商売編~王女様はジークが大好きでおかしくなりそうです
ジーク商会はリンゴやキャベツなどの果物や野菜に、米や小麦などの穀物から、魔物の素材を活かした工芸品など、幅広く取り扱っている。
どれもこれも品質が良く、評判が良い。だからこそ、気を遣う。
「計量器を使って量が間違ってないか確認して」
お昼ごろに現れたユーフェミアに仕事を与える。
役割は出荷するリンゴの数を確認すること。
「分かりました! 頑張ります!」
ユーフェミアは大きな計りの前に座る。そしてオークが計量器にドサリとリンゴの入った樽を置く。
「大丈夫です!」
ユーフェミアは大きく右手を上げる。すると次の樽が計量器に乗せられる。
「あ! 少し量が多いです!」
ユーフェミアは樽を開けて数個リンゴを取り出し、かごに入れる。
「大丈夫です!」
再び右手を上げる。
「大丈夫そうだ」
ユーフェミアの後ろで胸を撫でおろす。どれくらい仕事ができるか不安だったけど、この様子なら大丈夫だ。
「僕は予定があるから、しばらく席を外すよ」
「いってらっしゃいませ!」
ユーフェミアは満面の笑みで見送ってくれた。
やっぱり可愛い。
「ジーク様!」
事務所に入るとジェーンとエミリアが席を立って、頭を下げる。続いて十人ほど雇った事務員も挨拶する。
「ただいま」
笑顔で挨拶すると、自席に座る。そして書類の山に頭を抱える。
「凄い量だ」
ため息を吐くと、ジェーンとエミリアも苦笑いする。
「それだけ儲かっているということなんですが」
「私たちだけでは手が足りません」
ジェーンは売上の計算、エミリアは商品の在庫を確認している。
奥の席では契約書の作成が行われている。十人がかりなのに一向に終わる気配がない。
皆、僕よりも大変だけど、泣き言を言わない。とても良い。
皆の頑張りに押されて、書類に目を通す。
取引が完了したというハンコを押すだけだけど、それだけで一日が終わりそうだ。
「他にもやることあるんだけどなぁ」
とにかくポンポンとハンコを押しまくる。夕方はロクサーヌたちと町の視察をしないといけない。
「国家を相手に商売する時かな」
ハンコを押しながら、今の忙しい状況を打開する策を考える。
「そもそも、こんなに忙しいのも小さな取引をチマチマやってるから。ゴルドー国を相手にすれば、もっと効率よく商売ができる」
欲しい物が多いため、手あたり次第に取引してきた。だがもう人的資源の限界だ。
これ以上、取引相手は増やせない。だけどそれだと停滞する。
ならば取引相手を一つに纏めればいい。それができるのはゴルドー国といった国家だ。
「王様に会ってみるか」
ゴルドー国には多額の寄付金を支払っている。税金もしっかり納めている。
たとえ王様でも僕を無視することはできないはずだ。
何とか仕事を終わらせたのでユーフェミアの様子を見に行く。ユーフェミアは作業場の隅に座っていた。
「もう仕事は終わったの?」
仕事が終わったのか確認する。結構な量があったはずだけど?
「ジーク様! はい! 全部終わりました!」
元気はつらつな返事だ。確かに樽はすべて計量済みの場所に置いてある。
「休憩しないでやったの?」
「はい! 少しでもジーク様のお役に立てればと思って!」
目がキラキラと宝石よりも輝いている。あんまり無茶はして欲しくないんだけど。
「ありがとう。でもあまり無茶はしないでね」
スッと日当の5000ゴールドを手渡す。
「こんなに頂けるのですか!」
めちゃくちゃ驚かれた。目が真ん丸になっている。
「文字が読める人や計算ができる人はとても貴重だからね。それくらい安いもんさ」
実際問題、ジーク商会に足りないのは計算や読み書きができる人だ。単純作業は魔物で十分対応できる。
だから読み書き計算ができる人は手厚く扱う。
「本当にありがとうございます!」
「良いんだ」
何度も何度も頭を下げられると背中がムズムズする。
「僕は予定があるから、そろそろ行くよ」
時間が迫ってきたので一言断る。
「そ、そうですか……分かりました……」
なんて残念そうな顔をするんだ。
「あの! 他にもお手伝いできることはございませんか!」
なんてやる気に満ちているんだ! そんなにお金が必要なの?
「うーん。じゃあ明日から事務処理をやってもらおうかな」
今回の計量はテストのようなものだった。能力に問題は無いし、ジーク商会の事務処理をやってもらおう。
「ありがとうございます!」
本当に気合の入った女の子だ。なのにどこか熱っぽい表情で、異様にそそられる。
「じゃ! 僕は行くから!」
変なことをしないように一目散に逃げる。
さすがに従業員に手を出したら不味い。
「さようなら!」
ユーフェミアは僕が見えなくなるまで手を振ってくれた。なんか押し倒しても許してくれそうな雰囲気だ。
「僕ってどうして女の子が好きなんだろ?」
雑念を払うために小走りする。これからを考えると、あの子と会うのが辛くなってきた。
-------------------------
ユーフェミアはルンルン気分で城の裏口から帰宅する。お忍びで数時間働いただけで5000ゴールド。大金だ。
「ふふ! ジーク様って素敵! 5000ゴールドなんて、私のお小遣いよりも多いわ!」
そしてひっそりと自室へ戻ると、服を脱ぎ捨てて、全裸となる。
「……いけないわ」
そして鏡の前で高ぶりを収める。
「ああ……ジーク様……私……あなたを思うだけでおかしくなってしまいます」
そろそろピアノの習い事があるというのに、指と手は止まらない。
結局、ユーフェミアは今日も習い事をサボってしまった。
ムッツリな王女様、ありだと思います
 




