商売編~情けは人の為ならず。とりあえず皆とイチャイチャします
ムカつくパトリックとハボックに出会ったのは、ある意味幸運だった。
倒すべき敵ができた。ならば奴らを泣かす!
そのためには情報収集が必要だが。
「普通だったら、一月二月、国を走り回るんだろうけど、あいにく僕のお母さんたちは最強なんだよね」
ベル母さんは虫を操る。また、数多の虫の五感を支配できる。
世界中に、ハエや蚊、ノミなどの虫は居る。それらはすべてベル母さんの目だ。
そういう訳で、ゴルドー国の拠点でジェーンの報告を聞く。
「パトリックやハボックなど、Aランク以上の冒険者を支援するのは連合会と呼ばれる組織です」
ジェーンはベル母さんからの情報で黒幕を突き止めた。たった一日で。
ジェーンもとんでもなく優秀だ。僕の女にして良かった。
「連合会?」
ちなみに僕はベル母さんの膝の上で報告を受けている。
締まらない格好だけど、泣きそうだったから仕方ない。
ベル母さんは椅子が無いから床に直座りなのに、満面の笑みで頭を撫でている。禿げそう。
「商人ギルドです。大飢饉の騒動で大儲けした時に名称を変えたようです。ギルド長はカッコつけしですね」
ジェーンが作成した書類をパラパラ捲る。とても分かりやすく情報が書かれていた。
その中に、パトリックやハボックがどのように稼いでいるのか、記述があった。
「連合会は冒険者に賞金稼ぎをやらせているの?」
冒険者が賞金稼ぎになるのはよくある。ハボックたちの羽振りが良かったのも頷ける。
しかし、商人ギルドが直接冒険者に依頼するのは珍しい。
「大飢饉と大恐慌で世界は混乱の渦です。治安も日々悪化しています。だから窃盗団や強盗団も増加しています。連合会は盗品を冒険者に集めさせて、懐に収めているのです」
「なんとも腹黒い。王様は怒るんじゃないの?」
「連合会はこの国で大きな発言力を持っています。ある意味、王以上です。そのため兵士や王も口が出せない状態です」
「血が流れそうだ! 穏便に行きたいね」
悪党の血で母さんたちを汚したくないんだよな……。
「連合会はどうしてそんな力を?」
「私の調査不足でしたが、大恐慌の影響はゴルドー国にもありました。連合会は国中の職人たちの借金を肩代わりしたのです。今や町の人々は連合会の金の奴隷となっています」
借金を盾に黙らせる。常とう手段か。
「連合会の狙いは? いくら何でも規模が凄すぎる」
「大陸の経済支配。引いては王の位。彼らは金の王になるつもりです」
何ともスケールの大きい奴らだ。
「最後に、連合会はどうやって経済を支配するつもり?」
「とても簡単です! 職人は借金のため、連合会の下でタダ働きします。すると、国家や民は連合会の商品しか買うことができなくなります。最初は大損でも、大恐慌が終われば、おつりが永遠と来るでしょう」
用意周到な奴らだ。おまけに盗品は返さないから、同業者はやせ細るばかり。明確な目的を持って行動している。普通なら、厄介な奴らだ。
でも相手が悪かったな。
「これって、僕が職人たちの借金を肩代わりすれば、連合会の目論見を潰せるってことだよね?」
ジェーンはクスクスと手で口元を隠して笑う。
「その通りです! ジーク様が職人たちの借金を肩代わりする! それだけで連合会は潰れます!」
ジェーンは大はしゃぎだ。
「何か楽しいことがあったのか?」
ベル母さんはジェーンが喜ぶ姿をニコニコと見る。僕を抱っこ出来て上機嫌だ。
「勝ち確定になっちゃったからね」
ベル母さんを背もたれに欠伸をする。連合会が潰れればパトリックとハボックも涙目確定。
いやはや、今日中にけりが付いてしまうな!
それじゃ面白くない。
「でも、今は静観しよう」
「え! 失礼ですが、なぜでしょう?」
ジェーンはびっくりして固まる。
「僕たちの最終目的は、信用できる人に町に来てもらうことだ。借金を盾にすれば町に来させることはできる。でもそいつが信用できるか分からない。闇雲に借金を肩代わりしたって、連合会の嫌がらせにしかならないんだ」
「ああ……連合会は潰せますが、それだけですね。ここに来た意味がない」
ジェーンは静かに頷く。
「いつでも倒せる。それが分かっただけで充分だ」
それよりも今は連合会の悪だくみを利用したほうがいい。
「別の質問だけど、ゴルドー国の人口は増えてない?」
「人口ですか? 避難民や出稼ぎ労働者、行き場のない人が集まってきています」
「急速に増えてない?」
「そうですね……このままだと一年後には百倍になるくらいの勢いです」
金があるところに人は集まる。まるで砂糖に集る蟻だ。
計画が決まった。
「連合会は必ず難民など貧乏人を切り捨てる。なら僕たちは彼らを助けよう」
「助ける?」
「パンやスープをタダで振舞うのさ」
ジェーンはしばし考えると、ニンマリと笑う。
「ゴルドー国の国民を根こそぎ奪うつもりですね」
僕もニンマリと笑う。
「貧乏人だって人間さ。彼らはそれを理解しない」
グッと背伸びをしてベル母さんの頭を撫でる。
「どうした? 蜂蜜が欲しいのか?」
「何でもない。ただ撫でたいだけ」
微笑むベル母さんに微笑み返す。
「そうか。ほら、お前たちもこっちへ来い」
ベル母さんはじっと待機していたジェーン、エミリア、ヤタ、スクを呼ぶ。
「そろそろ雨になる。ジークを温めておやり」
「では、失礼します!」
「ジーク様。もしも重いようでしたら、すぐに言ってください」
ジェーンとエミリアは恭しく、僕の足に抱き着く。
「ジーク様。この格好だと温められないので、変身しますね」
ヤタはクルンと一回転して、褐色の美少女へ変身する。全裸なんですけど。
「俺も変身するか! ジェーンたちに負けてられねえ!」
スクもクルンと一回転して、赤色の美少女へ変身する。やっぱり全裸か!
「失礼します」
「お邪魔するぜ」
二人は僕の腕にすっぽりと収まった。
「や、ヤタとスク? 服は着よう」
二人を見ないように天井を向く。
「き、気に入りませんか」
「あー……やっぱ俺じゃダメか」
二人とも可愛らしい声で、シュンとしょげてしまう。
「ジーク? 魔物は裸が基本だ。外へ出る訳でもないし、今は許してやれ」
そういう訳じゃないんだけど……
でも二人が温かくて何も言えない!
「い、いいよ! 僕を温めて!」
「あ、ありがとうございます!」
「へへ! ありがとよ!」
僕はベル母さん、ジェーン、エミリア、ヤタ、スクを肉布団にして寝転んだ。
「温かいか?」
ベル母さんは穏やかな口調で笑う。子守歌のようだ。
「う、うん! 温かくて気持ちいいよ!」
皆に笑顔を振りまく。皆、笑ってくれた。
「愛しております、ジーク様」
「あなた様に会えて、本当に良かった」
「永遠に、お供します」
「死んでも放さないからな」
僕は皆の綺麗な顔を見ながら、瞼を閉じた。
説明が多いかな?
ジーク君の応援よろしくお願いします!
 




