表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

勇者です

本日2話目

イフェルさんとルディアンさんと私で、状況を伝えあった。

とりあえず島崎家は皆元気です。もうすぐ弟も生まれます。と伝えると、イフェルさんとルディアンさんは安心したように笑う。仲が良くて、結婚しているのかな、と思った。


尋ねてみたら、二人とも気まずそうになってから、「そうなの」「あぁ」と返事するので首を傾げる。

誤解を持ち帰っては困るから説明する、と話が始まって聞いてみた。


とりあえずルディアンさんはイフェルさんが好きになってイフェルさんもオッケーだから結婚したと。

前の旦那さんは、パパを罠にかけた悪い人で、とても無理で離婚していた、とか言った。良く分からないがとりあえず前の旦那はパパに悪い事した悪い人だ。今は城からも出したから許して、と言われたからしかたないから許してあげる。


結婚して一緒に暮らしていて仲良さそうなのに何が問題なのかと思ったら、周りの人たちが『王様のイフェル様が魔王の息子に取り込まれた』って魔王を倒そうとするらしい。

頭が痛い、と言っていた。


「じゃあ、魔王の息子を倒したからもう悪い事はしないから大丈夫って、人間に言えば良いですか?」

と言ってみた。

イフェルさんはハッと顔を上げたけど、ルディアンさんはものすごく嫌そうな顔をした。プライド高いタイプだろう。


「それで、本当に仲が良くて両想いだから、二人一緒に住まわせてあげてって、お願いしたら、一緒に住めるんじゃないですか」

「そうしてくれる? ありがとう、リンちゃん!」

「・・・イフェル! 待て、それはあまりにも情けない!」

ルディアンさんがイフェルさんに取りすがろうとする。


「だって。今回は話が分かるリンちゃんが来てくれたけど、もし他の人が勇者で召喚されてしまったら・・・。嫌よ私、だって殺されるかもしれないなんて、そんな」

イフェルさんが泣きだしたのでルディアンさんが慌てて抱きとめた。


「どーするの?」

話の進まない大人たちだなぁ、と私は尋ねた。


「お願いルディアン。私は王でいる他無いわ。他の者には価値が出ない事は皆察しているもの。私はあなたが殺されるなんて無理よ、お願い、人間を抑えるために我慢して」

「・・・分かった」

仕方ないなぁ、ヤレヤレ、的にルディアンさんが笑ったが、話はまとまったのだろうか。

あと、やっぱりイフェルさんの方が上に見えるんだけど黙っておいた方が家庭円満の秘訣というもののはず。バァバの知恵だ。


最終的に、私の提案で話がまとまった。

「向こうの世界でも元気にしてくれ。リンなら、色々話も聞けるから、また来てくれると嬉しい」

「ごめんなさいね、リンちゃん。一緒に行って説明したいのだけど、そうするとルディアンまで一緒になって、皆怯えて話を聞いてくれなくて・・・」

「はーい」


困ったようにしながらもルディアンさんに肩を抱かれて照れてしまったイフェルさんを見て、私はコクリと頷いた。

なんかバカップル。こっちは大丈夫。


***


「というわけで、魔王の息子は酷いことしないって約束してくれました。でも、仲良し夫婦だからあのままにしてあげてください。イフェルさんも無事だしラブラブです」

「そ、そうですか・・・! ありがとうございます、勇者リン様! 今までは恐ろしくて誰も近寄れずにおりました、何せ魔王を喰らおうとするほどの者なのです!! それが城に王をとらえて・・・」


話が長くなってきたので、途中で手を上げた。

「帰ります。戻してください」

「なりませぬ、勇者リン様」


え、何。


「魔王をどうか倒してください、お願いいたします! どうか世界を魔族の手から救ってください!」

「えー」


***


私のパパは異世界から来た人で、パパのパパ、つまりジィジは異世界で魔王のお仕事をしている。強いからだ。

もう一人のジィジは勇者をして魔王を倒したけど、その魔王とは別の魔王で、倒した魔王の後に魔王になった魔王なんだって。


それで、異世界にはパパでも思うように行けないというので、魔王のジィジには会った事が無い。

勇者のジィジの孫で勇者の力を持っているから、異世界に呼び出されてしまうかもしれないとも教えられていたから、そうなったら、一度会ってみたいなあとは思っていた。


本当は、魔王には、王であるイフェルさんが持っている道具でお願いするらしいのだけど、魔王のジィジと、魔王の息子のルディアンさんはとてもとてもとても仲が悪いらしくて、イフェルさんも困っているぐらいで、魔王ジィジを呼ぼうとするとルディアンさんがものすごい妨害をかけてくるらしい。

迷惑な大人たちだ。特にルディアンさんは私のパパを見習って欲しい。パパは、皆に「すごく良い人」って褒められているのに。


一方で、このお城には、魔王ジィジの魔法がかかっているのだそうだ。ルディアンさんが占拠している場所以外で、魔王ジィジに呼びかけてみることにした。

つまり、とりあえずベランダで。

「しまざき りんです。勇者になりました。魔王、来てー!」


ドン、と空から音がした。

見れば、真っ黒なドラゴンが急に空に現れていた。びっくりした。

それからあっという間に近づいて来る。

ただびっくりして動けないでいたら、ヒョコッと頭のツノの間から、長い髪のキレイなお姉さんが顔を出した。

「迎えに来たよー! 私、セディルナ! えーと、魔王の娘? 乗って乗って!」


私の様子を見ていたたくさんの人たちが悲鳴を上げた。

「セディルナ様だ!」

「セディルナ様」


「あの人、怖いですか?」

と私は振り返って、ひれ伏している人たちに尋ねてみたが返事が無い。

「どうか、どうか勇者様、お力を持って我々をお助け下さい・・・!」

と私にだけ聞こえるように小さな声で訴えて来る。


困った顔で、キレイなお姉さんに視線を戻す。

「早く乗りなさいよー、私飽き性だから早くしないと帰っちゃうわよ」

すでにお姉さんはイライラし始めていた。

これはいけない。


私は黒いドラゴンの顔に近寄り、

「こんにちは。よろしくお願いします」

とお辞儀をした。ドラゴンはじっと見ているだけだ。きっと大丈夫だろう。


挨拶もしたので、ドラゴンの顔の横の方から登らせてもらう。

「はい、勇者捕まえたぁ~!」

グィ、と抱え込まれるように持ち上がられた。

ヒィイイ、とたくさんの人たちが青ざめてしまったのが分かった。

あれ。捕まったのかな?


「はい、ドーン!」

お姉さんの雑な掛け声で、黒いドラゴンは音もなく高く舞い上がった。

「ひゃーはははは、ちいさーい、ディーゼの匂いちょっとするー、ひょーほほほほほ!」

お姉さんは私を抱きしめたままで擦り寄ってきた。髪がグチャグチャだ。そして、長い細い髪が顔にかかってきてくすぐったい。


「セディルナ様、奇行が過ぎるよ」

空の上で、澄んだ男の人の声に驚いた。でも、この黒いドラゴンしか他に声を出す人はいないのだ。

「だってー、見たでしょう、あの人たちの驚いた顔!」


「セディルナ様は、人間側寄りだって思われたいんじゃなかった?」

「どっちでも良いのよ。気ままで強いって思っててくれたらそれで良いの。私のイフェルはバカ兄貴が取っちゃったし」

急に綺麗なお姉さんは落ち着いた話し方になって、それから私を持ち上げて私の顔をしげしげと見た。

「ねぇー、話してみてよ」


「はじめまして。しまざき りんです」

「もっと他の事言ってよ」


「セディルナ様、きれいなお姉さん」

「キャー!!」

私のお世辞に、セディルナ様は目を輝かせて喜び、私をギュッと抱きしめた。

「この子、リンちゃん! 勇者リン! 分かってる! 賢い子! 大好き、セディルナはリンが大好きー!!」


「落ち着いてよセディルナ様。見てられないよ」

「スピィシアーリも、これぐらい言ってくれれば良いのよ」

急に可愛く拗ねたセディルナ様に、黒いドラゴンは嬉しそうに笑った。


「移動が終わったら言うから、待っていて」

「約束よ」


「セディルナ様とこの子は、恋人なの?」

と声を出して聞いてみれば、セディルナ様は今度はニヤリと企むように笑った。どうも表情がくるくる変わる。

「『この子』って、スピィシアーリの事? そうよ。恋人なの。でも勇者リンに言っておくわ。スピィーシアーリはこう見えて私より年上の頼れる魔族なのよ!」

「へぇ。すごいね」

「すごいでしょう。私のものよ!」

「へーすごいね」

「ふふふっ、あげないのよ」


「着いたよ、降りて」

黒いドラゴンも嬉しそうに笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ