読影室
古くて白い建物の静かな一画に、それはある。
壁は入り口以外は全て天井まで棚が作られて、中にはぎっしりとそれが納められている。
白い制服の学士が慎重にそれらを取り出して閲覧台に置く。
あるものはカンバスに貼られて箱に入れられ、またあるものは画用紙を硬い厚紙で裏打ちしたあと、薄紙を上部一辺だけ糊で貼って表面を覆ってある。
その薄紙を、そっとめくる。
淡いシルエットが現れる。
今はもうなくなってしまった物の形。
あるいは、者の形。
ここにはもう、影しか残ってはいない。
いや。
確かに影が残っている。
そこから全てが読み取れる。
彼らには。
影を残していった物。
影だけを遺して行ってしまった者。
読影士が目を閉じる。
手を触れ、耳をそば立てる。
あなたになら、わかるのだろう。
かすかなほこりと古びた紙の匂いにしか僕には感じなくても。
それを邪魔しないよう、僕は読影室の扉をそっと閉じて部屋を出た。