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第二章「到着」――その二

 周囲を森に囲われた――というより、木々の隙間にぽつんと建っているように、幽霊研究会の合宿所はあった。

 丸太を積み上げたような、いわゆるロッジのような作りの平屋。ある程度の年代は過ごしているのであろう、壁はいくらか黒ずんでいる。

 この合宿場は、元々はこの『幽霊研究会』のOBが親から受け継いだものである。しかしその大先輩はこの建物を持て余しており、またこの辺りの森は霊験あらたかな場所として過去にニ三度テレビでも紹介されたような割かし有名な場所で、それが丁度いいということで、例年夏休みの四日間、現役生に貸し出されるようになったものである。しかし、その辺の詳しい事情は減部員の誰も預かり知らぬことになっていた。現在『幽霊研究会』との実質的なつてを持っているのは、このロッジの管理を任されている、近くの町に住む家事手伝いの女性なのである。

 そんな建物に相対して、

「へー、これが合宿場ですか。森の家って感じですね」

 と、開口一番、左は高らかに感想を口にした。

 その横、八代がロッジの玄関の前に立ってチャイムを鳴らすと、キンコーンと言う音が中に鳴り響いたのが聞こえてきた。ほどなくして、ぎいと扉が開く。

 そこから出て来た、後ろ髪を結って赤い髪留めをした女性――長居晃子ながいあきこ――は、はにかんだような笑顔を浮かべて、

「幽霊研究会の人たちね。いらっしゃい」

「お久しぶりです、長居さん。四日間お世話になります」

 軽く会釈をしながら、八代が応えた。そして腕を横に広げ、

「ええと、彼らが今年入ったメンバーです。このスポーツがりの子が小林君、こっちの茶髪の子が十二街君、こっちの黒髪の女の子が東さん。皆一年生です。あと、こっちの白い長髪の女の子が、東さんのお友達のナガツキさんです。部員ではないんですが、興味があるそうで、参加して貰いました」

「そう。皆、何か初々しいわねえ。初めまして。私は、一応ここの管理人の長居です。宜しく」

 膝に手を当ててお辞儀をする長居。それにつられて、初顔合わせとなる四人もぺこりと上半身を傾けた。

「さあさ、疲れたでしょ。中に入って、荷物を降ろして――――って、そっちの、ええと、十二街君……だったっけ? 何か、すごい荷物持ってるわね。それ何?」

「あ、これですか?」

 言いながら、左はしたり顔で背負っていたもの――テレビのような大きさ、形の黒いバッグ――を足元に降ろした。そしてその上面をぱんぱん叩き、

「これは『幽霊探知機』ですよ」

「幽霊……探知機?」

「ええ。集音器とガウスメータを合わせたようなものです。何でもこの辺りの林は、その筋で有名な心霊スポットって話じゃないですか。だったら、その音や電磁波を集めれば、幽霊の存在が確認できるんじゃないかと思って、持ってきたんですよ。今夜早速試してみるつもりなんですが」

「そ、そう……。そう言えば、これは幽霊研究会の合宿だったわね」

 長居は引きつったような笑みを浮かべる。

「ま、まあ、そこまで本格的なら、今年は出会えるかもね――――さあさ、とにかく中に入って入って」

 扉を開け、中に入るよう促す長居。五人は「おじゃまします」と言いながら、そのロッジの中に足を踏み入れた。

「へえ」

 ロッジの床に荷物を降ろしながら、雑音が感嘆を漏らす。思っていたより――外観から推測していたのより――なかなか広い建物だった。

 壁も床も天井もすべて丸太を削ったもの。玄関もなく、すべてのスペースが土足だった。入口を入ってすぐに大きなテーブルと椅子が据えられたリビングのようなくつろぎスペースがあり、その脇にキッチンがついている。その奥にはそのまま一本の長い廊下が見え、両脇に部屋の扉があった。部屋の数は全部で八個――右に四つ、左に四つ。その奥にトイレのマークがついたドアが見える。

 五人ともが中に入ったのを見て取ると、長居はドアを閉め、

「まずは荷物を置こうか。奥に八つ部屋があるから、一人一部屋ずつ、好きなところを使ってちょうだい。あと、この建物の説明は――説明って言うほどのことじゃないけど――一応、電気もガスも水も電話も通ってるわ。だから料理もできるしお風呂も入れるわよ。滅多にないだろうけど、ブレーカーは外の玄関の横にあるから、落ちちゃったらそこを上げてちょうだい。そうね、じゃあ少し休んだら、もう五時だし、夕飯の支度をしましょうか」

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