国家設立編~人々はすぐにジークを好きになる (勇者発見三日前)
「ジーク様、桃はいかがでしょうか?」
「あーん」
ジークは玉座に座って、左のひじ掛けに座るロクサーヌから桃を食べさせてもらう。
「美味い美味い」
「チョコレートはいかがですか?」
次は右のひじ掛けに座るユーフェミアからチョコレートを食べる。
今は勇者たちの居場所をベルが探している。それまでジークができるのは待つことだけ。
ただ待つだけでは体にカビが生えるので、女の子とイチャイチャする。
すると王妃の椅子に座るジルと、王女の椅子に座る青子が立ち上がる。
「そろそろ時間だ」
「青子の番!」
ロクサーヌとユーフェミアはすぐに場所を譲る。
「よしよし」
「良い子良い子」
ジルと青子は無心にジークの頭を撫でる。
ジークはニコニコとそれを受け入れる。
「何なんだ! あれが王だって言うの!」
入り口の物陰で様子を伺う第一王女のコーネリアは苦々しく爪を噛む。
「何か文句があるのか?」
すると突然、ブラッドが背後から声をかける。
ジークのすぐそばに居たはずなのに、いつの間に!
コーネリアは背筋を凍らせる。
「たとえジークを嫌っていたとしても、態度に現さないことだ。ジークの命で殺していないが、私たちにも我慢の限度がある」
ブラッドは爪でコーネリアの頬の薄皮を切ると、ペロリと流れる血を舐める。コーネリアは震えて動けない。
「国に忠誠を誓うなら、ジークに忠誠を誓え。それがこの国を守ることになる」
ブラッドは影に溶けると、一瞬にしてジークの傍に移動する。
コーネリアは痛いほど鼓動する胸を押さえながら、真っ青な顔で、自室へ戻った。
「あいつらはいったい何なの! あんな乱れた情けない奴が王だって言うの!」
コーネリアは部屋で不満をぶちまける。
ジークの部下となったゴルドーたちは、豪華な城の寝室ではなく、使用人が暮らす質素な4人部屋で暮らすこととなった。一夜で待遇は一変した。それだけでも混乱する。
「何も言うな。勝手にさせておけ」
ゴルドーは疲れ切った顔で首を振る。50代なのに70歳に見えるほど老け込んでいた。
「私たちはあの化け物たちに従う他ありません。民も、騎士も、すべて。この国は終わりです」
王妃のメリーも乾いた笑いをする。こちらも50代なのに70歳に見えるほど老け込んでいる。
「目が見えないことに初めて感謝します。滅びゆくゴルドー国を見なくて済むのですから」
第二王女のマリアは深くため息を吐く。彼女は生まれた時から目の見えない盲目であった。
「諦めてどうするの! 私たちはゴルドー国の王族! アトランティス国でトップ10に入るほどの実力者なのよ! 私たちが諦めたら世界が終わってしまうわ!」
コーネリアは必死になって三人に訴える。しかし三人は立ち上がらない。
「いっそのこと、お前もユーフェミアのように、ジークの妾になったらどうだ? 私たちよりも幸せになれるかもしれない」
「そうですね。ジークは女好きのようですから」
「盲目の女など要らないでしょう。そう考えると、お姉さまは幸せだわ」
三人の心は粉々に砕け散っていた。コーネリアはそれを感じ取ると、力なく椅子に座る。
コーネリアの頭は屈辱と恐怖と憎しみと怒りでぐちゃぐちゃになっていた。
何もできない自分が殺したいほど憎らしい。
「あの、お父様、お母さま」
そこにそっと、第三王女ユーフェミアが訪れる。
「ゆ、ユーフェミア!」
ゴルドーたちはユーフェミアを見ると、体を硬直させる。そして憎らし気な視線を向ける。
ユーフェミアは第三王女で、家系としては一番格下だった。
それが今はジークの女ということで、一番上である。
ユーフェミアがジークに殺して欲しいと頼めば、ゴルドーたちは一瞬にして死ぬこととなる。
だからこそ、一番年下の娘に、媚を売らないといけない。
何という屈辱! 一人だけうまく立ち回るなんて!
「ジーク様がお呼びでしたので、迎えに来たのですが」
ユーフェミアは悲しそうに表情を暗くする。
「……分かった」
ゴルドーとメリーはマリアの手を取って部屋を出る。
「お姉さま……私はジーク様のお優しい心に惹かれたのです。どうか、悪く言わないでください」
ユーフェミアはコーネリアに首を振る。
「あなたは魅了の魔術にかかっているだけよ! あの男は、女たちの心を弄んでる! 許せるはずないわ!」
コーネリアは歯ぎしりする。
ジークがとても好かれる姿を見て、皆が忠誠を誓う姿を見て、ユーフェミアがジークに喜んで奉仕する姿を見て、そう思ったのだ。
「私は自分の意志で好きになったのです。それだけは覚えてください」
ユーフェミアはキツくコーネリアを睨みつけると、部屋を出る。内気で誰にも逆らわない彼女は、もう居なかった。
「……あの男は人々を魅了する強烈な魔術を使っている」
コーネリアは魅了避けのネックレスを握りしめる。こういったアイテムは王族の必需品だ。
「仲よくしよう!」
ジークはゴルドーたちが現れると開口一番に笑った。
「な、仲よく?」
ゴルドーたちは意味が分からないと困惑する。攻めておいて、どの口が言う?
「突然のことでびっくりしたと思うけど、僕は君たちを殺すために来たわけじゃない。僕が国を作るのを手伝ってほしいだけなんだ」
ジークは満面の笑みで言ってのける。ゴルドーたち、特にコーネリアの顔が歪む。
「嘘じゃないよ! その証に贈り物をあげる!」
ジークがブラッドに目配せすると、ブラッドはゴルドーたちの前に立つ。
「な、何をするつもりだ?」
ゴルドーたちは恐怖で委縮する。
「その姿ではジークの役には立てないだろう」
ブラッドがゴルドーの顔面を鷲掴む。
「お父様!」
コーネリアが叫んだ時には、すでにブラッドはゴルドーから手を放していた。
「あ、あなた!」
そしてメリーは夫の姿に驚愕する。
「ど、どうした? 何が起きた?」
ゴルドーは混乱した状態で辺りを見渡す。そして鏡を見て、言葉を失う。
「こ、これは私なのか?」
フラフラと鏡の前に立ち、己の顔を触る。
若返っていた。
50代の老人が、十代の青年に変貌したのだ!
信じられないゴルドーは己の腕を見る。
以前は、皺だらけで、筋肉も削げ落ちた情けない腕だった。体が上手く動かず、歳を感じる歯がゆい肉体だった。
今は違う! 内から湧き上がる活力! 思い通りに、痛みもなく動く素晴らしい肉体!
老いを感じていたからこそ望んでいた、若さを取り戻した!
「お前も若返れ」
ブラッドはゴルドーなど気にせずマリーの顔を鷲掴みにする。
「し、信じられない!」
そしてブラッドが手を放すと、メリーは己の乳房を触る。
張りのある柔らかさだった。以前はしわしわで見るのも嫌になるくらい垂れた乳だった。
鏡を見ればしわもシミも何もない素晴らしい肌! 頬はしっかりと張りがあり、プルプルしている!
50歳を過ぎて、鏡を見るのが嫌になった! 絶世の美女と歌われた肉体が腐っていくのが嫌だった!
若さを手に入れられるのなら、何でもする! そんな願いが一瞬にして現実になった!
「お前は目を開けろ」
ブラッドはマリアの瞼に手のひらを置く。
「……え?」
そしてブラッドが手を放すと、マリアの真っ黒で可愛らしい瞳がキラキラと輝いていた。
「そんな! 生まれた時から見えなかったのに! あらゆる病を治すエリクサーでも不可能と言われたのに! 一流の医師も、魔術師も、僧侶も治せないと匙を投げたのに!」
マリアは初めて瞼を持ち上げたためか、ボロボロと涙を流す。
「……凄い」
そんな奇跡を目の当たりにして、コーネリアは言葉を失った。
「コーネリアは、何か欲しいのある?」
ジークはニッコリと、人たらしな笑顔をコーネリアに向ける。
「な、何も無いわ!」
コーネリアはジークから顔を逸らす。強気な言葉だったが、拒絶の色は無い。
「そう。欲しく成ったらいつでも言ってね」
ジークはコーネリアに優しい笑顔をあげた。
「さて! じゃあさっそく、今後の予定を話し合おう!」
ジークは立ち上がると、ゴルドーたちの前に立つ。
「今日は砕けた調子でいこう! 同じ十八歳なんだし!」
「じゅ、十八か……そうか。確かに、そんな感じがする!」
ゴルドーは腕まくりし、力を入れる。力強い力こぶがピクピクと浮かび上がる。
「素晴らしい! 奇跡が我が身に!」
ゴルドーは両手を握りしめて、ギラギラと微笑む。体から湧き上がる力強さに耐えきれない! じっとしていられない!
「メリーさんってすっごい美人だね! びっくりしちゃった!」
「び、美人ですか! そ、そうですね! これでも昔は多くの男性に求婚されましたから!」
「昔じゃなくて今でしょ?」
「ええ! そうです! 今です! ああ大変! お化粧しないと!」
メリーはもはやパニックだった。天変地異が襲い掛かったのだから当然だ。
鏡を見ると、そこに映る己の姿に見とれてしまう。あまりの美しさに、萎えていた自尊心が湧き上がる!
「マリアさん! 初めまして、ジークです」
「は、初めまして」
マリアはジークに握手をされると、ぼんやりとジークの顔と体を見る。
「ジークさんは、とてもカッコいい人だったんですね。悪魔のような姿をしていると思いました」
マリアは頬を染めて呟いた。
「酷いな! 僕は魔物の王だけど、世界を滅ぼすつもりは無いから安心して」
ジークが太陽のように明るく笑うと、マリアは顔を真っ赤にして頷いた。
「何なの? これ?」
そんな中、コーネリアだけ呆然としていた。
コーネリアは分かってしまった。
ゴルドー、メリー、マリア。
三人はジークのとりこになった! 奇跡が切っ掛けで心を奪われてしまった!
「まずは皆で食事会! それから今後のことを話そう」
「今後ですか?」
ゴルドーはジークに対して、恐怖でも怒りでもなく、敬意を持った口調で質問する。
「僕は魔物の国を立ち上げたいんだ。ゴルドー国はその手伝いをして欲しくて」
「なんと! それは光栄なことですが、その前に、厚かましくもお願いがあります」
「言われなくても、国民にも奇跡を与えるよ。怖がらせちゃったからね」
「ありがたき幸せ! 我がゴルドー国はジーク様の右腕となることを誓います!」
ゴルドーはウキウキした足取りでジークの隣を歩く。夢あるエネルギッシュな若者だから、当然だ。
「マリア! あなたの下着を貸しなさい! せっかくの食事会なのにこんな婆臭い下着なんて私に相応しくないわ!」
「あの、あなたがお母さまですか? 私と同じくらいなのに? 声も足音も違います」
「私はあなたのお母さんよ! 凄く綺麗でしょ!」
「とても綺麗ですが、腕を引っ張らないでください! それに目が見えたばかりで頭がクラクラしちゃうんです!」
メリーはマリアの腕を引っ張って、部屋を出る。
残されたコーネリアは、玉座の前で佇む。
「お姉さまは、食事会にご参加しないのですか?」
ユーフェミアが労わる様にコーネリアに声をかける。
「行かないわ! 私は騙されない! あの男は悪魔よ! 人の心を支配するペテン師よ!」
コーネリアは部屋に響くほど叫び、玉座の間から出る。
「お姉さま? お姉さまはジーク様を好きになっています。ジーク様はとてもお優しい方です。私たちを心の底から愛してくださいます。意地を張らずに、その恋心に従ってください」
コーネリアはユーフェミアの言葉を受けると、涙を流して自室へ戻った。
その日の夜、ゴルドー、メリー、マリアは大臣などが眠る豪華な寝室を手に入れた。
「ジーク様は世界の平和を考えている! その力もある! あの方に天下を取ってもらえば、世界は平和だ! あの方の臣下になれて幸せに思う!」
「ジーク様は本当に素敵な方! 夫が居る身ですけど、迫られたら、断れません」
「ジーク様は素晴らしいお方です。ユーフェミアが夢中になるのも納得です。……その、今夜からユーフェミアと一緒に、ジーク様のお世話をすることになりました。ロクサーヌさんたちと仲良くできるか不安ですが、頑張ります!」
三人はジークの忠実なら臣下となった。
ゴルドー国を支配したからこそ、どうしても描きたかった。
早く勇者!
と思う方もいると思いますが、数話(5話以内)で終わるので、見届けていただけると幸いです。




