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プロローグ

「フェルナンド・スアソ大佐は、起きておられるかね」

「国防大臣自ら、お見舞いとは」

 2017年3月初めのある日、入院中の夫を見舞い、帰宅しようとしていたスアソ大佐の妻、マリアは、ドローレス国防相直々の見舞いに驚く余り、頭を下げながら言った。


「そう畏まらなくてもいい。スアソ大佐は、ホンジュラスの国民的英雄だ。私自身、現役の空軍士官時代は、あの方、直々に鍛えられたものだ。そんなことでは、実戦では役に立たんとな」

 ドローレス国防相は、昔を懐かしむような口調だった。

「先程、起きてはいましたが、鎮痛剤が効いて、寝ているかもしれません」

「起きておられればいいが」

 マリアの言葉を聞き、そう言いながら、ドローレス国防相は、SPと共に、スアソ大佐の病室に入った。


「わざわざ来なくてもいいだろう。もう、わしも、とうに退役した身だ。口うるさい老人が死にそうでせいせいした、と君は思っておるだろうに」

 スアソ大佐は、現役軍人時代を思い出させる減らず口を、ドローレス国防相に、開口一番に叩いた。

「いいえ、あなたは、ホンジュラスの国民的英雄です。見舞わない訳にはいきません。それに私の現役時代の師匠でもあります」

 ドローレス国防相は、スアソ大佐の顔を見た瞬間に、思わず敬礼しており、畏まりながら言った。

 スアソ大佐も答礼しようとしたが、点滴の管が腕に刺さっていて答礼できない。

 スアソ大佐は苦笑しながら言った。

「もう答礼もできない身だ。近々、天国に行くのを待つばかりの身になったな」


「あなたの愛機「雷電」は、今でも現役運用可能な状態にあり、ホンジュラス空軍の現役機です。「雷電」が現役で飛べる限り、わしは死なない、祖国を守り続ける、と私達に言われたではありませんか。その言葉を違えないで下さい」

「そんなことを言ったな。わしより年上の癖に、わしよりあいつが長生きするとは。分からんものだ」

 ドローレス国防相とスアソ大佐は、会話した。


「大統領直々の命令でもあります。今度こそ、お受けください。ホンジュラス空軍大将への特進辞令です」

 ドローレス国防相は、SPに持参させていた辞令書を、スアソ大佐に差し出した。


「わしは、佐官で充分だ。将官への昇進はお断りだ、とお前には何度も言ったろう」

「ホンジュラスの国民的英雄にして、世界的に知られたホンジュラス空軍軍人が、きちんと礼遇されないままで、あの世に旅立たれては、ホンジュラス政府のみならず、国民全体が恥をかくことになります」

 スアソ大佐の昇進辞退に、ドローレス国防相は、強硬に言った。

「分かった、分かった。わしも老いたな。受けさせてもらう」

 スアソ大佐は、ドローレス国防相から辞令を受け取った。


「ところで、「雷電」は、本当に飛べるのか」

「言うまでもありません。今年の独立記念日でも、飛行予定です」

「そうか」

 ドローレス国防相の答えに、スアソ大佐は、遠くを見やりながら言った後で続けた。


「わしが生まれる前に、日本で開発された戦闘爆撃機が、ホンジュラス救国の伝説の名機になるのも、不思議な話だと思わんか」

「確かにそうですな。「雷電」が。開発されてから75年も経つのですな。そして、更に言わせてもらうと、あなたはそれを操って、世界最後のレシプロ戦闘機の撃墜王になった。あなたの名は、ギネスブックに今でも載り、ネット界では最も知られているホンジュラス人の一人ですよ」

「わしとて決して短命では無い。70歳を過ぎているのだからな。それなのに、「雷電」は今でも現役機として維持されている。最早、象徴としての存在だがな。あいつと、また飛びたいものだな」

 スアソ大佐は、落涙しながら言い、かつての様々な話を想い起こした。

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