第一話
稚拙な文章ですが、どうかお付き合いくださいませ。
暑い。
もうすぐ日付が変わる時間だっていうのにバカみたいに暑い。最寄駅から家まではなるべく無心でいたいのに、バカみたいな暑さがそれを邪魔する。肌に張り付くワイシャツは先ほどの満員電車を嫌でも想起させる。
いつものことではあるが、どうしようもなくムシャクシャする。だからこそ、帰り道コンビニで安い発泡酒を買って飲みながら歩くのが、いつの間にか日課になっていた。
いつものコンビニでいつもの発泡酒を買う。このコンビニのこの時間帯にいる店員は大方顔を覚えた。向こうもこっちのことを覚えているだろう。金〇社畜野郎とかそんなあだ名がついているかもしれない。まあどうでもいいけど。
コンビニを出てすぐにふたを開けて一口飲む。美味い。
以前はこの手の酒、ビールとか発泡酒なんてものの良さは全く分からなかった。ただ苦くて、炭酸がきつくて、好き好んで自分から飲むことはまず無かった。
それがいつからだろう。上司につきあっていやいや飲み始めた頃からだろうか。いや、違うな。なんだかとても嫌なことがあった日だ、その日の終わりにもう全部どうでもいいと思って、めずらしく酒を飲もうと自分から思って、その時もあのコンビニで酒を買った、そしてそこで何故かはもう覚えてないけど、ビールを3缶ほど買ったんだ。別に美味いなんてその時も思わなかったが、やけに身体に沁みた。その時の気分にぴったりの酒だったんだ。そのあたりからだったろうか。ビールを飲み始めたのは。
つまらないことを思い出したもんだ。何も考えたくないというのに。
自宅のアパートに着いた。しかしまだ家には入らない。ここにも日課があるのだ。
アパートの横にはタバコの自販機があり、そしてその横には灰皿がある。カバンと缶を地面に置いて、タバコに火をつける。吸い込んで、吐き出す。
自販機の青白い光に吸い寄せられて、蛾が飛んでいる。こいつらは食べ物を探してふらふらして、光るものを見つければそこに何の意味もなく、ただの反応として吸い寄せられる。楽な生き方だなと思う。もちろん自分なんぞが、生物の生存競争に参加すれば、ひとたまりもなく、あっという間に淘汰されてしまうだろう。それでも、何も考えず反射的に生きていけるのならばそれほど楽なことはないだろうと思う。
二本目に火をつける。
しかし、幼い頃は、自分もまた何も考えず反射的に生きていたことを思い出す。
先生がこれ分かる人ー?と言えば全力で手を挙げて、プールの時間になればはしゃいで泳ぎ回る、休み時間になればボールを持って校庭に向かって駆け出す。放課後は友達の家に集まってゲームをしたり、公園で缶けりなんかもやった気がする。暗くなってきたら家に帰る。家では母親が晩御飯の支度をしていて、テレビを見て時間を潰していたら父親が帰ってきて、晩御飯が食卓に並ぶ。母親に呼ばれた兄がめんどうくさそうに部屋から出てきて、家族で食卓につく。家族で何の話をしていたのかはもう思い出せない。晩御飯を食べ終わって、風呂に入って、テレビを見ていたら眠くなってきて、ふかふかの布団で寝る。
俺はどこで人生を間違えたのだろうか。これから先、自分がまたあんな風に、温かい空間にいることは想像がつかなかった。毎日毎日クソみたいな仕事をして、休日はずっと寝てるか、パチンコに行って必死に時間を潰す。何も考えない努力をする。クソみたいに生きてる。たまにこうして、ふと自分を顧みたり、将来を考えて絶望する。
実家に帰りたい。
ああ、違うな。帰りたいのは実家じゃなくて、少年だったあの日、あの瞬間、あの場所なんだ。
そんなことに気づいて、もうどうしようもなくやりきれなくなった。
タバコの火を消して、発泡酒の残りを一気に飲み干す。アパートの下のゴミ捨て場に空き缶を投げ入れる。たった一缶だけだったが少し酔いが回ってきた。頭がぼんやりとする。
酒は良い。余計なことばかり考える頭の働きを鈍らせてくれる。
若干熱を帯びた身体でアパートの階段を上がる。何かが抜け落ちてしまったような気分だ。全身から力が抜けて、階段を上る足が重たい。
鍵を開けて、家のドアノブに手をかけた時、自然と声が出ていた。
「帰りたいなぁ・・・」
自分で言った言葉に、自分が驚いた。何を訳の分からないことを言っているんだ俺は。
ドアノブを回しながら、ふと思う。せめて良い夢を見て眠ろうと。
力なくドアを開けて家に入ろうと一歩踏み出す。
踏み出したその先は屋外だった。
昼間の公園。
暑い。尋常じゃないくらいに暑い。
照りつける太陽が身を焦がすようだった。
状況がつかめない。思考停止してしまった。
「優太ー!」
突然名前を呼ばれ振り返る。
どこか見覚えのある子どもがこちらに向かって走ってきていた。
「あっちで健介がエロ本見つけたんだって!行こうぜ!」
なんだこれは一体。白昼夢?走馬灯?タイムスリップ?
有無を言わさず手を引かれる。走りながら俺は考えていた。
こいつ名前なんだっけ?
読んで頂き、誠にありがとうございます。




