魔物たちはジークにメロメロです~吸血鬼の始祖はジークに忠誠を誓う
吸血鬼の始祖は古の森の魔物としては珍しく、人間に詳しかった。
彼女は吸血鬼の他に、ゾンビ、スケルトンなどアンデットの長でもある。彼らは元人間であるため、彼女は人間とは何か、自然と知ることができた。
「人間の子供。お前たちと出会った時を思い出す」
暗がりの城の玉座で始祖は笑う。吸血鬼たちは首を垂れる。
「母様に育てて頂いたご恩、一日も忘れたことはありません」
吸血鬼やアンデットは始祖が作り出した。彼らは共通して、人間の赤子の頃、始祖に拾われた。
彼らは共通して、捨て子であった。始祖は時折食事のため、人里や王都に出向く。その時哀れな捨て子を見つけると、全員城へ攫った。保護したと言っても良い。
彼らや彼女たちは十歳になると、吸血鬼になるか、人間として生き、死後、始祖に従うか選ぶこととなる。多くの者は吸血鬼となるが、捨て子同士、恋をすることもある。その場合は人間として生きる。そして死後、アンデットとなって蘇る。
配下の数は10万人を超える。彼らは始祖が手塩に掛けて育てたため、とてつもなく強い。そして彼らは全員始祖を愛している。育ての親であり、救世主である始祖を崇めていた。
「母様。人間の子が現れました」
「通してやれ」
始祖はジークが来ることが分かっていた。だから慌てない。
「ジルたちが育てた子。ロキが連れてきたからろくでもない奴と思っていたが、ジルたちが狂うほど夢中になるとは面白い。少し、遊んでやろう」
始祖はロキが連れてきたため、ジークに近づかないようにしていた。
ロキは悪神だ。私たちを困らせるために連れてきたに違いない。そうはいかない。そう思って無関心を貫いた。
だが情勢が変わった。多くの魔物がジークに夢中になっている。そうなると、興味が出てきた。
「初めまして! ジークです!」
ジークは始祖を見ると、礼儀正しく頭を下げた。
「その歳でもうお辞儀を覚えたか」
始祖は思わず笑ってしまう。
ジークが背伸びをしているように見えたのだ。
「何か私に用があって来たのだろう?」
始祖は足を組んで偉そうにジークを品定めする。
とりあえず、第一印象は良い。お辞儀もそうだが、何より、一人で来たのがいい。10kmの厳しい道を一人で乗り越えたのが良い。
もしもジルたちと一緒に来ていたら。もしも城の前までジルたちに連れてきてもらったら。ジークの印象は、おしめの取れていない子供だっただろう。
「はい! 僕は王様になりたいです! だから王様と認めてください!」
元気いっぱいの大きな声だ。しかし、やはり子供だ。緊張しているのが手に取るように分かる。
「えっと! 皆さんもよろしくお願いします!」
何がよろしくなのか分からないが、ジークは臣下である吸血鬼やアンデットにも挨拶する。
「礼儀の正しい子だ」
吸血鬼やアンデットの印象は良かった。彼らは元人間だ。子供が嫌いな訳ない。むしろ好きだ。特にジークのような可愛らしい子は大好きだ。
「王と認めろ? ならば王に相応しいか試してやろう」
空気はビリビリと震える。殺気だ。普通の人間なら心臓麻痺するほどの恐怖だ。
吸血鬼やアンデットも迫力で身を竦めている。
「わ! 凄いです!」
ジークは目を輝かせてパチパチと拍手をした。
始祖は余りにも予想外の反応に、殺気を引っ込めてしまう。
「楽しいのか?」
怯えてくれると思ったので、ちょっとショックだった。
「凄くカッコいいです! 僕もそうなれたらなぁって」
しょんぼりと声を弱める。ジークは周りに比べて自分が弱いことを自覚している。だからこそ、強い存在にあこがれる。
「カッコいいか」
始祖は初めて褒められた。ちょっと嬉しい。
始祖は生まれた時から恐怖の存在だった。だから古の森の魔物たちにも恐れられている。
だからこそ、好かれたいからこそ、捨て子を拾い、育てた。
でも本心では、育てた子以外からも認めて欲しかった。全くの他人からも好いて欲しかった。
だから、ジークの反応はとても喜ばしかった。
「人間は弱い。欲望に流される。育てられない子は容赦なく捨てる。生意気だと思えばしつけと称して容赦なく殴る。救いがたい存在だ」
しかしジークの印象は違った。邪な雰囲気など無い。
「ジーク! 私の僕となれ! そうなれば永遠の命と若さ、強さを約束する」
始祖はジークに迫る。もはや試す気持ちなど無かった。ただジークが欲しかった。
「ごめんなさい。僕は人間のままで居ないとダメなんです」
ジークはペコリと頭を下げる。
「なぜだ? 私が怖いのか?」
断られると、とても傷ついた。我が子にしたいと心から思っていたのに。しかしジークの申し訳なさそうな顔を見て、人間のように欲望に流された自分を恥じる。
「違います。ラファエル母さんが言ってました。僕は古の森の魔物たちすべての王になります。だから一種族だけ贔屓する訳にはいかないんです」
始祖はジークの言葉に納得する。
「なるほど。吸血鬼になってしまえば、私を贔屓してしまう。確かにそれは王として相応しくない」
始祖はとても感心した。吸血鬼やアンデットたちも思わず唸った。
「質問しよう。お前は弱い。それはどうする?」
始祖はジークに意地悪な質問をする。古の森の魔物たちに比べたら、ジークなど塵に等しい。
「強くなります! 皆を守れるくらいに強くなります! 今は無理ですが、絶対に頑張ります!」
ジークは胸を張って言い切る。
無理だと言わない。たとえダメでもできると言い切る。
出来ないと諦めるのは美徳ではない。それは逃げだ。プライドの無い王など張りぼてよりも役に立たない。
「王としての心構えはあるな」
始祖はゆっくりと立ち上がると、そのままゆっくりとジークの前に立つ。
「立派な奴だ」
そして跪くと、手の甲にキスをした。
「お前を王と認める。何かあれば、必ず力になろう」
始祖はついにジークを王と認め、忠誠を誓った。
「私たちも、微力ながら力となります」
吸血鬼やアンデットたちもジークに跪いた。
「皆さん! ありがとうございます!」
ジークは涙を流して喜ぶ。
とても緊張していたのだろう。一人でできるか、怖かったのだろう。
ジークはそれを見事に乗り越えた。王の仕事を一つ、やり遂げた。
影から見守るヤタは声を押し殺して体を震わせる。
「ジーク様! ジーク様!」
もはや名前を呼ぶことしかできない。それくらい、ヤタの心はジークでいっぱいだった。
「面白い奴だ。気に入った。俺も臣下となろう」
フェニックスも、仲間となった。
後日、始祖とフェニックスがジークの家に訪れた。
「私はブラッドと呼んでくれ」
「俺はスク! よろしくな、ジーク様!」
ジークと接する時は名前が必要と決まっていた。
吸血鬼の始祖とフェニックスはジークを王と認めたため、それに倣った。
「よろしくお願いします!」
ジークは二人に抱き着いて、喜んだ。
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