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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者と魔王と神と

作者: 緋月紫砲

やっとここまで辿り着けた。元の世界から強制的に連れて来られて、ある目的の為に旅をしてきたけどそれもやっと終わる。


「魔王を倒せば帰れる」


勇者が魔王を倒せば元の世界に帰してくれると神様は言ってくれた。希望はそれしかない。だから魔王を倒す旅を今までずっとしてきたんだ。


「誰もいない?」


魔王城に辿り着いたというのに配下の魔物が一匹も現れて来ない。今までは散々邪魔するように出てきたというのにラストダンジョンとしてはあり得ないと思う。魔王戦前に体力や魔力が減らなくて助かるけど。


「一人だけでノコノコとやってくるなんてね」


辿り着いた玉座の間にはやはり魔王がいた。私が一人で来たのは神からの条件があるから。勇者が魔王を殺すこと。つまり他の人達が魔王を殺した場合、私は元の世界に帰れない。


「これで私の目的が達成される」


「魔王の目的なんて世界征服でしょ」


「そんなのどうでもいい。私の目的は貴女と一緒。ただ元の世界に帰りたいだけ」


魔王が付けていた仮面を外して素顔を晒した。そしてその中身を見て、私は絶句してしまう。


その素顔は紛れもなく私だったから。


「な、何で私と同じ顔をしているの」


「私達が同一の存在だからでしょう。それかどちらかが偽物であるか」


「私は本物よ!」


「私も自分が本物だと思っているわ。だからこの話に答えなんてない。ねぇ、さっさと始めましょう」


魔王の右手にはいつの間にか剣が握られていた。それは私の聖剣と正反対のどす黒く染まった剣。私も慌てて聖剣を抜いて対峙するが、頭の中は混乱している。


「魔王の目的が私と一緒なのは分かった。ならその目的達成の手段というのは」


「貴女と同じよ。勇者をこの手で殺すこと。それが神との約束」


嘘だと思いたかった。神は私の味方だと思いたかったから。魔王にも同じ条件を与えているなんて、どうしてそんなことをしたのか分からない。むしろ分かりたくない。もしかして神は。


「考えても無駄よ。私も考えたけど結局答えなんてない。ただ希望に縋るしかないのよ。私達は」


振り下ろされた剣を受け止め、鍔迫り合いをしながら改めて魔王の顔を確認する。何度見ても同じ。そこには私がいる。


「例え神の遊びであろうが、私達に他の道は用意されていない!だから私の為に死んでよ、勇者!」


「それは私の台詞よ!魔王!」


魔王を圧倒する為に一気に魔力を高ぶらせる。だけど魔王も同じように魔力を開放して力を解き放つ。例え同じ存在であろうと私はこちらの世界に来て色んな修羅場を潜ってきた。魔王城にいるだけの私に負けるはずがない。


そのはずなのに。


「何で互角なのよ!?」


「元からの強者であった私と、経験値を稼いで強くなった私が同じ強さであっても不思議じゃないでしょう」


魔力の強さも、剣による強さもほぼ同じ。こんなことがあり得るの。これじゃまるで仕組まれた出来事のようじゃない。


「違いがあるとすれば精神的な物かしら。貴女が修羅場を潜ったように、私も地獄を見ていたのよ」


「魔王城にいるだけの魔王がどうやって地獄を見るというのよ!」


「ごく一般的だった私が魔王になるまで何人の魔族を殺したと思っているの?それに魔王になった後も何人の人間を殺したと思っているの?」


滅ぼした国は一つや二つじゃないこと位知っている。でもそれに何の関係があるというの。魔王なら当たり前の行為じゃない。


「私は目的の為に大勢の犠牲を生んでいる。同じ人間も殺せない勇者とは覚悟が違うのよ!」


「私の事を見ていたように言わないで!」


「見ていたから言っているのよ!遠見の魔法でも何でも使ってね!貴女が人との触れ合いで堕落するだけの余裕がある時に私が何をしていた?ずっと殺戮を繰り返していたのよ!」


街を魔物の群れから救って感謝されたり、逆に私が窮地に陥った時に国の騎士に助けて貰ったこともある。私には確かに救いがあった。でも魔王にはそれがなかったというの?


「此処に近づいてくる者は問答無用で葬ったわ。通すことにしていたのは勇者只一人。それ以外は全て邪魔者でしかない!」


「自業自得じゃない!自分から孤独になっているのにそれを不幸みたいに言わないで!」


「だから言っているでしょ!それが私の覚悟なのよ!」


言い合いもヒートアップしているが、私と魔王の戦い自体も熾烈を極めている。魔王が座っていた玉座など原形を留めていないほどに破壊されていた。お互いに全力を尽くしている。


それでも終わる気配は見えない。


「流石は勇者の私と言った所かしら。強さが同じだと戦法も似るものね」


「何でそんなに余裕があるのよ。魔王は今の状況に疑問とか思わなかったの?」


「当然思ったわ。でもそれが何?さっきも言ったけど私達は神の用意した希望に縋るしか道はないの。他に帰る方法なんてないんだから」


私をこの世界に呼んだ神は確かに言った。魔王をその手で倒せば元の世界に帰してくれると。世界の危機を救ってくれと。でも今の状況は明らかに矛盾している。何故元凶の魔王が私であって、その私にも同じ提案をしているのか。


それでももう一人の私が言う通り、道は一つしかない。


「その希望を掴むのは私よ」


「違うわ。私よ」


聖剣にありったけの魔力を送る。後の事なんて考えない。長々と戦っていても埒が明かない。だからこの一撃に全てを込める。そしてそれは魔王も一緒だった。


「「帰るのは私よ!」」


全身全霊の力を込めて、相手にぶつかるように剣を構え突き進む。


聖剣は確かに魔王の胸を貫いた。魔王の剣も私の胸を貫いた。


「「まだよ!」」


聖剣に込めていた魔力を解き放つ。そうすれば魔王の身体は消し飛ぶはず。でも何でだろう。魔王も同じことをやろうとしていると分かったのは。同じ私だから当然か。そして視界が光に包まれて私の意識は消し飛んだ。


神様、どうかお願いですから私を帰してください。



「あれま、結局同士討ちか。確かに可能性が一番高い方だったけど、終わりはどうしようかなぁ」


定番としては勇者はその命を掛けて魔王を倒した。それで英雄の出来上がり。あとは吟遊詩人でも面白おかしく後世に伝えていくよね。


「うーん、でもちょっと残念だったかな。最後の顔が見れなかったのは」


勇者も魔王も元の世界に帰ることを目的に頑張っていたんだけど。その目的は絶対に達成不可能であったこと。神である私が言うんだから間違いない。


「どんな表情を見せてくれたかな。元の世界なんてないと言えば」


あの子達は最初からこの世界の住人だというのに。元の世界なんてあるはずもない幻想の為に命を掛けて、そして命を刈り取ってでも頑張っていたのにね。


全部意味のない行為だった。


「私が身体を作り、記憶を捏造したお人形さん。それなりに面白かったわ」


最後に残ったのは頭だけか。身体は綺麗に吹っ飛んだというのに頭だけは傷だらけとはいえ二つとも残ったね。こうやって見るとどっちが勇者で魔王なのか全然分からないや。


「心残りがあるとすれば最後の絶望が見れなかったことね。でもそれは次回に取っておきましょう」


二つの頭は回収して次の物語でまた役立ってもらうとしよう。まずは小休止を挟んで世界の動向でも見ていることにしましょう。


「ふふ、次はどんな物語にしようかなぁ。暇潰しに始めたはずなのに面白すぎて嵌っちゃうわね」


姉妹同士の殺し合い?国同士の戦争?それとも、それとも。考え出したらキリがないほどやってみたいことが出来上がるわね。人間の人生って何て面白いのかしら。


「あっ、記憶を残しての再スタートと言うのも面白そうね」


絶対に私へと反逆して来るだろうけど、それを如何にして神である私が華麗に撃退するかなんてのも素敵ね。私も参加できるし、信仰心を集めることも出来ると一石二鳥じゃない。


「でもこれは最後に取っておこうかしら。まずはっと」


回収した二つの頭を復元しないとね。あとは身体を再度作り直して、新しい設定を記憶に埋め込まないと。あぁ忙しい、忙しい。


「次の出番までもうちょっと待っていてね。道化のお人形さん達」


貴方達の物語はまだまだ終わらないわよ。

恋愛要素を盛り込んだ物語を考えていたはずなのに出来上がったのが今作。

筆者の歪みが半端ないです。もうギャグとしか言いようがありません。

続きも考えましたが、更に救いがないので書くかどうか未定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 勇者と魔王が表裏一体、互いに想いをぶつけ合う戦い……シチュエーションを見れば非常に熱い内容のように感じましたが、そこから続いたラストにぞっとしました。 これからも、あの両者は本人たちも知らな…
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