食用油をかけられた火傷の痕は、醜く顔に刻まれた。

 好奇の視線から逃げるため、家に閉じこもった。支配者となった夫が死んで、ほっとしたのと、これからどうやって食べて行けばいいのかと絶望した。

 それらはすべて過去の出来事となった。

「ありがとう!」

 女は青子の手を何度も握り、感謝する。

 青子は欠損した個所の細胞を作り直すことができた。ブラッドが魔法なら、こちらは特性だ。スライムは心臓や肺に腕、皮膚などあらゆる細胞となる隠れた特性があった。

「ジーク、好き?」

 青子は治した女に首を傾げる。

「す、好きです!」

「よし!」

 青子は女が頷くと、満足げに別の患者の治療を始めた。


「ま、魔人だ! 本当に魔人になれた!」

 ゴルドーの元部下である宮廷魔術師の隊長は、己の肉体が人間を越えたことに震える。

 彼に限らず、魔術師というのは、魔術を極めたいと願う変わり者だ。

 魔術は神に与えられし才能であり、それを自由自在に操る魔術師は神の代行者と、昔は考えられていた。

 今は違うが、それでも、古いタイプの魔術師は、強い自負心を持っていた。

 特にこの隊長は、ひときわ魔術に拘っていた。

 だから魔王ジルが攻め込んだ時、かすり傷一つ付けられず、睨まれただけで膝をついたことを死ぬほど悔やんでいた。

 だからこそ、魔王ジルが仲間になり、魔術を教えてやると言った時、一泡吹かせてやる! と思い、魔人にしてくれと願った。

 そんなことは無理だと分かっていた。魔人になる方法など解明されていない。魔人は100万人に一人、突然変異で現れる奇跡の存在だ。魔王ジルがどれほど強くても、自分たちを魔人にすることなど不可能と高を括っていた。

 要は、いくらお前でも無理だろうと、嫌がらせをしただけだった。

 その認識は間違いだった! 愚かなのは自分だった!

「魔人になり、人間を越えるのは簡単だ。魔人になってからのほうが遥かに長い鍛錬を要する」

 ジルは次の魔術師の頭を掴み、念じる。それだけで魔術師は人間から魔人へ変わる。

 ジルは希望者となる魔術師たちを、魔術を極めし者だけが到達できる魔人へ変えていく。

 ジルはまるで息を吸うかのように簡単にやっている。もちろん、魔術師たちは雷に打たれたかのような衝撃に包まれている。

 一時間で100人の魔人が誕生した。どんな才能の無い者も一瞬にして国を滅ぼせる力を手に入れた。

 だからこそ、魔人になったからこそ、皆はジルの実力に戦慄する。

 強くなったからこそ分かる。

 100人の魔人が束になっても、ジルはため息一つで皆殺しにできる。かすり傷一つ付けることすらできない。

 ジルは人間でありながら魔人となり、世界を滅ぼす古の森の魔物と同等の力を手に入れた。

 魔王の実力に、尊敬と畏怖を覚えるばかりだ。

「ジル様……どうか私たちの師匠となってください」

 魔人たちは、疑問の余地なく、ジルに跪いた。

「ジークに忠誠を誓え。そしてジークの役に立て。そのためにお前たちを魔人にした」

 ジルは眉一つ動かさず、命じた。


「なんと力強い剣技だ……」

 騎士たちは鬼神であるバトルの剣舞にため息を吐く。

 動きに一つの無駄も無い。それでいて、一振り一振りが人間を両断できる風切り音を放っている。

「よし! 次は実践だ! 手加減してやるからかかってこい!」

 バトルはウキウキと四股を踏む。それだけで闘技場にヒビが入る。足音は地震のようだ。

「お相手お願いする!」

 勇ましく、元騎士団長が闘技場に上がる。

 彼は昔、SSSランクの冒険者にも勝ったほどがある実力者だ。腕の腱を切ったため、戦線を離脱したが、今は若返り、現役の力を取り戻した。この国で一番の実力者だ。経験と技量は騎士の到達点と言って過言ではない。

「さあ! いつでも来い!」

 バトルは手招きし、騎士団長を挑発する。

「後悔するなよ!」

 騎士団長は十数メートルの間合いを瞬き一つの時間で詰める。そして間髪入れず剣をバトルの脳天に振り上げる!

 しかし、振り下ろすことはできなかった。

 その前に、バトルの剣が喉元に突きつけられていた。

「……いつの間に……」

 騎士団長は呆気にとられていた。

 振り上げるまで、バトルは動いていなかった。

 簡単な話だ。

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 それだけだった。

「まだまだスピードが足りねえな! でも、良い動きだ! もっと頑張ればジークの練習相手になるかもな!」

 バトルは赤子の手を捻る感覚で笑う。それだけで見ている者の心は折られる。

 どれだけ努力しても、足元にも及ばない。絶対的な力の差。

 剣に生きる男たちは、肌で格の違いを思い知った。

「鬼神、バトル様……どうか、我らに剣技を教えてくれ」

 戦いの神であるバトルの元で学ぶ。それは戦士たちにとってこの上ない喜びであった。

「良いぜ! ジークと一緒に頑張ろうな!」

 バトルはあっけらかんと大笑いした。


「虫を操るのですか……」

 農家や畜産を営む地主たちは、ベルの能力を見て唾を飲み込む。

「私の可愛い子供たちだ。可愛がってくれ」

 ベルは気軽に、地主たちに虫を操る力を与える。

 農業や畜産で害虫は大きな敵となる。

 害虫の対策だけで金が取れるほど、緊急性の高い対応が必要である。

 世界を襲った大飢饉も、元を正せば害虫だ。

 その被害を0にできる。魚に潜む寄生虫や牛や豚に集るハエや蚊、ノミやダニの被害を0にできる。

 数千億の価値がある力をベルは気軽に与えた。

「さすが、虫の女王です」

 地主たちは舌を巻くことしかできなかった。

 こんな能力が忠誠を誓うだけで手に入る。

 もうここから離れることは無理だと悟った。




 二日目の夜になるとジークがゴルドー国の王となった祭りが行われた。民はジークが攻め込んだ事など忘れ、救世主として迎え入れた。

「なんで皆してあいつを歓迎するの!」

 ただ一人、コーネリアを除いて。

「どうすればいいの? もう誰一人ジークに逆らおうなんて奴居なくなった! それどころか悪く言おうものなら殺される勢いよ!」

 コーネリアは爪を噛んで自室でウロウロと歩き回る。彼女はジークを認めていないため、未だに召使などが使用する質素で狭い部屋を割り当てられている。

「そりゃ王だからたくさん女を侍らすわ! 子供を作るためだもの! でも限度があるでしょ! なんで朝から晩までイチャイチャしてるの! それじゃ王の威厳なんて何もないわ!」

 コーネリアはジークがハーレムを築くことに文句は無かった。ただ王の自覚がないと責めていた。

「あれだけ魔物たちに信頼されているのに勿体ないわ! あんなに凄い力を自由自在に使えるなら、絶対に大陸を支配できる! でもああいう生活態度だと周りに示しがつかない! 魅了を使って女を良いようにする行為が問題なのよ!」

 コーネリアはジークが嫌いではなかった。彼女自身、家族や民と同じく、ジークを悪く思う気持ちなど消し飛んでいた。

 ただ、彼女が思い浮かべる理想の王と違っていた。それが彼女に反抗心を持たしていた。


「……仕方がないわ」

 コーネリアは意を決してジークと一対一で会う覚悟を決めた。




 コーネリアはジークの自室のドアをノックする。するとウキウキ顔のジークが顔を出す。

「あれ、コーネリア? 今日はメリーたちが来るはずだったけど?」

 母親の名前が出てコーネリアのこめかみに青筋が出る。

「話がある」

 コーネリアはキツイ瞳でジークを睨む。

「え、ええ。良いですよ」

 ジークは珍しく狼狽える。コーネリアの雰囲気が、今までの女性と違い、厳しいからだろう。


「どんな話ですか?」

 ジークは慣れた手つきでお茶菓子を小ぶりのテーブルに置く。

「お前に、王の自覚を持って欲しいと思ってな」

 コーネリアは椅子に座らず、ジークの前で腕組みする。

「王の自覚ですか? 僕はちゃんと持ってるつもりですけど?」

 ジークは朗らかな笑みでベッドに座る。

「王は女と四六時中キスをしない。節度を持って行動する」

「あー。それついに言われちゃったか。皆、歓迎してくれてたから良いかなって思ってたんだけど」

 ジークは苦笑いしながら頭をかく。


「魔物は一夫多妻制だったり一妻多夫だったりするんです。要は人間の価値観とは違う。そして僕は魔物の王です。だから許して欲しいなって」

「それは魔物の価値観だ。ここは人間の世界だ。大陸を支配するなら、ある程度、人間の生活に合わせるべきだぞ」

 コーネリアはまるで説教ママのように小言を言い始める。

「確かに、王が何人も妻を持つことはある。しかし、それは子供を作るためであって、快楽に溺れるためではない」

 うんたらかんたらうんたらかんたら。長い。

「ははは。耳が痛いや」

 ジークは笑って、コーネリアが収まるのを待つ。


「これだけ言ってもまだ分からないのか……」

 コーネリアは十分ほど、たっぷりジークへ説教したが、手ごたえを感じなかったためため息を吐く。

「だって……皆可愛いんですよ! それなのに我慢しろって、お腹が空いて死にそうなのにご飯を我慢しろって言うようなものですよ!」

 ジークは苦笑いで押し通す。

 話し合いは平行線だ。

「あらあら! お姉さまがいらっしゃるだなんて!」

 そんな気まずい雰囲気に、ユーフェミア、メリー、マリア、ロクサーヌが入ってきた!


「お、お前たち! なんて格好を! 母様まで!」

 コーネリアは四人の姿を見て顔を真っ赤にする。

 四人の姿は、街角の娼婦ですら躊躇するほど、大胆なものだった。

 男を誘惑する。女を、それだけの存在にするために作られた下着姿だった。


「やっぱり、お姉さまもジーク様が大好きなのね!」

「お姉さまと一緒だなんて緊張しちゃう……」

「私の血筋ね。どうあがいても、いい男にお尻を振っちゃうの」

 ユーフェミア、マリア、メリーは妖艶に舌なめずりしながら、コーネリアの両腕をガッチリ掴む。


「お前たち! 何を!」

 コーネリアはじたばたするが、魔物たちの恩恵を受けたユーフェミア、マリア、メリーの力は人外の域に達している。そこら辺の冒険者の頭蓋骨なら握りつぶせる程度の力がある。女のコーネリアでは振りほどくことなどできない。


「だって、お姉さまもジーク様の愛が欲しいからここに来たのでしょう?」

 ユーフェミアはコーネリアの頬にキスをする。

「そ、そんな訳あるか! それに母様! お父様が居る身でありながらそんな恰好を!」

「私、あの人とは離婚したのよ? 知らなかったの?」

 メリーは舌なめずりして己の体を撫でる。

「り、離婚ですか!」

 コーネリアは口をパクパクさせる。メリーは悪気の無い笑みを浮かべる。

「合意の上よ。あの人は夢に燃えてるし、私はジーク様が好きすぎるし。それに、正直お互い長年の結婚生活で悪いところいっぱい分かっちゃってるから! せっかく若返ったんだから、今後はお友達としてお付き合い。今頃あの人はあの人で、娼婦と楽しんでるところよ」

「お、お父様が女遊びですって!」

 コーネリアは信じられなかった。厳格な父がそんな乱れたことをするなんて! あの躾に厳しい母が娼婦の顔をするなんて!


「男なんて女とやることと、自分の夢を叶えることしか頭にないわ。そして、私は良い男と気持ちいいことするしか頭にない淫乱女。あなたたちを産めてとても幸せだけど、三十過ぎてから全然あっちのほうがご無沙汰でイライラしてたの」

 メリーは己の体をジークに誇示する。ジークはグッと親指を立てる。

「お、お母さま! マリア! ユーフェミア! 目を覚ますんだ! そんな乱れたことをやる女ではないはずだ!」

「素直になれない人ですね」

 見かねたロクサーヌがコーネリアの体をまさぐる。


「体は許しているのに、心は素直になれない。だからイライラするんです。もっと素直になればいいのです」

 ロクサーヌはコーネリアが身に着ける、魅了避けのペンダントを外した。


「そ、それは……」

「こんな物要らないですよね? だって、あなたはすでに虜になっているんですから」

 ロクサーヌはニッコリと笑うと、ジークの手を取り、コーネリアの前に立たせる。

「ジーク様、素直になれないコーネリア様に、どうかご慈悲を」

「良いのかな? どうかな?」

 ジークはウキウキした顔で、コーネリアに顔を近づける。


「実はね! 君のことを狙ってたんだ! 年上で厳しい人って居なかったから、仲よくしたいなって!」

「こ、この男は!」

 文句を言いながらも、コーネリアはジークの口づけを拒まなかった。


「コーネリア? 僕は皆を幸せにするよ。どんな形でも後悔させないから」

 ジークは優しい声で囁く。コーネリアの背筋がゾクゾクする。


「わ、私はお前に屈しない!」

 真っ赤な顔で唇を噛む。

「だ、だが! 魅了避けのペンダントを失ってしまった! だから! 今はお前に魅了されている」

 唇を恥ずかし気に突き出す。するとジークの唇が重なる。


「皆に嫌われないように、イチャイチャする方法を探そう!」

「うう! この女殺しが!」


 コーネリアはその夜、皆と一緒に、ジークと愛し合った。

素直になれない子はこの作品だと貴重。


機会があればまた書きたいな。

次回は勇者編で、勇者サイドにいったん視点を移す予定です。

彼らはどうやって魔王に勝つつもりか、どんな力を持っているか、見ていただけると幸いです。

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