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さらば愛しき受信料

作者: 瀬川潮

 放課後、校舎三階の教室からぼんやり校庭を眺めていると、クラスメートの佐村由加里が下校しているのを見つけた。後ろ姿もカワイイ。親友の久保内愛子と一緒だ。ぺちゃくちゃと何かしゃべっている。

 何を話しているのかな、風に乗って内容が聞こえないかなと思ったとき、くしゃみが出た。

 するとどうだ。

(ふうん。愛子はクラブの先輩が好きだったのか。意外。今まで岩縞君に気があると思ったのに)

 そんな声が聞こえた。もちろん佐村の声だ。

 いや、聞こえたというより直接頭の中に響いてきたという感じ。本当の声ならその時、手の甲で佐村の右腕をパシリと叩いた久保内の「なんでやねん」の声も聞こえるはずだし、直接頭に響いた時に佐村はただ笑っていただけのような感じだった。

 おそらくさっきのは、佐村が心の中で思ったことだろう。つまり、今のはテレパシーということになる。ノイズが聞こえなかったということは、彼女限定に違いない。

 佐村のことを密かに思いつづけて五年。高校まで追いかけた一途な恋がこんな奇跡を起こしたか!

 じーんと感動するがそれどころじゃない。せっかく佐村限定のテレパスになったのだから、彼女の心の声に耳を傾けなければ。

(……よかった。今まで愛子にはかなわないだろうからって思ってたけど、それなら私が岩縞君を好きになってもいいわけよね) 

 え、え?

(でも、自信無いよなぁ。中学高校と一緒だったけど、何も無かったもん。きっと、私なんか眼中に無いんだろうなぁ)

 いやいやいや、そんなことはない。というか、逆だよ、逆。佐村の方が俺のこと眼中に無いと思ってたんだから。

(思いきって告白してフラれると辛いから、このままオトモダチでいる方がいいよね)

 うわー。ちょっと待って。俺、フラないフラない。

 やがて佐村と久保内は校門の近くまで歩きつき、そこからはまったく佐村の心の中の声は聞こえなくなった。おそらくこの距離が能力の限界か、一過性の能力でもう力がなくなったということか。が、このさいどっちでもいい。今からすぐに追いかけて佐村に告白するんだ。

 だっと教室から出ようとした瞬間、何やら交通情報が頭の中に響いてきた。

(国道2号下り線、港分かれ交差点で3キロの渋滞。続いて住吉神社前交差点は1キロの渋滞……)

 え。何だ何だ?

 とにかく冷静になろうと頭を切り替えた。すると、別の声が頭に直接響いてきた。

(いつもエスパーラジオを受信・ご聴取いただき、ありがとうございます。当ラジオは受益者負担で放送しております。受信料は、聴取者のこのラジオ以外のテレパス感知情報となりますので、ご了承のほどお願いいたします。以上、政府広報からのお知らせでした)

 政府広報一体何やってんだと思った次の瞬間、俺は何をしようとしていたのか分からなくなった。赤い斜陽が差し込む教室から急いで出ようとしたポーズのまま。一体、どうするつもりだったのか。頭をひねるが、何も思い出せない。

 かろうじて、佐村に告白しようとしていたことを思い出す。

 ぶるぶる。なんて無茶なことを。しかも自信満々で。思い切って告白してフラれたら辛いじゃないかと教室を出るのをやめ、胸をなでおろした。



   おしまい

 ふらっと、瀨川です。


 他サイトの同タイトル企画で執筆、発表した旧作品です。

 世の中こうやってプライバシーが守られてるのかなぁとか思っていただければ幸いです。

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