しまざき りん です!
※『異世界で生きるのは難しい、ので』『運命の人にしてくれてありがとう』の完全な続編です。
※『運命の人にしてくれてありがとう』を読んでいないと、多分全く分かりません。おまけ的な話です。
「こんにちは。はじめまして。私は、しまざき りん です。5さいです」
「お・・・おおっ、ゆ、勇者様! どうか世界をお助け下さいっ!!」
島崎 凛。すみれ幼稚園の年長です。
突然ですが、園庭で遊んでいたら、異世界に召喚されてしまいました。
***
「あの、もうすぐ園バスに乗るので、早く帰らないといけないです。パパとママが心配します。ジィジとバァバとオオジィジも、ものすごく心配するので、返してください」
「勇者様! どうか話をお聞き届けくださいませっ!!」
パパとママへ。
私は、倉庫みたいな寒い暗い部屋にいます。
パパみたいな髪の真っ青な人もいるので、多分、パパがいたという異世界だと思います。
ジィジが言ってたみたいに、たくさんの人が私に土下座しながら脅迫して来るので、多分、同じ異世界だと思います。
私は心の中でパパたちに手紙を送ったつもりになった。
目の前には、土下座している人が、
「いーち、にー、さーん、しー・・・」
えーと、「さんじゅうに、よんじゅうに、ごじゅうに・・・」
えーと。
「ひゃくまんごせんごじゅうご」
とりあえず、たくさん。
数え間違った気がするけどまぁ良いよね。
私はため息をついた。
こういう事があるかもしれないから、くれぐれも注意しなさいと、パパやジィジにちゃんと教えられているのだ。
なぜなら、ジィジはまだ若くてカッコイイ時に異世界に召喚されて勇者にさせられてボロボロに働かされたことがあって、パパはママと一緒に家族になるために異世界からお引越ししてきた人なのだ。ちなみに近所の有名人。
ジィジとパパは、とりあえず、
「自分を人間だという人が周りにたくさんいたら、『イフェル』という人に会いなさい」
と教えていた。
そして、
「自分を魔族だという人が周りにたくさんいたら、『ルディゼド』か『ノクリア』という人に会いなさい」
とも教えていた。
私は思い出して、周りに尋ねた。
「皆さんは、人間ですか。魔族ですか?」
「人間です! どうか、勇者様! この世界は魔族どもが支配しており人間は虐げられているのです、どうかっ!」
「人間かぁ。なーんだ」
私は笑った。
ママから、ご挨拶の時には笑顔で、と言われているのでニッコリ笑った。
「じゃあ、イフェルっていう人に会いたいです」
まるで震えたように、たくさんの人たちが目を見開いて怖がった。
あれ。なんだろう。
***
「大丈夫です。実は、私のお爺ちゃんも勇者でした。私は勇者の孫だから、強いので、イフェルに会います」
と私は主張して、今、お城の7階の入り口の扉にいる。
人間の話は難しくてあんまりよく分からないけど、そのまま言うなら、
『人間の王様のイフェル様は、悪い魔王の息子に囚われてしまった。この国は終わりだ。助けてください勇者様。この国は魔王の息子に乗っ取られていて、この世界は魔王に乗っ取られている』
とりあえず、扉を開けようと思うのだけど、手が届かない。
困って助けてくれる人を探したけれど、7階にはもう誰も入れないんだそうだ。
入れたけど。
私が入れたのは、勇者だったジィジが、私の誕生日祝いに勇者の力をプレゼントしてくれたせいかなぁ?
「何かあった時に役に立つかもしれん」
ってジィジが真剣に言ったので、とりあえず頷いてもらっておいたんだけど。
「すみませーん。イフェルさん、いますか?」
声をかけてみた。
じっと待っていたら、カチャカチャっと扉が開いた。
隙間が開いて、そこからキョロキョロっと私の周囲を見回し、それから視線を落として私を見つけた。
「まぁ! 可愛い勇者さんね!」
「イフェルさんですか?」
「そうよ。・・・まぁ、あなた1人なの? 誰もついてこなかったの?」
「入れないからって・・・」
「もう。意気地なしねぇ」
ムッとイフェルさんはついて来なかった誰かを怒ったようだが、私には座り込んで視線を合わせてくれた。
「お名前は?」
「しまざき りんです。5歳です」
「しまざき・・・。ねぇ、しまざき タクマ という名前の人、それから、しまざき ハナって、名前の人、知り合いにいる?」
「ジィジとママです」
しまった。人に言う時は『お爺ちゃん』と言わなければいけないのにうっかり『ジィジ』に。
でもイフェルさんは気にしなかったようだ。
「まぁ、そう! とりあえず入って」
イフェルさんは嬉しそうに立ち上がりながら私の手を握り、それからふと心配に顔を曇らせた。
「あの、勇者として召喚されてしまったのでしょう? ごめんなさいね」
「大丈夫です。私、勇者なので強いです」
「そう・・・? でも、あの、魔王とその息子を、殺さないで、欲しいの・・・」
「・・・」
私は口をつぐんだ。
心配そうにイフェルさんがじっと私を見ている。それにこの人はイフェルさんだ。私はきちんと話すことにした。
「大丈夫です。私のパパは魔王の息子だし、魔王はもう一人のおじいちゃんです。話し合えば分かります」
「そう」
イフェルさんはホッとした。
「知っているのね。良かったわ。ここにいるのは、あなたのお父さんのお兄さんよ」
そっか。
私はコクリと頷いた。
***
「ディーゼの娘か! へぇー!」
奥の部屋で、黒に近い紺色の髪の人が偉そうにソファーに座っていた。
でも私を見ると面白そうに笑って身を乗り出した。
「りんちゃんですって。5歳よ。ね、りんちゃん」
「はい」
イフェルさんの言葉に頷いた。
「ルディアン、クッキー取ってきてちょうだい。小さくて甘くて可愛くて美味しいのよ」
「ん」
魔王の息子は、イフェルさんにアゴで使われていた。
じゃあ、イフェルさんの方が偉いんだ?
首を傾げて見上げると、イフェルさんも不思議そうに笑いながら首を傾げてきた。
「あの、イフェルさんが、魔王の息子に囚われて可哀想だから助けてって言われて、呼び出されました」
「・・・」
「・・・」
言った途端、イフェルさんと魔王の息子の顔が暗くなった。
イフェルさんはため息をついた。
「ごめんなさいね。何かあるとすぐに勇者に頼るんだから・・・」
「大丈夫ですか? 勇者いらないですか?」
「勇者はいらないわ。りんちゃんをお客様でおもてなししたいから、おやつは食べて行って欲しいのだけど」
「食べます」
「ごめんな」
困ったように魔王の息子さんがテーブルの上に、クッキーを山盛りにしたお皿を置いてくれた。
イフェルさんがお茶を淹れてくれて、クッキーを食べてみる。
あ。硬い。
チラと二人の様子を見たけど、二人とも深刻そうに考え込んでいる。ちなみに、私の両隣だ。
こちらの食べ物は口に合わないって聞いていたけど、対処法も知っている。
とりあえず硬いものが多いので、水でふやかせばまだ食べられるという事だ。
お茶にクッキーを浸してみる。
「食べ物で遊んじゃ駄目よ」
とイフェルさんに軽く注意されてしまった。仕方ないので、取りあえず再びクッキーを舐めてみる。
粉の味。
うん。粉の味だ。
「おいしい?」
と聞かれたので、コクリ、と頷き、もう一度お茶に浸してみる。
二度目はもう何も言われなかった。
二人とも静かだ。
大人は色々大変だから、きっと考え事をしているのだろう。
だから、ふやけてきたクッキーを食べてみる。うん。なんだこれ。粉の味だ。これが異世界というものなのか。感動しなくちゃ。
「リンちゃん。ディーゼは元気か? どうしてる?」
気を遣って、魔王の息子が声をかけてきた。
「元気です。いつも、ママとリンがいて幸せだって言ってニコニコしています」
「そりゃよかった。安心だ」
と、魔王の息子は本当に安心したように笑った。悪い人ではないようだ。
「オジさんは誰ですか?」
と私は尋ねた。
「ディーゼの一番上の兄貴だ。ルディアンという名だ。よろしくな、勇者のシマザキ リン」
「勇者って言うのは止めて」
とイフェルさんが注意をいれて、ルディアンさんが少し困ったように動きを止める。
なんだか困っている大人たちのために、私は改めて自己紹介した。
「しまざき りんです。勇者タクマの孫です。魔王からみても孫です。強いです」
「強いのか」
とルディアンさんが面白そうに笑った。
「強いですよ?」
と私は粉クッキーをかじりながらじっと見た。
途端、ルディアンさんの表情が消えて真顔になった。じっと目を見つめ返してくる。
「言っておくが、魔王より、俺の方が強い」
「ルディアン」
窘めるのはイフェルさんだが、ルディアンさんは引かない。
「えっと。私は早く帰らなくちゃパパとママが心配してジィジが大騒ぎするので、早く帰ろうと思います」
「あぁ。そうしろ」
私の伝えた内容に、ルディアンさんは真顔で私を見つめながら答えた。
「とりあえず、平和的に早く帰りたいです。どうすれば良いですか。教えてください」
私も真面目に答えた。このように言えと、教えられている。
「・・・お前、ディーゼの娘なのに豪胆だな」
マジマジと、ルディアンさんは言った。