第2話 ありきたりな冒険者
さて、テンプレな感じにガラの悪い冒険者に絡まれた俺だが、どうやってこの状況を打開しようか。
テンプレな対応としては、こんな感じか。
1,正論で論破
2,フルボッコだドン☆
3,無視
これ以外の方法で解決しなければいけない。
フルボッコ通り越して即殺してやってもいいんだが、流石に善良な市民を殺すのはちょっと…。
いや待てよ。『善良』な市民?
どう見ても善良に見えないおっさん冒険者に、無属性魔法【解析】を使用した。
【ガイル】LV24 人族
HP 550
MP 450
攻撃力 642
防御力 557
精神力 427
魔法抵抗 432
俊敏 395
(幸運) 7
(咎) 145896
〈スキル〉
土魔法LV3・生活魔法LV5・身体強化LV2・強力LV5・硬化LV4・疾走LV4・打撃耐性LV3・斧術LV4・拳術LV3・体術LV2・偽称LV2
〈称号〉
悪党・新人潰し・裏切られし者・魔物の敵
他にも、今何考えてるかとか、過去の記憶とか、挙句人には言えない性癖まで表示されている。このおっさんは、脚フェチだそうだ。まぁ、どうでもいいな、別に知りたくなかった。
因みに、()が付いているのは隠しステータスというヤツで、普通の【解析】や、スキルの〈鑑定〉では見られない項目だ。
俺が見られるのは、魔法発動の時に込めてるエネルギーがハンパじゃないからだ。ごり押し万歳。
というか、こいつ【咎】の量ハンパ無いな。このステータスは、罪を犯す度増えるもので、死んだ後の審判だとか、転生先を決める時に関係してくるやつだ。
一応、善行を積むと減るんだが、これをまともな値にするのは、残りの人生全部使っても不可能だな。
罪の詳細を見ていると、アカンやつがあった。
……
【強盗】
【殺人】
【強姦】
……
はいアウトー。軽犯罪ならまだしも、これはアウトですわー。もしかするとこの世界では、とくに咎めだてられるものでも無いのかもしれないが、そんなのは知らない。俺は取り敢えず現代日本で培った倫理観に従おう。俺には自由に振る舞う権利があるのだ。なにに従うのかは俺が決めるし、気分が乗らなければ従わないのも思うがままだ。
……この考え方あんまり精神衛生上良くなさそうだな…。なんか自分ルールでも決めといた方がいいんだろうか…。
ともあれ、このオッサンは善良な市民ではないことが確定したので、サクッと殺してしまおう。ん?自分ルール?現代日本の倫理観?知らない子ですね。
咎の値が一定以上のヤツが、天寿を全うすると一気に咎が増えるし、他殺されると減るという仕様もあるので、ここでやっちゃうのがむしろこいつの為だよね。きっと。
そんな最早、独善的とすら言えない理由で、おっさんの処分を決めて実行しようとした時、
「おまえ達!何をしている!」
凛とした声が響く。
声の主は、赤い鎧を身に付けた女性だった。ヘルムを被っているので、顔の下半分しか見えないが、見える部分から察するに多分美人。
【透視】…
うん、美人。うっかり鎧と服も透けたが、唯の事故だ。他意は無い。ちなみに童貞小僧に下着を透かす度胸はない。
「あいつは、血塗れ紅騎士か!」
「それって、S級冒険者の⁉︎」
ざわめく野次馬達。
S級ねぇ…。
【スカーレット】LV96 人族
HP 5468
MP 6895
攻撃力 4536
防御力 5601
精神力 6256
魔法抵抗 4754
俊敏 4597
(幸運) 271
(咎) 1596
〈スキル〉
火炎魔法LV7・風魔法LV6・光魔法LV6・無属性魔法LV4・火耐性LV9・水耐性LV4・風耐性LV8・土耐性LV5・光耐性LV3・闇耐性LV8・火傷耐性LV9・凍結耐性LV8・睡眠耐性LV5・麻痺耐性LV6・毒耐性LV6・呪詛耐性LV4・身体強化LV6・剛力LV5・頑強LV6・疾走LV8・跳躍LV7・打撃耐性LV8・斬撃耐性LV7・刺突耐性LV5・激痛耐性LV6・剣術LV9・体術LV7・気配探知LV6・魔力探知LV5・回避LV7・裁縫LV9
〈称号〉
血塗れ紅騎士・魔物の敵・魔物の恐怖・鉄の乙女・紅蓮の剣士
おー、この人本当に結構強いじゃないか。人間に限定するなら、トップレベルじゃなかろうか。いや、平均がよくわかんないから、なんとなくだけど。
ぱっと見のステータス的に魔法剣士かなー。
そして、何気に裁縫LVが高いというね。似合わないね。
そんなことを考えていると、スカーレットさんが口を開いた。
「冒険者に成ろうという、少年の素晴らしい志を邪魔するとは何事か!」
おっさんを怒鳴りつける。
「い、いや、おれぁ、こいつの事を思って、ちょっと忠告してやっただけで…」
「黙れ!貴様の心無い行いのせいで、一人の少年の夢が断たれるところだったのだぞ!誰しも、冒険者というものに一度は夢を抱くものだ!その夢を断つ資格が貴様にあるのか⁈」
凄い怒ってんなこの人。別に冒険者なんかに夢は持ちませんけど?食いっぱぐれた傭兵と破落戸合わせた感じの職業でしょ?
……いや、やっぱり成り上がりの夢を見ることもあるか。なんなら俺だってファンタジーな冒険に想いを馳せているわけだし。
「い、いえ…すんません…」
おっさんは、ぺこぺこと頭を下げている。スカーレットは、俺に向き直ると、
「大丈夫か?少年。冒険者登録をしに来たのか?登録の仕方は分かるか?」
と、とても親切にしてくれる。正直、余計なお世話だ。何故親切にしてくれるかが、分かるだけ余計に。
さっき、俺の【解析】は性癖まで見えると言ったな?つまり……
〈少年好き〉
…こういうことだ。さっきからなんか撫でくりまわされているし。身長低いのは地味に気にしてるんだけどなぁ…。そうこうしてる内に、おっさんが立ち去ろうとする。ショタコンお姉さんを押し退けて、
「ちょ待てよ」
若干声色を変えつつ、呼び止める。これが俺の出来うる限りのイケボである。御本家様のイケメンっぷりとは雲泥であるが。
まぁ呼び止められれば問題ない。俺としては、強姦殺人犯のおっさんを逃がす気はないのだ。
「んぁ?何だよ…」
テンションの低いおっさんが振り返る。
ちょ待てよが通じない事に一抹の寂しさを感じつつ、俺は考える。
さて、どうしてやろうか。
ありがとうございました。