第4章ー3
7月14日朝、ホンジュラスのトンコンティン空港に併設された空軍基地では、興奮した操縦士達が、口々に怒声を張り上げていた。
「だから、あれ程、言っていたんだ」
「緊急出撃体制を執れとな」
虎の子のホンジュラス空軍の「雷電」32機の内18機が、エルサルバドル空軍機による奇襲攻撃によって損傷を受けていた。
修理すれば、その内の数機は、何とかなるかもしれないが、どちらにしても、ホンジュラス空軍の戦闘(爆撃)機の過半数が損傷を受けたことに違いは無い。
「出撃可能な「雷電」全てに機関砲弾を満載し、胴体タンクに燃料を満載してくれ。完了次第、「雷電」は緊急出撃を断行する」
フェルナンド・スアソ大尉が、その場に居る最高位の士官として、整備兵達に命令を下した。
「しかし、最高司令部からの命令は、まだ届きません。出撃していいのでしょうか」
整備兵の1人が疑問を呈すと、スアソ大尉は、菅野大佐から引き継がれていた独断専行を発動した。
「出撃禁止命令が届いていない以上、我々は出撃して構わない、ということだ」
「1機でもエルサルバドル機を減らすぞ」
そう言いながら、スアソ大尉は、取りあえず緊急出撃可能となった「雷電」8機を率いて出撃した。
エルサルバドル空軍は、F-51戦闘機、24機を主力としている。
今や、ホンジュラス空軍はエルサルバドル空軍に対し、戦闘機数においてほぼ2対1の数的劣勢に追い込まれてしまったのだ。
だが、スアソ大尉には勝算があった。
練度に関しては、我々が上の筈だ。
「見つけたぞ。F-51が8機だ」
スアソ大尉は、大声を上げた。
朝のトンコンティン空港に対する空爆の後、エルサルバドル陸軍の地上侵攻を支援しようと、エルサルバドル空軍も再出撃を断行していた。
そのために投入された内の8機を、スアソ大尉は発見したと言う訳だった。
「2機1組の編隊を組み、急降下して、各自が長機を狙え。相手の瞳の色が分かり次第、ぶっ放せ。攻撃後は2機1組を崩さずに、自由に散開して攻撃せよ。敵機を全て落とすまで、手を緩めるな」
スアソ大尉は、簡潔な命令を下し、自らも8機の中の隊長機と目星を付けたF-51に対して、急降下を開始した。
「雷電」の急降下に、正面から渡り合えるレシプロ戦闘機は、P-47位である。
エルサルバドル側が、気が付いた時には、F-51,3機が火を噴いていた。
「至近距離からの30ミリ4挺の雨に耐えられる軍用機は、この世に存在しない」
それを見たスアソ大尉は、嘯いた。
慌てて、生き残ったF-51,5機は各自、散開したが、「雷電」相手には、最悪の戦法で彼らは対処してしまった。
速やかな横機動で、旋回するなり、横滑りするなりして、水平飛行で逃走を図れば、F-51は、「雷電」相手に必勝ともいえる存在である。
だが、急降下による一撃を加えた後、そこから加速の付いた状態で、急上昇して自らに迫ってくる「雷電」に対して、彼らの多くは、反射的に急上昇して逃げようとした。
「馬鹿が、「雷電」相手に急上昇で逃げられるものか」
スアソ大尉は、嘲笑した。
ホンジュラス空軍のパイロットは、菅野大佐に育て上げられた弟子の末裔ばかりである。
「雷電」の特性を熟知して、自動空戦フラップを敢えて手動にして、「雷電」の格闘性能を更に高められる腕の持ち主しか、この場にはおらず、エルサルバドル空軍のパイロットの練度は、到底それには及んでいなかった。
最終的に、スアソ大尉は、更に2機を撃墜した。
部下達も、残り3機を撃墜した。
7月14日のホンジュラス空軍の「雷電」8機と、エルサルバドル空軍のF-51,8機との初空戦は、エルサルバドル空軍8機の全機撃墜で終わることになった。
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