技術力が欲しい~十トンの黄金はいくらになるかな?
「僕の町は魔物と人間が共存する町だ」
「人間?」
僕の考えを話すと、やっぱり母さんたちは眉をひそめる。特にジル母さんは嫌悪感丸出しだ。
でも人間と関わりを断つのはもったいない。彼らの技術力は魔物に無い物だ。
僕は三年、人間の世界で暮らしたけど、冒険者だったから町作りの知識や技術力が無い。
それを補うためにも、人間は必要だ!
「母さんたちが渋るのは分かる。でも人間は手先が器用だ。それに創意工夫もできる。知識もある。それを頭から否定するのは得策じゃない」
魔物は自然のままに暮らす。それはとてもいい。でもそれではいつまで経っても変わらない。変化が必要だ。そのためには人間の知識や技術が必要だ。
「確かに、知識があるのは認めます。ですが人間は欲に塗れています。魔物を嫌っています。それは分かっていますか?」
ラファエル母さんは僕がしっかり考えて言っているか図るように、じっと見つめる。
「もちろん! そして必ず問題は出て来る。でも問題を恐れてたら始まらない。大丈夫。僕は魔物の王。つまり母さんたちの王様だ! 人間の十人や百人、ビシッと言い聞かせる!」
右手で胸をドンと叩く。母さんたちは笑う。
「ごちゃごちゃうるさければ殺してしまえばいい」
ブラッド母さんが笑顔で恐ろしいことを言う。
「ワシは反対せんぞ! ジークが決めたことじゃ!」
「いざとなったらかみ殺してやる!」
タマモ母さんはニッコリと、リム母さんは尻尾を逆立出せる。どちらも目が笑っていない。
「ジークは私たちの子だが、人間でもある。この先を考えて、数億人ほど人間を飼っておくのも悪くはない」
ベル母さんはまるでペットを飼うような感覚で微笑む。
「青子! ジーク守る!」
「つまり! ジークに逆らう奴はぶち殺せばいいんだな!」
青子は腕を鎌と剣に変えて振り回す。バトル母さんはメキメキと力こぶを作る。
「……そうですね。いくら人間でも、ジークが王と断言すれば、従うはずです」
ラファエル母さんは青筋ピクピクと、逆らうなら殺す、と呟く。
「ジーク」
ジル母さんにギュッと手を握られる。
「無理はするな! 困ったことがあったらすぐに言ってくれ! 必ず八つ裂きにするから!」
ジル母さんは泣きそうな顔でとんでもないことを言う。
母さんたちの反応が凄まじくて混乱中。殺意高すぎない? 僕は人間の技術力が欲しいだけで、敵対したい訳じゃ無いんだよ?
でもここで折れる訳にはいかない。それでは僕が目指す町が作れない。
「あの、ジル母さん」
「なんだ!」
神経を逆なでしないように笑みを作る。苦笑いだけど。
「多分、人間の奴隷が必要になると思うんだけど、良いかな?」
「良いって?」
「ほら、母さん昔、奴隷だったことがあるでしょ? 一言断りたくて」
「ジークなら奴隷も幸せだ! 私も幸せだった! むしろ自ら奴隷になる奴らが来る! 絶対に来る! くそ! 下心ある奴らばかりだ! 今のうちに間引きするか?」
母さんたち落ち着いて。僕も落ち着かないといけないけど落ち着いて。
僕は町を作るだけなんだよ? 死の国を作る訳でも魔王城を作る訳でも世界征服をする訳でも無いんだよ?
とにかく僕たちは動き出す。
当面は技術力の向上が課題だ。だからまずは古の森の近くに人間の居住区を作る。そして職人などに住んでもらう。そうすれば、彼らの技術力はそっくり僕の物だ。
そのためにも人間が暮らせる生活基盤が必要だ。
だから奴隷も住ませる。奴隷が作物を育てて、職人を支える。職人は僕に様々な技術力を提供する。僕は奴隷と職人に対価を払う。
ある程度技術力を得たら、古の森に魔物たちが快適に暮らせる町を作る。エルフやドワーフ、ゴブリンなど呼び寄せても良い。
身寄りのない子供を集めても良い。僕はここに来て幸せだったから、集めた子も、幸せになるだろう。
夢は無限。そのためにもまずは資金と奴隷を調達する必要がある。
「ベル母さんは古の森から1km先の草原に居住区を作って。物は雨風しのげる程度で良いよ」
ベル母さんの配下である蜂人や蟻人は巣作りの天才だ。洞穴もどきの家ならすぐに作れる。
外観は蟻の巣蜂の巣で、快適性も人間の家には程遠いけど、最初は我慢してもらう。
「いくつ必要だ? 一日あれば百万人住める程度の巣は作れる」
さすがのベル母さん。十億の虫人の長だけのことはある。
「今はそこまで必要ない。五十人くらいで大丈夫」
「少ないな! お前は王だ! 一億人住める巣を作っても良いんだぞ?」
「ありがとう。でもまだ必要ないよ」
「分かった」
ベル母さんは虫人たちの指揮に入る。
「ラファエル母さんは居住区の近くに果物の実を作って。五十人が十日食べていけるだけあれば十分だと思う」
ラファエル母さんはあらゆる植物の長だ。小麦や稲、果物を生やすなど容易い。
「その程度で良いのですか? 百万人が一生飢えることの無い程度の食料なら一日で作れます」
さすがラファエル母さん。広大な古の森の管理者だけのことはある。
「多すぎるよ!」
「分かりました。足りなくなったらいつでも言いなさい」
ラファエル母さんは大地と同化して姿を消す。
「ジル母さんとバトル母さんはしばらくゆっくりして」
ジル母さんとバトル母さんは武闘派だ。今は戦う必要も無いのでゆっくりと待機してもらう。
「分かった。頑張るんだぞ」
「いつでも声をかけろ!」
二人とも美しく笑ってくれた。
ジル母さんとバトル母さんに微笑みかけてから、リム母さん、タマモ母さん、青子、ブラッド母さんを見る。
「青子は僕の服に、ブラッド母さんはマントになって」
二人は僕の護衛だ。二人の体は変幻自在。二人を纏えば、たとえ軍隊が襲ってきても返り討ちだ。
「青子! ジーク守る!」
「人間の世界か。ジークと一緒なら悪くない」
青子は僕の体に纏わりつくと、色と形を変えて上着とズボンになる。
ブラッド母さんは僕の首に腕を絡ませると、真っ黒なマントとなる。
これで防御は完璧。ちょっとやり過ぎなくらいだけど。
「ワシらはどうする?」
「お留守番かい?」
リム母さんとタマモ母さんが首を傾げる。
「母さんたちは黄金を十トン、僕と一緒に人間の皇都へ運んで欲しい」
リム母さんはオオカミの長だ。十トンも百トンも軽々遠距離まで運べる。
タマモ母さんは強力な幻術が使える。黄金を持っているともめ事があるかもしれないから、万が一の時は幻術で収めてもらう。血を流すのは本意ではないし、今の段階で血を流しているようでは必ず戦争になる。それを回避してもらう。
「黄金?」
「あんな石ころ集めてどうする? 人間にぶつけにでも行くのか?」
二人はキョトンとする。
ぶつけられた人は目の色変えて、もっとぶつけてくれって言うだろうなぁ。
「人間と共存するならお金が必要。なら手っ取り早く売れる黄金が良いさ」
古の森は金山が数十万個点在する。子供の頃は、よく、金塊を水切り石にして遊んだ。水面の光と調和するとキラキラと輝く。
まさか人間の世界だと争いの火だねになるほど貴重とは思わなかった。
「良かろう! 部下に集めさせる」
「すぐに済むから、ちいと待ってろ」
リム母さんとタマモ母さんは俊足の速さで走り去った。
「町作りの始まりだ」
グッと拳を握りしめる。
「十トンもあれば奴隷の一人か二人くらい買えるよね?」
僕は人間の世界で三年暮らしたが、黄金の相場やら奴隷の相場など全く分からない。
しかし、人を買うのだ。他人の人生を買うのだ! まさか数万ゴールド程度とはいかないはず! 数千万ゴールド、下手すると数十億ゴールド必要だ!
「黄金がどれくらいで売れるか分からないのがなぁ……1kgにつき1万ゴールドくらい? やっぱり百トンくらいが良いのかな? でもそれだとさすがに持ち運びが……リム母さんたちは人前だと人間の姿にならないといけないし」
足りなくなったらどうしよう? ちょっと不安だ。
「まあいい! 足りなかったらまた売れば良いさ!」
気持ちは前向きに! 何とかなる!
*注釈:黄金1g=5000ゴールド(変動制、過去1万ゴールドを記録したことあり)
*注釈:文字や計算ができる上級奴隷=100万ゴールド
*注釈:農作業など単純作業のみできる下級奴隷=1万ゴールド
*注釈:王都に住む上級商人の平均年収=1000万ゴールド
*注釈:自由市民の平均年収=5万ゴールド
*注釈:弱小国が保有する黄金は一トン
ジークが作る世界はどうなるか。
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