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魔物たちはジークにメロメロです~番外編 お母さんはジークが居なくて寂しいです

 ジークは15歳で人間の世界へ旅立った。

 魔物たちはジークの意志を尊重したが、内心は穏やかでなかった。


 何せ、一時間と経たないうちに、全員泣き出しそうになった!




 ジークが旅立って1時間もしないうちに、魔王ジルは貧乏ゆすりを始める。

「ジーク……ジーク! 大丈夫かな? 寂しがってないかな?」

 寂しがっているのはもちろん彼女だ。ソワソワと泣き出しそうだ。


「転んで怪我などしていないでしょうか? ああ不安です!」

 ラファエルもウロウロと落ち着きなく部屋を歩き回る。こちらも目に涙を貯めている。


「う~! ジークが行ってもうた!」

「ジークの臭いが薄くなっちょる!」

 リムとタマモはジークの衣服を抱きしめて、クンクンと臭いを嗅ぐ。やっぱり目が潤んでいる。


「ジーク……ジーク! 青子、寂しい!」

 青子はウネウネとスライム状態で転げまわる。まるで麻薬が切れた中毒患者のようだ。


「ジーク……人間に酷いことをされていないか? 人間は己の子すら簡単に捨てる鬼畜……ジークの魅力など分かるはずない……ああ! 殺されてはいないだろうか! ジークが死んだら私はこの先どうやって生きて行けばいいのか!」

 ブラッドは頭をガリガリとかきむしってみ悶える。旅立って一日も経っていないが、彼女にとっては一年前の出来事に感じる。


「お腹を空かせていないだろうか? やはり一人旅は早かったのでは? ああでも追いかけるとジークを信頼していないようで。でもやっぱり心配」

 ベルはブンブンと部屋を飛び回る。壁に頭から激突しても構わず飛び回る。


「お前らなぁ? 少しはジークを信頼してやれよ。あいつが人間ごときにやられっか」

 そんな中、バトルだけは落ち着いていた。バトルはジークを子でありながら弟子とも考えていた。厳しい特訓を乗り越えたとジークを信頼していた。またサッパリした性格なのも関係しているだろう。


 対して皆は落ち着けない。彼女たちはジークの母である。お乳を飲ませたり、おしめを取り換えたこともある。彼女たちにとって、ジークはいつまでも可愛い我が子なのだ。初めて出来た、可愛い可愛い子供なのだ。


 皆はバトルの一言で、さらに取り乱す。


「信頼している! だけど寂しいのは仕方がない! 私がこんなに寂しいのだからジークも寂しい! そうだろ!」

「ジークの臭いが嗅ぎたいんじゃ! ジークの臭いが無いと体が震えるんじゃ!」

「ジークの温盛が欲しいのうぅ。やっぱりジークが傍に居ないと落ち着かん」

「ジークと遊ぶ!」

「ジークは魔物の王ですよ! かすり傷一つ許されないのです!」

「ジークはいい子だ! 醜い人間にも哀れみを持ってしまう! あの邪な人間の事だ! 必ずジークに危害を加える!」

「ジークは私の蜂蜜が大好物なんだ! 毎日おやつで食べていた! それが食べられないのはとても可哀そうだ! そうだろ!」

 大パニックだ。さすがのバトルもタジタジだ。


「そ、そんなに心配だったら、ヤタやスクをお目付け役にすりゃいいだろ」

 バトルは余りの迫力で後ずさる。


「そうだ! ヤタやスクに様子を見させよう! 早く戻ってくるように伝えよう!」

「洗濯物があったら届けてもらうんじゃ! 臭いでジーク成分を補給するんじゃ!」

「乳を届けるぞ! せめてジークが寂しがらんように、ワシらの温盛を届けるんじゃ!」

「青子も旅行く!」

「せめて果物や薬草を届けましょう! 空腹や痛みなど王は感じてはならないのです!」

「心配だ! とても心配だ!」

「蜂蜜を届けましょう! 食べきれないほど届けないと!」

 皆は完全にパニックであった。ジークが居なくなった。それは心臓が無くなったのと同じくらいの痛みだった。


「お前らうるせえよ! 全員眠らせてやる!」

 バトルがブチ切れると、それをきっかけに古の森で死闘が始まった。




 兎にも角にも、ジルたちはヤタやスクを通してジークを見守る。


「人間ごときがジークの働きにケチをつけるのか!」

 時にジルが人間界に攻め込もうとしたり。


「心優しいジークに文句を言うじゃと!」

「人間が! 八つ裂きにしてくれる!」

 リムとタマモたちが人間界に軍勢を引き連れようとしたり。


「ジーク! 泣いてる! 人間殺す!」

 青子の激情で世界中のスライムが狂暴化したり。


「ジーク! やっぱりお腹を空かせて! 早く食べ物を食べさせないと!」

 ラファエルの思いで世界中が豊作に成ったり。


「心優しいジークを臆病だと! 我慢ならん! 下等生物どもが!」

 吸血鬼やアンデットの軍勢が人間界に押し入りそうになったり。


「やはり人間は頭が悪い! 我が子の虫人にすら劣る!」

 虫の大群が国を襲ったりした。


「お前ら落ち着け!」

 そのたびにバトルが止めに入った。


 ジークが戻る三年後までそれは続いた。その間、人間界は三十回以上、滅亡の危機があった。原因はジークが居ないこと。

 それだけだった。


 三年後、ジークが戻ってくると聞いて、一番安心したのはバトルだったかもしれない。


「疲れた……」

 バトルはジルたちを止めるために年中無休で戦い抜いた。人類を守る結果となったが、当の本人はそんなつもりはない。

「さあ! 皆でジークを迎えるぜ!」

 バトルはただ単に、ジークに強く成って欲しかっただけだ。そして、笑顔で戻ってきて欲しかった。


 結果、ジークは笑顔で戻ってきた。


 もしもジークが泣いていたら? その結果は、恐ろしくて想像できない。




 皆、ジークが大好き過ぎて、ジーク依存症になっていた。

 それはこれから先も変わらない。


 ジークが穏やかだからこそ、人間界は無事なのだ。

 もしもジークがその気になれば?


 残酷な結果が、人間界に訪れるだろう。

お母さんたちに好かれまくる。

ジークの最大の武器はニコポナデポの可能性がある?

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