商売編~ジーク、神様と崇められる
グッスリと、温かい感触で目を覚ます。まどろみが抜けると、ジル母さんの優しい顔と目が合う。
「おはよう」
「おはよう、母さん」
体を起こすと、リム母さんやタマモ母さん、青子、ラファエル母さん、ブラッド母さん、ベル母さん、バトル母さんと目が合う。
「「「「「「「おはよう!」」」」」」」
皆、ニッコリと、いつも通り笑ってくれた。
「おはよう!」
昨日は嫌な夜だった。
だけどもう大丈夫だ!
「仕事だ!」
元気よく外へ出る。とてもいい天気だ。
「炊き出しは皆に任せて、今日は精霊教会のところに行こう!」
ヴァネッサの協力で薬が調達できるようになった。
これで精霊教会を丸め込むことができる。
宗教は争いの元になる。敵にすれば恐ろしい存在だ。
だが一方で味方につけてしまえば、これほど頼もしい存在は無い。
特に精霊教会は信徒が多く、職人もかなり入信している。
援助者として恩を売っておけば、確実に労働組合代表のオードリーを口説き落とせる。
「頑張ろう!」
グッと太陽に向かって背伸びをする。
今日はいい天気だ。絶対に良いことがある。
ゴルドー国の精霊教会は王宮のすぐ近くにあった。場所としては町の中心だ。
かなり重宝されていることが分かる。
「でも、その割には寂れてる」
教会の正門に立って、鉄格子に触る。錆びついていてザラザラする。
清掃ができないほど貧窮しているようだ。
「ジェーンさんとヴァネッサさんのお話では、連合会にお金を借り出した頃から衰退し始めたようです。地獄の沙汰も金次第なんでしょうか?」
付き添いのロクサーヌが教会の屋根や敷地を見る。ところどころ荒れていて、余裕の無さが伺える。
「死の臭いがする」
「死の未来に囲まれている」
勝手についてきたスクとヤタが両肩でグルグル唸る。
不死鳥と八咫烏が唸るということは、想像以上に深刻な状況のようだ。
「入ろう」
呼び鈴を鳴らして待つ。しばらくすると、シスターである金髪のアレクシアが出迎える。
「ジーク様! ロクサーヌ様も!」
アレクシアは僕とロクサーヌの顔を見ると、満面の笑みで出迎える。
アレクシアとは炊き出しの時に何度も言葉を交わした。それなりの信頼関係が築けている。
「突然お邪魔してごめん。話があるから、上がらせてもらえない?」
「お話、ですか」
アレクシアは躊躇うように口を濁す。どうしたんだ?
「分かりました! こちらからもお話があったのです!」
アレクシアは青い瞳に覚悟を滲ませながら、門を開いた。
「お話の前に、こちらへお越しください」
アレクシアは不安げに頭を下げると、僕たちの顔も見ないで歩き出す。礼儀も守れないほど、なりふり構ってられないほど、めちゃくちゃ緊張しているのが分かる。
「ジーク様、おそらく、彼女は薬と資金に関して相談します」
ロクサーヌの耳打ちに頷く。
困っている教会を助ける。立派な善人だ。話が早くて助かる。
「ただ、それだけじゃないと思う」
彼女の気配にただならぬものを感じる。まるで死を決意しているかのようだ。
「死が近づいている」
「ジーク様、近づかないほうがよろしいかと。不吉な未来に直面します」
アレクシアについて行く途中、スクとヤタが激しく耳打ちする。
「どうやら、想像以上に酷いようだ」
苦笑いとともに、アレクシアが手招きする部屋に入る。
そこは病室だった。
「ごほ! ごほごほ! おえ!」
「い、いてぇえ……」
「ま、ま」
「こ、ころしてくれ……」
病室という名の墓場だった。
男も女も子供も老人も、血便や吐血、喀血を繰り返している。
鼻血や血涙を流すものも居る。
「どうか! 薬をください! 彼らを助けてください!」
アレクシアは大理石の床に頭をこすりつける。掃除されておらず、肌が切れそうなほどひび割れしているのに。
「あれは……シスターか」
病室を眺めると、アレクシアと同じシスターがベッドに倒れていた。口から血の泡を出している。
「ヤタ、アレクシアの寿命と死因は?」
「十日後です。死因は出血熱です」
感染症。
教会は病人の介護によって、死の棺桶となっていた。このままでは僕とロクサーヌまで死ぬ。
「本当だったら、魔物の力を使いたくないんだけど……」
魔物たちの力は強大だ。安易に頼りたくない。
それにアレクシアたちに僕たちの正体をばらしたくない。
「遠慮すんな!」
「ジーク様、気軽に使ってください!」
スクとヤタは明るく笑う。
四の五の言っていられる状況でもないか。
「魔物の王として命じる。不死鳥よ。この場に満ちる死を根絶せよ」
「承知した、我が王」
スクの体から不浄を燃やす炎が出る。それはアレクシアや僕、そして病人たちを包む。
「きゃあ!」
アレクシアは悲鳴を上げて、炎を振り払おうとする。
「暴れるな! その炎は不浄を焼き払うもの。甘んじて受け入れろ」
アレクシアをギッと睨んで制止させる。
「は、はい」
アレクシアはぼんやりと、呆けたように頷いた。
「終わったぜ」
数分も経つと、スクは仕事を終わらせた。余波でまだ炎を纏っているが、直に消えるだろう。
「ありがとう」
スクの頭を撫でながら、アレクシアたちの言い訳を考える。僕の可愛い友達ですって言えば、納得してくれるかな?
「あなた様は神様だったのですね!」
突然アレクシアが膝をついて、拝み始める。
「何を言ってるの?」
突然のことに理解が追いつかない。
「不死鳥は神の使い! あなた様は神様だった! なんと幸福なのでしょう!」
アレクシアは感極まって泣き出してしまう。
それに病気の治った人々が反応する。
「あ、アレクシア様? どうしたんですか? 神様って?」
一人の男がアレクシアに声をかける。
アレクシアは立ち上がると、声を高々に上げる。
「皆さま! 神です! 神が降臨なさいました! 神は私たちを見捨てなかった!」
脱水で死ぬんじゃないかと心配になるほど泣く。
「か、神様?」
「み、みろ! 肩に不死鳥が!」
「治してくださったんだ!」
「神様だ!」
皆してアレクシアと同じように僕を拝む。
「ああ! ジーク様が神様と気づいてくれる人々が居るなんて!」
なぜかロクサーヌまで泣いている。
「ジークは神様だったのか!」
「さすがジーク様だ」
スクとヤタがすり寄る。君たちが褒められるべきなんだけど。
「どうしよ?」
しばらく固まっているしかなかった。
多種多様な魔物が居るのだから、それぞれの特殊能力を活かしつつ国作りする様子を書きたいなぁ。




