魔物たちはジークにメロメロです~乳離れも考えよう
ジークが森に来て1年が経った頃。
「ジークは可愛いの~」
「べろべろば~」
リムとタマモはジークを両隣に寝転び、満面の笑みで話しかける。馬鹿親だ。
「リム! タマモ! そろそろ私たちにジークを寄越せ!」
「お乳を上げたい!」
猫又のニャン、ミノタウロスのミノなど、数千の獣の始祖たちがジークを取り囲む。全員、ジークに乳を飲ませるため、乳房を露にしている。全員、大国を滅ぼせるほど大きいのに、ジークのためを思って、人間の姿をしている。
「馬鹿者が! ジークはワシが大好きなんじゃ! ずっと傍に居るべきじゃ!」
「人間はか弱いからの~ワシが傍におらんとすぐに死んでしまう」
リムとタマモはジークから離れようとしない。子離れできない親だ。
「ん! ん!」
ジークがウズウズと悶えると、場は一気に静まり返る。
そしてお座りして、二パッと笑う。
「「「「可愛い~」」」」
魔物たちはジークにハートを撃ちぬかれていた。
「凄い奴じゃ! 一人でお座りできたな! さすがワシの子じゃ!」
「さすがジークじゃ! 偉いのう! 偉いのう! ワシも鼻が高いぞ~!」
リムとタマモはジークに理性を溶かされていた。
「子離れできない奴らだ」
乳臭い洞穴にジルが現れる。
「おうジルか! どうじゃった」
「魔物の救出は順調か?」
一同はジルが帰ってきても、ジークに釘付けだ。一瞥もできない。
「少しずつだが、私に同調する者が増えてきた。おかげで救出は順調だ」
ジルはジークの前に座る。
するとジークは天使のようなニコニコ顔で、ハイハイして、ジルの膝に乗っかる。
「「「「可愛い~」」」」
魔物たちは大はしゃぎだ。
「うう! もうハイハイできるとは! 月日が経つのは早いもんじゃ!」
「この前までは首も座らなかったのに! 立派になったの~!」
リムとタマモは感極まって泣いている。
「大騒ぎしすぎだ」
ジルは苦笑しながらジークを抱きかかえる。
「そろそろ乳離れの練習を始めるか」
ジルの言葉に魔物たちの尻尾や耳がザワッと逆立つ。
「ジークはワシの乳で育つんじゃ!」
「乳離れは早い! あと1000年は先の事じゃ!」
リムとタマモはこの世の終わりのごとく慌てふためく。
「ジーク! もうお乳飲まないの!」
「いやよ! まだ三回しか飲んでもらってないのに!」
「ジークは赤ちゃんだからお乳じゃないとダメ~!」
魔物たちは大ブーイングだ。
「すぐという訳ではない。しかし、人間は肉や魚、果物も食べる。ジークは人間だ。それを考えれば、いつかは乳離れの時が来る」
ジルの強い言葉に、魔物たちは耳と尻尾をシュンとさせる。
「うう~ジーク! まだワシの乳が欲しいと思うじゃろ!」
「ずっと飲みたいと思うじゃろ!」
リムとタマモは子供のように駄々をこねる。
「全く、これじゃあどちらが子供か分からないな」
ジルはジークを抱えて外へ出る。
「どこへ行く気じゃ?」
ぞろぞろとリムたちがジルの後を追う。
「精霊女王のところだ。そろそろ挨拶する頃合いだ」
精霊女王は古の森を管理する精霊だ。ジルは、彼女に断りなく樹液や果実をもぎ取るのは不誠実と考えた。
「あの女のところか……あ奴はジークを好いておらん」
「もしもジークが嫌いなどと抜かしたら、ただではおかん!」
タマモが殺気立つと他の魔物も殺気立つ。
「ジークのせいで世界が終わりそうだ」
ジルはジークが愛されていて、とても嬉しかった。だからジークに微笑みかけた。
「エヘヘへ」
ジークも可愛らしく微笑んだ。




