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第3章ー2

 菅野直大佐は、良くも悪くも、部下を「可愛がる」性格だった。

 そのために、菅野大佐は、ホンジュラスに着任早々から、様々なトラブルを、ホンジュラス国防省との間で引き起こしている。


 例えば、21世紀に入った現在になっても、ドローレス現国防相を悩ませているホンジュラス軍の部下への「可愛がり体質(特に空軍が酷い)」を作ったのは、菅野大佐だった、という伝説がある。

 何かあると、菅野大佐(ちなみに、ホンジュラスに派遣されていた当時の階級は、少佐)は、部下に対して、鉄拳制裁を加えており、それが、菅野大佐に指導を受けた士官達から、下士官兵へ、更に空軍から陸海軍へ、と広まった、というのである。


(ちなみに、この点について、菅野大佐自身は、ほぼ全面否定している。

部下が、真面目に訓練に取り組まなかった場合等に、確かに自分がその部下を鉄拳で殴ったことはあるが、そんなに殴った覚えはない、と菅野大佐は述べている。)


 だが、その一方で、菅野大佐が、部下を大事に思っており、部下から敬愛された存在だったのも事実だった。

 菅野大佐は、訓練等の時は、鬼のように訓練生となった部下を教官としてしごくが、一度、時間外になると率先して訓練基地の近くの歓楽街に部下と共にしょっちゅう繰り出した。

 ラム酒を部下と痛飲し、バカ騒ぎをして、訓練基地の門限を、率先して破り、訓練基地司令官が、さすがに叱ると、たまに騒いで、門限を破って何が悪い、と居直ったという逸話が、菅野大佐にはある(たまにどころか、しょっちゅう騒いで門限を破っていた、という菅野らしいオチまで付くが。)。


 また、きつい訓練は、実戦の際に役に立つためにやるのだ、いじめは絶対に許さん、と菅野大佐は公言しており、実際に、菅野大佐が、ホンジュラス空軍を指導していた頃は、鉄拳制裁はあったが、ホンジュラス軍には「可愛がり体質」は無く、菅野大佐が日本に帰国した後に発生したものだ、という証言者も複数いるのも事実なのだ。

 菅野大佐を庇うためのウソ、という説もあるが、逆に言えば、菅野大佐は、証言者にウソを吐かせるだけの魅力を持つ教官だったともいえる。


 そして、菅野大佐は、率先して、自ら「雷電」を操縦して、模範を示し、部下達に自分と同等の腕を示せるようになれ、としごき抜いた。

 訓練生の腕が、自分と同等に達するまで、訓練の途中からの離脱は許さん、として、決められた訓練時間をオーバーしても、目標としている水準に達するまで、時間を気にせずに訓練し抜かれた、というのは、菅野大佐やその周囲にとっては、日常茶飯事ともいえることだった。


 そのために、空軍の燃料は欠乏気味という事態を招来し、座学よりも飛行の際の腕を重視するという弊害を招いたのだが、菅野大佐にとっては、そんな弊害を気にもしなかった。

 かくして、こういった猛訓練で、菅野大佐にしごき抜かれたホンジュラス空軍の訓練生等は、中米一、いや米空軍に匹敵すると謳われる技量の持ち主として、巣立つことになり、「雷電」を手足のように操る技量の持ち主がごろごろいる、という事態になった。


 その代償として、ホンジュラス空軍は、国力の割に小規模な空軍で耐え忍ぶ、量より質の空軍とならざるを得なかった。


 菅野大佐が、ホンジュラスを去って10年余り後の1962年、スアソ大将(最終階級)は、ホンジュラス空軍に志願した。

 本人自身の主張によると、陸軍に入って地面を這いずり回るよりは、空軍の軍人として、空を飛びたかったから、という理由だった。

 だが、スアソ将軍は、ホンジュラス空軍に入って、早々に後悔することになる。

 菅野大佐の遺した訓練法等は、ホンジュラス空軍に、脈々と残っていた。 

 次から第4章になります。


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