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国家設立編~勇者が召喚された

 ジークがゴルドー国を支配した次の日のことである。

 アトランティス国の皇都では、アトランティス皇帝と王妃、王子、王女、さらに側近たちによって、とある儀式が行われていた。


 魔王ジルに対抗する、勇者の召喚儀式である。


「神の祝福を受けし授かりの子たちよ! 強き者よ! 我が声に応えよ!」

 皇都の城の地下100メートル。そこは数百人が入れるほど巨大な儀式場となっていた。地下なのに清潔で、柱は発光石で光り輝いている。

 そして部屋の中心には数十メートル規模の複雑な魔方陣が描かれていた。


「勇気ある者よ! 我が声に応えよ! そして我らに勇気を与えたまえ!」

 白髪に逞しい白髭をたくわえた初老の男性。彼がアトランティス皇帝のアトランティス10世である。

 彼が呪文を唱えると、少しずつ空気が変わる。


「あなた!」

「父上!」

 歳を取った王妃とすでに三十歳は超える王子の声が木霊する。続いてパチパチと魔方陣が雷を放つ。


 雷が直撃したかのような光に包まれる。


 その光がさざ波のように引くと、100人の老若男女が、呆けた顔で立っていた。


「勇者たちよ! 我が声に応えてくれて感謝する!」

 アトランティス皇帝は平然とした様子で笑いかける。


「……勇者?」

 学生服を着た50人の若者が顔を見合わせる。ワイシャツを着た2人の男女が顔を見合わせる。48人の私服を着た老若男女が顔を見合わせる。


「すいませんが、ここはどこですか? 私たちは京都で修学旅行中だったはずです?」

 ワイシャツを着た男性が皇帝に尋ねる。


 彼らは日本の京都から皇帝に呼ばれた転移者たちだった。


「ここはアトランティス国の皇都だ。お前たちは勇者として、魔王ジルを倒すために呼ばれた」

 アトランティス皇帝は懇切丁寧に状況を説明する。


 説明が終わると副担任の女性が首を振る。


「無理です! 私たちは普通の人間ですよ! そんな化け物と戦えるはずありません!」

「心配するではない! お前たちは神からギフトを貰い受けた! 凄まじい力を持っている!」

 アトランティス皇帝は怯える転移者たちに傲慢ともいえる態度で言ってのける。


「ギフト?」

「これで確認できる」

 アトランティス皇帝が手を叩くと、控えの者が一同に巻物を渡す。


「それは勇者たちにしか使えないウィンドウと呼ばれるアイテムだ。開けば己がどんなギフトを持っているのか分かる」

 一同はアトランティス皇帝に言われるまま、巻物を開く。


「……ゲームみたいだ」

 巻物はウィンドウ画面のように、各人のステータスを表示する。それを見て、男子学生が呟いた。

「アニメとかである異世界転移! マジであんの!」

 それから歳の若い男女が一斉に騒ぎ始める。

 ざわざわと騒々しい中、アトランティス皇帝とその家族、関係者が一斉に頭を下げる。


「どうか! 私たちを助けて欲しい!」

 その凄まじい様子を見て、一同は困惑しながらも唸る。


「わ、私たちはまだ混乱しています! 時間をください」

 女性の副担任が一歩前に出る。


「そうだな! おい! 勇者たちを部屋へご案内するんだ!」

 アトランティス皇帝が叫ぶと、100人のメイドや執事が、勇者たちの前に立ち、頭を下げる。

「こちらです」

 メイドや執事は絶世の美女と美男子であった。その微笑みは相手を油断させるほど美しかった。


「お前、どんなチートだった?」

「なんか、不老不死だって」

「不老不死! すげえチートじゃん! 俺は魔力無限だってさ」

「それもすげえじゃん! ちょっと試してみてえな」

 一同、特に学生は落ち着いたのか、雑談しながら部屋を出る。衝撃的だったが、皇帝が真摯に対応したため、落ち着きを取り戻したようだ。

 魔王ジルを倒せば元の世界に戻れると説明された。衣食住すべて保証すると説明された。素晴らしい才能を日本へ持って帰れると聞いた。戻ったら、夢から覚めたように、転移した直後の時間に戻れると聞いた。歳を取らないと聞いた。

 どれもこれも、都合のいい話で、安心した。


「うさんくせえな」

 そんな中、数人の転移者は、心の中で警戒心を強く持っていた。

 その一人は、岡部という30歳の中年男性だった。彼は去年、ブラック企業のサービス残業に耐え兼ね、裁判を起こした無職の男性である。

 女の子にモテなかったが、それは周りに流されない芯の強さと、状況を的確に把握する頭脳があったからだろう。そういう人は近づきがたいオーラを発するものだ。


「皇帝や周りの態度が不自然だ。落ち着きすぎてる。俺たちが初めてじゃない。何度も勇者を召喚しているんだ」

 岡部は周りの雰囲気に飲まれず、猜疑心を持って考える。


「ギフト……確かに、普通なら最強だ。だけど、なら100人も呼び出す必要があるか? 1人で充分じゃないか?」

 岡部は別段、美男子でもブ男でもない。しかし、今の彼の瞳は凛々しく輝いていた。


「魔王ジル……100人のチーターすらも軽くぶち殺す、化け物なんじゃないか?」

 彼は背中に冷たい物を感じつつ、メイドに案内される。


「今はとにかく、状況を確認しないと」

 生き残るため、どこか呑気でゆるゆるな空気の周りに流されないように、拳を強く握りしめた。


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 一方、ゴルドー国の城では、ジークとその母親たちの食事会が行われていた。


「これうめえな!」

 バトルは皿ごと食う勢いで、ステーキやエビの天ぷらなどを平らげる。


「私に処女の血を与えるとは、ゴルドーは話の分かる奴だな」

 ブラッドはグラスに注がれた鮮血を味わう。


「抵抗しないとは拍子抜けじゃの」

「なんの何の! まだまだ反骨精神を持っとる奴はおる! 何をしてくるか楽しみじゃ!」

 タマモとリムは生の馬肉や牛の肝臓にかぶりつく。


「美味しいですね。人間も捨てた物ではありません」

 ラファエルはフルーツケーキを行儀よく食べる。


「私は虫人たちが嫌われないか心配だ。ロクサーヌたちのように可愛がってくれればいいのだが」

 ベルは冷たいコーンスープを少しずつ飲む。


「ジーク! あーん!」

「あーん!」

 ジークは青子が差し出すアイスクリームをパクリと口に入れる。


「青子! あーん!」

「あーん!」

 青子はジークのお返しをパクンと食べる。


 魔王ジルはワインを傾けながら、そんな様子を静かに、微笑しながら見ている。


 突如、魔王ジルが眉をひそめる。彼女の強力な探知魔法が、勇者たちが召喚される波動を感じ取ったのだ。


「どうしたの、ジル母さん?」

 ジークが素早く、心配そうに顔を向ける。ジークは仲間たちの僅かな動揺も見逃さない。王に相応しい能力を持っていた。


「……勇者が召喚されたようだ」

「勇者?」

 ジークは聞きなれない単語に首を傾げる。


「アトランティス皇帝が私を倒すために別世界の住民を呼び出した」

「大丈夫なの?」

 ジークは不穏な単語に警戒心を強くする。ジルは安心させるために微笑む。


「20年ほど前から始まった、数年ごとの祭りのようなものだ。毎回、全員返り討ちにしている。心配するな」

 ただ……とジルは顔を曇らせる。


「勇者はそこそこ強い。私は大丈夫でも町に被害が出るだろう」

「……ふーん」

 ジークの瞳は剣のように鋭くなる。落ち着くためにジュースを飲む。


「しばらく、私はここを離れる」

「ダメだ。これは王の命令だ」

 ジークはジルが席を立つと、鋭い目で睨む。


「母さんの敵は僕の敵。僕の敵は魔物の敵。全員、容赦なく殺す」

 ジークが手に持つグラスを握りつぶすと、バトル、ブラッド、タマモ、リム、ラファエル、ベル、青子の目に殺意が宿る。殺気で部屋の温度が下がり、ガラスや壁に霜ができる。


「ジル母さん……僕たちは仲間で、僕は母さんの子供だ。今までお世話になった。だから、僕を頼って?」

 ジークはジルに微笑みかける。


「……そうだな。ありがとう」

 ジルは穏やかに、少しだけ、涙を流して、笑った。


今まで話や会話でしか出なかった勇者が本格的に絡んで来ます。

今までジークたちは身を潜めていたため、対決することはありませんでした。

しかし国家設立となると、アトランティス国に存在がバレてしまいます。

そうなると対決は必死です。

勇者がどんなものか、ジークやお母さんたちの実力はどれほどのものか、分かりやすくするため、勇者サイドは岡部を視点に話をします。


甘々イチャイチャが基本ですが、時にはスパイスが必要でしょう。

彼らがどのように絡むのか、楽しんでいただければ幸いです。

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