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商売編~アンデットにも家族が居た

 商売を初めて二週間が経った。経過は順調、経済が少しずつ回ってきた。おかげで僕の町も賑やかになって来た。

 以前はレンガ造りの家しか無かった。生活に必要最低限な衣食住しか揃っていなかった。

 今は、魔物も食べられる、甘いお菓子を売る出店が並んでいる。

「今日も、町を見て回ろう」

 僕の最近の楽しみは、発展していく町を見て回ることだ。

 少しずつ、人間と魔物が仲良くなっていく。


 それがとても嬉しい。




 今日は教会へ行く。そして物陰で、様子をうかがう。

「ほねほね!」

「どうやって動いてるのー!」

 教会は主に農作業を行っている。そしてアンデットであるスケルトンたちはクワを持って畑を耕している。その周りを子供たちが興味津々に囲んでいる。

 子供たちも作業者のはずだが、そこは子供。遊びたい盛り。退屈な草むしりなど放り出している。

 本来なら子供たちを叱りつけるのが正しいけど、愛らしい笑顔を見ると、怒れなくなる。

 スケルトンたちも同じだった。


「カタカタカタ」

 スケルトンは口を動かす。残念だが、声は出ない。僕は口の動きと仕草、姿勢で何を言っているか分かるけど、子供達には理解できない。仕事の邪魔だって言っているのに、ベタベタと触って邪魔をする。

「分かんない!」

「喋れないの?」

 子供たちは怖いもの知らずだ。魔物だろうと何だろうと、危害を加えないと知るやずけずけと触りまくる。


 スケルトンはクワを持ったまま、オロオロとするばかりだ。


「私が魔力を与えたから動ける」

 そこにブラッド母さんが現れる! ブラッド母さんは人間と滅多に接触しない。だから町に訪れたことにびっくりした!


「魔力って何?」

 子供たちはブラッド母さんを怖がらずに首を傾げる。ブラッド母さんは静かに微笑むと、ちょっとだけ説明する。

 しかし子供たちは首を傾げるだけ。


「分かんない!」

 飽きてしまったようで、再びスケルトンたちに集まる。

 スケルトンたちは困ったようにブラッド母さんを見る。


「仕方がない」

 ブラッド母さんはパチンと指を鳴らす。するとスケルトンたちの口と喉が肉に包まれる。

 ブラッド母さんは、スケルトンたちが喋られるように口と声帯を作った。

「女王様……」

 スケルトンたちは驚いた声でブラッド母さんを見る。

 僕もびっくりだ。何のためにあんなことをしているのだろう?

「遊んでやれ」

「は、はい」

 スケルトンたちはブラッド母さんが微笑むと、戸惑いながらも子供たちの頭を撫でる。

 スケルトンたちは、何となく、寂しげだ。


 温かい頭を撫でても、温かさを感じられないから? 分からないけど、残念そうだ。

 そしてブラッド母さんも、なぜか悲しそうだ。


「ごつごつしてる!」

 子供たちは楽しくて楽しくて仕方がないという様子だった。そんな子供たちを見て、スケルトンたちは楽しそうだった。


「女王様! こちらにいらしたのですか!」

 護衛の吸血鬼たちがブラッド母さんの前に現れる。

「ちょうどいいところに来た。お前たちも教会の仕事を手伝え。これは命令だ」

 ブラッド母さんは静かに呟く。

「は、はい? ご命令ならば」

 吸血鬼たちは頭にハテナを作りながらも、素手で畑を耕す。


「凄い凄い!」

「力すげえ!」

 子供たちはスケルトンから離れて吸血鬼たちを取り囲む。


「こ、困った」

 吸血鬼たちは子供たちに邪魔されても、何も言わずに固まるだけだった。一方のスケルトンは寂しそうに離れた子供たちを見つめる。

 その様子をブラッド母さんは楽しそうに見つめる。でも、どこか悲しげだ。


「ブラッド様! お越しになられたのなら言ってくださればよろしいのに」

 そうこうしていると、教会の責任者であるアレクシアがブラッド母さんに走り寄る。

「ちょうどいいところに来た」

 ブラッド母さんはアレクシアに向き直ると、ぼそぼそと耳打ちする。

「か、かしこまりました」

 アレクシアは何が何だか分からないという様子だったが、ブラッド母さんの指示に従う。




 一時間後、一組の老夫婦と一人の老婆を連れてきた。

 それに合わせてブラッド母さんは一人の吸血鬼とスケルトンを呼び、対面させる。


「お兄ちゃん! レギンスお兄ちゃんでしょ!」

 老婆は吸血鬼、レギンスを見て叫ぶ。

「……まさか、レンか! 俺の妹のレンか!」

 数十年ぶりの兄弟の対面だ!


「ごめんねお兄ちゃん……お兄ちゃんは奴隷になったのに、私だけ幸せになって」

「良いんだ。俺は奴隷となったが、女王様と出会い吸血鬼になれた。とても、幸せだ」

 レギンスは若々しい腕で、老婆となった妹のしわだらけの体を抱きしめる。

 吸血鬼は歳を取らない。それが何となく、可哀そうに思えた。


「まさか! ニーナか!」

「お、父さん? お母さん!」

 一方、スケルトンのニーナは出来たばかりの舌と声帯で驚愕の声を出す。親子の対面だ。


「お前を捨てたこと、後悔している! 本当に済まない!」

 老夫婦はボロボロと涙を流す。

「そんなの、今更謝られても困るよ。私は女王様の僕でスケルトン。もうあなたたちとは家族じゃない」

 スケルトンのニーナは俯いて答える。死後、化け物となって家族と対面する。

 ニーナはもちろん、老夫婦も可哀そうだった。


「お兄ちゃん! 一緒に暮らそう! やり直そう!」

「それはダメだ。俺は吸血鬼、お前は人間。だから一緒には暮らせない」

 レギンスとレンも、もめ始めた。


 アンデットは元は人間だ。だから家族は居る。だけど、もう一緒になることはできない。

 自然のおきて、悲しいけど、仕方がない。


「うるさい奴らだ」

 しかし、ブラッド母さんにとってそんなこと関係なかった。


 ブラッド母さんが指をパチンと鳴らすと、ニーナの体がスケルトンから一瞬にして人間に変わる!

 レギンスの体が吸血鬼から人間に変わる!


「レギンス、ニーナ。最後の命令だ。人間としてやり直せ。40年前と60年前の人生に戻れ」

 ブラッド母さんは老夫婦とレンの頭を撫でる。


 老夫婦とレンの体は一瞬にして若返った!


「こ、これは!」

「お前たち人間にとって奇跡だろうが、私にとっては小石を摘まむようなものだ」

 ブラッド母さんはぶっきらぼうに言ってのける。そして二人に目を移す。


「女王様……」

 レギンスとニーナは涙を流してブラッド母さんを見つめる。ブラッド母さんは仏頂面で見つめる。


「アンデットは元は人間だ。だから私の傍に居るより、家族といたほうがずっと幸せになれる」

「女王様! 私たちは女王様のお傍に居て幸せです!」

「これは命令だ」

 ブラッド母さんは静かに言い切る。そして、優しく微笑む。


「心配するな。ここはジークが作った魔物と人間が共存する町。永遠の別れとはならない。会おうと思えばすぐに会える」

 ブラッド母さんの言葉を聞いて、レギンスとニーナは家族を見る。


「お兄ちゃん!」

「ニーナ!」

 家族は二人に手を差し出す。

 二人は目を瞑ると、ブラッド母さんに深々と頭を下げる。


「感謝いたします!」

「女王様はもう一人の母です! 御用があればいつでも申しつけください!」

 二人は家族の手を取って、抱き合った。


「会いたかった……本当に会いたかった!」

「会いたかったよ……お父さん! お母さん!」

 ブラッド母さんは感動の場から静かに離れる。


「お前たちも、いつかは家族に会える。……人間と魔物が共存できる町が出来て、良かったな」

 ブラッド母さんは口下手にアンデットたちに笑いかけると、静かに教会を出て行った。




「ブラッド母さん!」

 教会に出たブラッド母さんを捕まえる。

「ジーク! びっくりするじゃないか!」

 ブラッド母さんは珍しく慌てふためく。目元の涙を拭うのが丸見えだ。


「どうしてニーナとレギンスを人間にしたの?」

「見ていたのか! 全く、ジルたちには言うなよ。恐怖の象徴である私の威厳が無くなるからな」

 ブラッド母さんは不機嫌そうにしかめっ面になる。どんな顔をしても、恥ずかしいだけだって分かる。


「町ができてから、アンデットたちの様子が変わった。人間を羨ましく見るようになった。あいつらみたいに喜んで人間たちと仕事をするようになった。だから、解放した」

 ブラッド母さんは淡々と答える。それなのに、とても寂しそうな声だ。


「アンデットは元人間だ。だから人間に戻りたいと思うのは自然だ。だから人間に戻してやった。それだけの話だ」

 これ以上言いたくないと口を真一文字に結んでしまう。

 どうして老夫婦や老婆を若返らせたの?

 それはもう、聞かないことにした。


「母さん、出店に行こう! 一緒に美味しいりんご飴を食べよう」

 母さんの手を握る。とても温かい。


「……そうだな。せっかくジークが作った町だ。何かひとつ、食べてみよう」

 母さんは手を握り返すと、ゆっくりと歩幅を合わせて寄り添う。


「ジーク?」

「何?」

 母さんはニッコリと笑う。

「町を作ってくれて、ありがとう」

 僕もニッコリと笑う。

「僕を育ててくれて、ありがとう」

商売編と言いつつ商売ではない。

でも商売が上手く行っているから、こんな出来事もある。

そんな感じ。


あとエッチく無いけど、たまにはいいと思う。

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