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魔物たちはジークにメロメロです~魔物たちは王になったジークに夢中です

 ジークは12歳となった。

 その頃は、古の森の魔物たち全員がジークを王と讃えていた。


「やあ! やあ!」

 ジークは王として、日々訓練と勉強を重ねていた。

 今は女の姿となった鬼神(バトル)と剣の模擬戦を行っている。


「良い力加減だ! だがまだまだ甘い!」

 バトルがひょいと剣を翻すと、ジークの手元から剣がポーンと飛んで行った。


「負けた!」

 ガックリと尻もちを着く。数時間も行っていたため、さすがに疲れた。

「いやいや、俺も危ないところが沢山あった。上達してるよ」

 バトルは落ち込むジークを豊満な胸で抱きしめる。


「でもぉ……いくら頑張っても母さんたちに勝てない……落ち込むな」

 胸の谷間から顔を出してため息を吐く。

 ジークは10歳になってから、王になるため、古の森の魔物たちから魔術や計算、文字、戦い方などを習っている。頑張れば頑張るほど、彼女たちの凄さが分かる。


 ジークが勝てないのも仕方がない。何故なら彼女たちは数千人の勇者が束になっても太刀打ちできないほど強い魔物だ。世界中の軍が結束しても、一瞬でひき肉にされてしまう。それを考えると、むしろジークは良くやっている。


 ジークは気づいていないが、ジークの強さはすでに人間を越えている。最強の魔物たちに教えられているのだから当然だ。

 だがジークはしょんぼりしてしまう。王ならば強くありたい。その思いは年々大きく成っていく。なのに一度も勝てない。それが悔しい。特訓とはいえ、一度くらい勝ちたい。


「ジークは一生懸命やってる! 必ず俺を越えるさ!」

 バトルはくちゅくちゅと頭を撫でまくる。

 バトルは鬼神と呼ばれるほど強い存在だ。その強さ故、戦おうとする者は居なかった。だがバトルは好戦的な性格で、おまけに教えたがりでもあった。だから弟子が欲しかったのだが、そんな奴は現れなかった。バトルと実戦形式で特訓する。同種族の最上位オーガでもごめんこうむりたいことだった。


 しかしジークは違った。王になるためと、進んで弟子入りを願った。そして毎日、厳しい特訓を頑張った。

 その姿はバトルにとってとても新鮮だった。そしてメキメキと腕を上げるジークにときめいた。


「ジーク! そろそろご飯じゃぞ」

 リムがオオカミの姿で現れる。

「リム母さん! 分かった、すぐ行くよ!」

 ジークはリムの元へ行こうとしたが、バトルはギュッと離さない。

「もう行くのか?」

 ずっとこうしていたい。戦いの神であるバトルにとって、初めての感情だった。だからこそ、抑えられない。

「バトル母さんも一緒に食べよう」

 ジークがニッコリと笑うと、バトルもニッコリと笑う。

「そうだな!」

 バトルはジークを抱っこして、リムの背中に乗る。

「お主は走ってこい。ワシの背中はジークの物じゃ」

 リムは不機嫌に唸る。

「ケチケチするな!」

 バトルはカラッと晴れたような笑みで言う。

「リム母さん、今日は我慢して。お願い」

 ジークが苦笑いすると、リムはため息を吐く。

「ジークにお願いされたら仕方ないの」

 リムはバッと顔を上げると、一気に加速する。その速度は音すらも置き去りにするほど速かった。




 ジークの昼食は、シチューと果物だ。内容だけなら平凡だが、材料が凄まじい。


 シチューのミルクは、ミノやタマモ、リムなど伝説の魔物たちから絞った乳だ。飲めばたちまち傷や疲れを癒す。それどころか体もメキメキと強くする。飲むだけでレベルアップする美味しい乳だ。人間界なら国宝級だ。


 肉はミノの腿肉である。古の森の魔物たちはジークのためなら進んで体を差し出す。傷はすぐに癒えるし、何より、ジークに喜んでもらいたかった。ミノの肉はとても柔らかく、とろけるような触感だ。皇帝でも味わえないほどの逸品だ。

 ただしジークは母親の一人であるミノの肉だとは知らない。ジークに母親を美味しいと思えるような度胸は無い。私以上に栄養のある食べ物は無い! 狂気にも見える魔物の母親のプライドと愛情が詰まった料理だ。


 シチューの具である野菜はラファエルが作った特別性だ。ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ。すべて頬っぺたが落ちるほど美味しい。コックなら家族を生贄に捧げても手に入れたいほどの絶品だ。


 果物は古の森に生える特別な果実だ。味は少々薄いが、瑞々しく、後味が良い。これも食べるだけでレベルアップする果実だ。人間界なら、一つで金貨数千枚はする。


「やっぱりジル母さんが作ったシチューは美味しい!」

 そんな贅沢な一品をジークはバクバクと食べる。満面の笑みにジルたちは癒される。


「沢山食べると良い」

 ジルにリム、タマモ、ラファエルはジークを眺めるだけで幸せだった。手塩にかけた我が子が笑顔でいる。それだけで幸福だった。


「ジーク! 後で青子と遊ぶ!」

 食事をするジークの横で青子がニコニコする。青子はジークに付きっ切りだ。特訓で離れ離れになる時は、今生の別れのように悲しい。


「こらこら、今日は私の子供たちと会う約束だぞ」

 ベルはジークの肩に手を置いて、ニッコリと微笑む。ベルはジークが王に相応しかったと心から思っている。

 ベルの子供たちはジークと関わって以来、とてつもない変貌を遂げた。知性が生まれたのだ。虫人の思考は昆虫に近く、仲間意識が薄い。しかしジークと出会ってから、規律が生まれ、自分たちでジークにどのような奉仕が良いか考えるようになった。皆、ジークに会いたがっていた。ベルはそれが嬉しかった。ベルの力でも、虫人に知性を与えることはできなかった。ジークはそれをやり遂げた。王と形容せず、何と形容すべきか。


「待て。今日は私の城に来る約束だっただろう?」

 ブラッドがジークに笑いかける。

 吸血鬼やアンデットも変わった。彼らはジークを可愛がっている。忠誠を誓っている。その心はもはやブラッドから離れている。彼らはジークとブラッド、どちらを選ぶかと問われれば、迷わずジークを選ぶ。女王ではなく王を選ぶ。ブラッドはそれが、なぜか、無性に嬉しかった。


「分かってる! 今日はベル母さんの家に寄ってからブラッド母さんのお城に行くよ!」

 ジークはモグモグと昼食を食べ終えると、蜂蜜と果実を混ぜた水を飲む。とても美味しく、贅沢な飲み物だ。


「ほれほれ! 昼食の最後は乳を飲む時間じゃぞ!」

 リム、タマモ、ミノ、ニャンなど獣の魔物が一斉に乳房を露にする。

 12歳になってもジークはお乳を飲んでいる。これはジークが乳離れできていないのではなく、リムやタマモたちが飲んでほしいと願うからだ。飲まないというと泣くからだ。皆、一生ジークにお乳を飲んでほしいと思っている。ジークは彼女たちにとって、かけがえのない我が子なのだ。


「分かってる」

 ジークはちょっと恥ずかしい。もう子供じゃないのに! そう思っているが、目をキラキラさせるリムやタマモたちを見ると、断れない。


「いただきます」

 ジークはリムの乳房に吸い付く。


「飲め飲め。たーんと飲め」

 リムは満たされた表情でジークの頭を撫でる。

「次はワシじゃぞ!」

 タマモたちはウキウキ顔でその様子を見る。


「青子! 早くジークと遊びたい!」

「早く私の子供たちのところへ行こう」

「早く私の城に行こう。皆楽しみにしているんだ」

 青子、ベル、ブラッドはジークに構ってほしくてウズウズしている。


 皆、ジークが大好きだった。

「お母さん、ありがとう! 大好きだよ!」

 だからジークも皆が大好きだった。

次回で過去編は終わりです。内容はジークが旅立った理由です。

その後時間軸は第1話終了後に戻り、ジークが故郷へ帰って来ます。そして国づくりです。


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