町作りは意外と順調です~女の子たちはジークが大切です
女の子たちが町に来て2週間が経つと、彼女たちはそろそろ魔物と交流してもいいのでは? と考える。
女の子たちの暮らしは中々に順調だ。なら、魔物たちと接する余裕があるだろう。
そう思って、僕は1週間前から魔物たちに、町へ行ってみないかと聞いて回った。
「……興味はありますが、彼女たちは人間です。私たちを怖がると思います」
元人間である吸血鬼やアンデットに質問すると、予想以上に後ろ向きな答えが返ってきた。
彼らは元人間だから、町にとても興味があると思った。
「うーん。まあ、怖がるかもしれないけど、意外とそうでもないかもよ?」
「ジーク様のご命令なら出向きますが……」
想像以上に弱弱しい答えだ。
「分かった。まだ町に来る必要は無いよ。時間を取らせてごめんね」
「滅相もございません! ただ……お力になれず申し訳ありません」
吸血鬼たちは律義に頭を下げて謝った。
「彼らが遠慮するのか……」
想定外の事態だ。
それからオークや猫人などに話を聞いたが、どれも声色は良くなかった。
「どうしてかな?」
一週間後、実家で母さんたちに相談する。
「仕方なかろう」
ブラッド母さんが苦笑いする。
「彼女たちは魔物よりも弱い。そうなると、怯えるのは必然だ」
ブラッド母さんは残念そうな顔をする。
「それに、ワシらが脅したからのぉ」
「必要なこととはいえ、近づかれたくなかろう」
リム母さんとタマモ母さんは目を細めてため息を吐く。
「キツク言っておかないと、忘れてしまいますからね」
ラファエル母さんもため息を吐く。
母さんたちは彼女たちが来た初日に、僕に逆らうと殺す! 逃げだしたら殺す! と彼女たちを脅した。
僕を思っての行為だった。だけどそれが原因で嫌われていると思っているようだ。
女の子たちは涙目だったけど、気にしていないと言った。
彼女たちは頭が良いから大丈夫だと思うけどなぁ。
「私たちはジークに代わって嫌われる役目だ」
ジル母さんも苦笑する。
「叱られる、怒られる、注意される。気分の良い物ではない。たとえ正論でも頭にくる。だからこそ、私たちはジークの代わりに叱るし、怒るし、注意する。それが私たちの役目だ。だからこそ、嫌われても仕方ない」
静かな口調の裏には寂しさが見える。
「母さんたち、彼女たちを脅したこと、後悔してるんじゃないの?」
母さんたちは口を噤んで考える。
「後悔はしていない。だが、怖がらせたと思う」
ジル母さんは力なく笑う。
やっぱり後悔しているじゃないか!
「私たちは遠くから見守らせてもらうよ」
ベル母さんは微笑で返す。
「できれば彼女たちと仲良くして欲しいんだけど」
僕の町は人間と魔物が共存する町だ。怖がって近づかない、遠慮して近づかないというのは、僕の理想から遠い。
「ジークの命令なら従うぜ」
バトル母さんが重く口を開く。
「でも、命令じゃないなら、今のままで良いだろ? もしもあいつらが魔物の力が欲しいって言うなら、ジークにお願いすればいい。そんでジークが俺たちに命令する。俺たちはその通り動く。それで町は作れるだろ?」
豪快なバトル母さんがこんな弱気なことを言うとは思わなかった。
確かに、今のままでも町は作れる。彼女たちと魔物は無理に関わる必要はない。
でもそれじゃ面白くない。それじゃ意味が無い。
「母さんたちは彼女たちを認めたんだ」
心を整理した後、皆に聞こえないように呟く。
母さんたちは高圧的だった。だけど時が経つにつれて彼女たちへの態度は軟化している。
母さんたちは彼女たちに心を許した。だからこそ、昔、脅したことを後ろめたく思うようになった。
「ここで止まるのはもったいない」
変化が来ている。ここで立ち止まると成長が止まる。
母さんたちと彼女たちが仲良くなれば、古の森の魔物たちも彼女たちに興味を示すはずだ。
「ジーク?」
考えていると横で青子が首を傾げていた。
「青子は町に興味ない?」
「町?」
頭を撫でると気持ちよさそうに笑顔になる。
「ジーク、青子に行って欲しい?」
ちょっと考える。
青子は好奇心旺盛で明るい。彼女たちも受け入れやいと思う。
それに青子は皆を脅していない。
なら、大丈夫だ!
「行ってくれる?」
まずは青子が気軽に遊びに行ける空気にしよう。そうすれば母さんたちも興味を持つ。
「行く!」
青子はいつも通り、満面の笑みでキスしてくれた。
一週間ぶりに彼女たちの町へ行く。
「おお! 凄い!」
街並みはたった一週間で大幅に変わっていた。
「ジーク様! お久しぶりです!」
女の子たちのリーダー、ロクサーヌが走ってくる。
彼女はアトランタ国の王女だったため、皆のとりまとめ役となっている。
彼女が居るおかげで、皆、足並みを揃えて動ける。
「久しぶりだね! 随分と町の様子が変わった!」
まず驚いたのが、泥水のろ過装置ができていた! これで新鮮な水が飲める。
「原始的な物で性能はまだまだですけど、とりあえず、スープに砂利が混じることは無くなりました」
ロクサーヌは照れ臭そうにはにかむ。可愛い。
「原始的とはいえ凄いよ! 良く作れたね!」
ろ過装置は自然ろ過と呼ばれる原始的な装置だった。
小石や炭、布などを水槽に敷き詰める。そこに泥水を入れる。
水槽の下にある小さい穴から水がちょろちょろ流れる。それだけで真水になる。
サバイバル技術を知っている冒険者なら似たような物が作れる。
しかし、これはそれとは比べ物にならないほど大規模だ! 100人分の水が一気にろ過できるんじゃないか?
ヤバい! 興奮してきた!
ろ過装置の水槽はどうやって作ったんだ? 石にしては凄く整った形だ。
「それはレンガです」
「レンガ! レンガを作ったの!」
ロクサーヌは混乱する僕の手を微笑みながら引っ張る。ウキウキと喜んでいるのが分かる。
「皆でレンガや瓦、陶器を焼く窯を作りました」
土で作られた簡素な窯の前に立つ。
「こんなのでレンガが作れるんだ……」
驚きで口が塞がらない。
作りは釜土に煙突をつけたような物だ。煙突があることで上昇気流が発生し、内部を1000度以上の高温にする。ただの釜では、数百度が限界だ。それだとレンガにするには温度が足りない。水に溶けてしまう。
「全部、ジーク様に買って頂いた本を読んで作りました」
ここへ連れて来る時、何かの役に立つと思って、二十冊の本を買った。それらはサバイバル術や陶器づくりなど町作りに役立ちそうな物だった。
なるほど、本を読んだから作れたのか。
マジで!
「本を読んだだけで作れたの! ここまでできるなら、職人なんて必要ない! 皆が一流の町作りの職人だ!」
この子たちは頭が良すぎる! 加えて行動力もある! 50人の労働者を効率的に動かす組織力もある!
彼女たちを買うのに3億ゴールドほど使った! なんて安い買い物だ! 500億ゴールドでも買えなかった掘り出し物だ!
「ロクサーヌ! 君たちは凄い! 君たちに出会えて本当に良かった!」
興奮して抱きしめる! 柔らかくて気持ちいい! 最高の気分だ!
「じ、ジーク様……」
ロクサーヌが自然と唇を合わせる。
「……喜んでもらえて、本当に良かったです」
なんて綺麗な笑顔だ。
その後も町を見物させてもらった。
町の生活は安定している。脱穀機の購入などで食料の生成は順調になった。
レンガで家も作り始めた。完成まで三日の予定。早すぎる。
レンガや陶器を長持ちさせるための塗装技術も生み出した。
「僕の出番無いじゃん!」
町を見物して気づいてしまった!
僕! 何の役にも立ってない! 彼女たちに任せただけで立派な町並みができた!
「ジーク様?」
町の入り口で驚嘆していると、隣でロクサーヌが眉をひそめる。
「いや! ロクサーヌたちだけでここまでできるなんて思わなかった! 僕なんて必要ないな!」
色々考えていたのに、全部やってくれた! 僕の想像以上の働きだ!
ちょっと情けないけど、とっても嬉しい!
「ジーク様は必要です! 必要ないなんて言わないでください!」
ロクサーヌが突然怒ったため、びっくりして顔色を伺う。
「私たちはあなた様に救われました。あなた様が居るだけで幸せなんです。だから、そんな悲しいこと言わないでください」
ロクサーヌはかなり動揺している。涙すら流している。ちょっとした冗談だったのに。
「ごめん。だから泣かないで」
ギュッと抱きしめて、キスをする。
「ジーク様」
ロクサーヌもギュッと抱きしめ返して、何度もキスをした。
「む~! ジーク取るな!」
「きゃ!」
突然服の中に隠れていた青子が飛び出す! ロクサーヌはびっくりして後ずさり。
「ジーク! 青子が好き! 大好き! 青子もジーク好き!」
チュッチュッと青子にキスされる。
「じ、ジーク様? その子は?」
ロクサーヌはドキドキと身構える。
「スライムの青子だよ」
青子をギュッと抱きしめながら笑う。
「スライム! 人の形に成れるんですね」
ロクサーヌは迷わず、青子と僕を抱きしめる。
「む!」
青子はロクサーヌを睨む。ロクサーヌはニッコリと笑い返す。
「ロクサーヌです。よろしくね、青子ちゃん」
青子はロクサーヌをじっと見つめる。
「ロクサーヌ、ジーク好き?」
「愛してます」
ロクサーヌは迷いなく答える。青子も二パッと笑う。
「青子もジーク好き!」
二人ともなぜか意気投合した。仲良くなるのは歓迎だけど、二人して抱きつかないで。結構痛い。特に青子の力がヤバイ。メキメキいってる。
「ジーク様! その子は?」
ぞろぞろとスーやアンナなど女の子たちが集まる。
集まるというか抱き着かれてキスされる。キスの雨だ。
「皆! とりあえずお昼でも食べよう!」
幸せだけど、身が持たない!
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