ありきたりなプロローグ②
よろしくお願いします。
ゆっくりとオレの意識が浮かび上がる。重たい水の中から抜け出るような感覚。そして、意識が完全に覚醒した。
(あぁ、思い出した…)
オレの前には、未だに分かりにくい説明を続けているアリーディアがいる。長々とした説明から、王国万歳的な要素を抜くと、こんな感じになる。
ここは〈エリシア〉という名の異世界であり、剣と魔法と魔物、ステータスやらスキルやらがあるテンプレファンタジーな世界である。そしてこの世界には4つの大国がある。
セントタキア王国、コーラデリア神聖国、メギダリアル皇帝国、そしてここ、フェアウスト王国である。
この世界に7体存在する魔王を討つべく、セントタキア王国とメギダリアル皇帝国でも勇者召喚を行っているが、神聖国が勇者と認めているのはセントタキア王国の勇者のみ。フェアウスト王国としては、魔王討滅の栄誉を他国に持ってかれるのが気に入らないので、続くようにして召喚を行ったらしい。そして、帰りたいとゴネられても困るので、名前と、異世界から来たと言う事以外の記憶を消したということだ。
うん、下衆だね。
「───と、いう事なのです!」
凄い良い笑顔で説明を終えたアリーディア王女。本当に顔だけなら綺麗なんだがなー。オレは手の中にある頭を弄びながら思う。
「「「「…えッ?」」」」
騎士達が素っ頓狂な声を上げる。アリーディアの頭を放り捨てると、騎士達はそれをガン見しながら呆けている。お前ら護衛だろ、仕事しろ。
右手をひょいと横に振ると、職務怠慢な騎士達と、逃げ出そうとする魔術師達の首がポンと飛ぶ。血は出ないよ。気持ち悪いし。
(さてと、怒りに任せてやってしまったがどうしたものか)
とりあえず今の状況を整理しよう。
オレは神だ。
………いや待て落ち着け、正確には神の分け身だ。神が自分の魂を幾億にも分けて、いろんな世界に放り込んだ中の一つだ。
只人としての記憶や経験、感情等を蓄えて、死んだら本体の元に戻り、神は人生を追体験する。そんな娯楽の一環だ。
まぁ、本体分体と言ってもどちらもオレだし、上下関係は無い。あくまで一にして全、全にして一、という感じである。
でも怒りに任せて惨殺とかオレらしく無いな。
…あぁ、『俺』も居るのか。寧ろ主人格は俺みたいだな。身体に精神が引っ張られたとか、そんな感じかな?
それにまだ『神』の記憶と力の封印は、完全に解けた訳ではないらしい。
精神魔法の【記憶消失】の影響で、5層の内1層目の封印だけ解けたようだ。というか、冷静になれば転移魔法で元の世界に帰れるんだよな、俺。そう考えるとなんか悪い気がしてきたし、人格もいい感じに混ざって安定して来たので、こいつらを蘇生する事にした。
サクッと身体を治して、ふよふよ漂う魂を引っ掴む。
……どれが誰の魂か判らんな。という事で、魂に刻まれた記憶を読むことにした。この表面にこびり付いてる汚れみたいなのが記憶だ。プライバシー?知らんがな。
……
………
うっわぁ。なんか一気に蘇生する気が失せてしまった……。この王女様(記憶を読んだので確定した)はどうやら選民思想の塊で、趣味はメイドに対する虐めや拷問といったダメな王族まっしぐらな感じだ。生き血を浴びても、美容効果はないよ?
まぁでも、幼少期からそうやって育てられたなら仕方ないのだろうか。それにいきなり惨殺したのは俺の落ち度だし、惨殺された部分の記憶を消して、騎士達と一緒に蘇生させた。
「───と、いう事なのです!」
よし、問題無いな。
「ご理解頂けましたでしょうか?」
「えぇ、よく分かりました」
今度はきちんと話を聞いて、指示に従う。どうやら王様に謁見しなければいけないようだ。
謁見の間への廊下を歩きながら、今後の事について考える。最初は、さっさと帰るつもりだったが、男子高校生の人格としてはこのまま帰るのは勿体無い。だからと言って、キチンと勇者をやるのは、もうオレの中の記憶にあるのでつまらない。
なら俺は、平凡になんか過ごしてやらねぇ。オレの記憶に無いような、奇抜な日々を過ごしやる!
ありがとうございました。