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第三章「第一の事件」――その二

「ねえ、何か見つかるかな?」

 わくわくしたような声音で香々美が言う。クリスマスプレゼントの箱を開けようとする子供のような表情。しかし、その隣に横に並んで立っている雑音は、

「さあ」

 と気のないように首を傾けるだけに留まった。その隣にはナガツキと、さらに隣にマイクを握って立ち尽くしている八代がいる。

 そしてその四人の視線の先には左の背中。地面に膝をつき、『幽霊探知機』の本体の上面についているノブを真剣な表情で色々いじくっている。

 彼らがいるのは、合宿所の外。建物の横の林の中である。

 建物のすぐ側なので、そこまで暗くはない。窓からこぼれている光のおかげで、懐中電灯を使わなくても周囲は見えている。時折、そこら中を飛び交う虫が光を遮るくらいである。

 辺りには、鈴虫の鳴き声だけが響いている。

 この合宿所の半径三キロメートルの範囲には民家はない。一帯が林。長居の実家がある町がここから一番近い人里である。なので、この地域は騒音とは無関係。夜になれば道を通る車の音すらも聞こえなくなる。

 そして、このような人里離れた場所で時折噂されるのが、いわゆる心霊現象なのである。

 過去に自殺者がいた。猟奇殺人があった。幽霊の目撃例がある。事実かどうか分からないこの地域を舞台とした事例が、まことしやかに囁かれている。とある雑誌には、この場所は霊魂が集まる場所として記されたりもした。

 一般人には「くだらない」と切り捨てられてしまうような記事であるが、しかしそのような怪談話が人の世から消えないのはそれに興味を持つ人間が少なからず存在するからであり、そのような人間が集まるのが『幽霊研究会』なのである。

 合宿をする際にうってつけな場所だということでこの合宿所が選ばれたのか、それともこのような場所を見つけたから合宿をするようになったのか、現部員には知るべくもないことである。ただ、毎年研究会の部員は夏休みにこの合宿所に出向き、心霊の調査をするというのが慣例になっていた。

 加えて、今年は高性能な武器がある。

 たった今左がセットしている『幽霊探知機』。元々幽霊の類に興味があった左が、自分の小遣いを溜めて通販で買ったものである。つまり、左の私物だ。

 取扱説明書によると、電磁波と音波で幽霊を探すものらしい。

 現在八代が握っているマイクがいわゆるセンサーで、そこから音と磁力を探査する。そしてその信号がコードを伝って左がいじくっている本体にたどり着き、その側面の液晶パネルに波形が出る――という仕組みだと、説明書に書いてある。その仕組みがどれだけ信頼が置けるものなのかは、左にも分かっていないが。

「よしっ」

 と頷きながら左は立ち上がった。セッティングがうまくいったのだろう、満足げな顔で『幽霊探知機』を見下ろしている。そして八代の方を振り返り、

「では、会長。そのセンサーを空中に晒してください」

「え? こ、こうですか?」

 八代はマイクを握った手を上に上げた。頭の上くらいの高さ。腕が震えているのだろう、小刻みに左右へ動いている。

 それを確認すると、左は再度ディスプレイに目線を下ろし、

「……う〜ん。反応は見られませんね。もう少し待ちましょうか」

「こ、このままですかあ?」

 八代は弱々しく言う。

 ――そして一分、二分、三分、四分、五分…………。

「……あ、あの、僕、もう腕が痛いんですけど……」

「会長、頑張って!」

「会長、頑張ってください!」

「ここで頑張らなかったら会長じゃない!」

 香々美と雑音と左がやんややんやと言う。八代は腕を震わせながら苦しそうな表情で、

「し、しかし、君たち、そうは言っても、僕の腕は…………」

「ほら、ナガツキちゃんも、八代先輩を応援して!」

「え? あ、はい。えーと…………八代様、頑張ってください」

「うおーーーーーーっ!」

 叫びながら、八代はさらにいっそう高く手を上げた。辺り一面から、鳥がばさばさと飛び去る音が聞こえてくる。


 ――そして、一時間後。


「……う〜ん、見つからないね」

 ディスプレイを見つめながら、左は首をひねった。

 それを横から覗き込みながら、香々美は、

「何だろね? 場所が悪いのかな? それとも時間?」

「両方あるね。明日は色々場所を移動しながら探してみようか」

「そうだな。まあ時間はたっぷりあるし、地道に探すか」

「あ、だったらわたくし、明日の皆さんのお弁当を作りますよ」

 四人は『幽霊探知機』を囲んで話し込んでいる。その奥には、

「………くっ、はっ、はっ、はっ」

 右腕を抱え、地面に突っ伏す八代。ゆっくりと顔を上げ、話し合っている四人の方を見ながら、

「…………あの、ですね、君たち…………ちょっと、思ったんですけど…………このマイクを高い位置に据えておきたいんならね…………そこら辺の木にでも、紐でくくりつければ――」

「さ、みんな、もう戻りましょ」

 香々美がパンと手を叩き、呼びかけるように言う。

「もう十時ですよ。明日も活動しなくちゃならないんですから、早くお風呂入って、早く寝ましょ。ほら、会長、ぐずぐずしてないで早く行きますよ」

「………………………………はい」

 八代はうつむきながら、よろよろと立ち上がった。

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