追い出されたから故郷へ帰ります
「お前はもう要らない」
ブロック山にある鉱山から沢山の魔法石を拾い、気分良く外へ出ると、戦士のデリックが言い放つ。
「どういうこと?」
威圧的で失礼な言葉だったので睨む。
「そんな事も分からないの!」
「戦えない人に用はありません」
魔術師のアンリと僧侶のフローラが侮辱するように鼻で笑う。
「確かに僕は戦えない。だけど僕は魔物と話せる取り柄がある。その結果、魔物と出会わずに、安全にダンジョンを探索できる。それにこの山に魔法石があるのだって、魔物から教えてもらった。それなのに要らないって言うの?」
僕は魔物と喋ることができる。
そのおかげで素材がどこにあるか分かったし、襲わないようにお願いすることもできた。
僕一人だけの手柄とは言わない。でも僕は確実に役立ったはずだ。
「は! 何が魔物と話せるだ! そんなところ見たことねえ!」
デリックが嫌な顔をする。釣られて嫌な顔になる。
話すところを見たことが無い? 当然だ。魔物は人間を嫌っている。何故なら、人間が魔物を嫌っているからだ。
「私たちはSSSランクを目指している! そのためにはAランクになる必要がある! Aランクはモンスターの討伐が必要なのよ! 弱いあんたは必要ない!」
「あなたのようなモンスターと分かり合えるなどと抜かす頭お花畑の人は必要ないです」
言いたいこと言ってくれる。
しかし、納得もする。
Bランクまでは宝や素材を冒険者ギルドに収めるだけで良かった。
だがAランク以上になるには、モンスターの討伐任務を複数個クリアする必要がある。
そうなると、モンスターと戦うのが嫌な僕は要らない。
この結果は必然だったようだ。
だが、喧嘩腰に言う必要があるか? それに突然すぎる。事前に話してくれれば良かった。そうしたら、僕も納得したのに。
「……分かった。出ていくよ」
我儘な連中だとは思っていた。でもここまで礼儀が無いとは思わなかった。
もはやこんな奴らと一緒に居たくない。
そう思って、三人から離れる。
「待て! 素材は置いて行け! それは俺たちの物だ!」
デリックが嫌味な顔で剣を向ける。
これは僕が集めた物だ。それなのに奪い取るのか!
「分かった! 置いて行くよ!」
馬鹿さ加減に争う気も起きなかった。
「君たちは仲間だった! だから忠告しておく。急いで下山しろ。夕暮れまでには出て行くと魔物たちと約束した」
「うるせえ! 消えろ!」
そうか。そこまで自分の力に自信があるのか。ならば頑張って、数百のオオカミやゴブリンと戦うがいい。
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「ジーク様を追い出すとは、馬鹿な人間だ」
ブロック山から下山すると、肩に八咫烏のヤタが止まる。声色から怒っていることが分かる。
「僕はみんなと戦いたくない。こうなるのはある意味必然だったんだよ」
頭を撫でて宥める。ヤタは気持ちよさそうに目を細める。
彼は不吉の象徴と言われているが、実際は違う。不吉になると警告する神の使いだ。
僕にとっては気の知れた友達であり、傘下だけど。
餌のパン屑をポケットから取り出して、ヤタの前に差し出す。
「ジーク様はこれからどうするんだ?」
ツンツンと餌を啄む。結構可愛い。黒い瞳と黒光りする羽がチャームポイントだ。
「僕はつくづく人間の世界に馴染めない。今日でようやく覚悟が決まった」
「なら、古の森へ帰るんだな!」
ヤタは食べるのを止めて、キラキラと黒曜石のような瞳を向ける。
「ああ! 故郷へ帰るよ!」
育ての親である魔物たちの姿を思い浮かべると、自然と顔が綻ぶ。
僕は人間だ。だから一度でいいから人と接したかった。そう言って森を飛び出して三年が経った。
結果は散々。もう沢山だ。
「それがいい! あいつらも喜ぶぞ! ジーク様が帰ってくる! 王が帰ってくる!」
ヤタは嬉しさのあまり翼を広げて、カァーカァーと鳴く。
「僕はまだ王じゃないよ」
くすぐったくてつい否定する。
「帰ってきたら王になると約束しただろ! 忘れてないぞ!」
ヤタは大騒ぎだ。それが結構嬉しい。
「うわぁあああああああああああ!」
突然、山から大きな悲鳴が聞こえた。空を見れば遠くに夕焼けが見える。
「馬鹿な奴らだ」
悲鳴はもう聞こえない。その代わり、魔物たちが、「美味い、美味い」と鼻を鳴らす音が聞こえる。
「人間は愚かだ。自分たちが地上で最強の存在と信じて疑わない。俺たちが馬鹿だと信じ切っている」
ヤタは皮肉めいた事を言うと、僕の肩から空へ飛んだ。