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出会い ~昇降都市ユクリプス~ 4

第1章「出会い ~昇降都市ユクリプス~」の4話目になります。

第1章は今回でラストです。

 翌朝。昇降城が降りてくるのを祝うかのような晴天に恵まれ、朝日の光が小窓から差し込んでくる。

「うーん」

 木漏れ日が顔にあたり、エレアが目覚める。

「あ、おはようアミィ。もう起きてたんだ」

 エレアが顔を横に向けると、アミィはベッドから起きて着替えを始めていたところだった。

「おはよう、エレア。私も今起きたところよ。早く準備をしてメルを迎えに行きましょう」


 二人が着替えを終え、荷物をまとめて階段を下りると、さすがにまだ朝早かったか、一階の酒場には客は誰もおらず、カウンターでマスターが朝食の準備をしていた。

「おはようお嬢ちゃん方。朝早いねぇ」

「おはようございますマスター。メルはまだ起きてきていないですか?」

 アミィの問いに、酒場のマスターは苦笑しながら答える。

「あー、アイツの寝起きの悪さは天下一品だ。今頃ぐっすり夢の世界だよ」

「もう、今日朝一番で一緒に行くって約束してたのに」

「お、嬢ちゃん達も昇降城に行くのかい? だったらメルのやつを叩き起こしてやってくれ。階段脇のあそこの小部屋でグースカ寝ているからよ」

「昨日着替えに入ってた部屋ね。ありがとう、マスター」

 そう返事をして小部屋へ向かうエレア。アミィも一緒について行く。


「メルー。朝だよー」

 そう言いながらエレアが小部屋の扉を開ける。ベッドを見るが、そこにはメルの姿は無い。おかしいなと思い視線を上に上げると、メルが目を閉じたままちょうど人の目線くらいの高さに浮いていた。どうやらピクシー族は空中に浮いたまま寝るようだった。ふわふわと浮かびながら、夢でも見ているのかむにゃむにゃと寝言を言っている。

「メル、起きて。早く行かないと昇降城混んじゃうわよ」

 アミィがそう声を掛けるが、メルは全く気付く気配がない。

「メールー! 起ーきーろー!」

 エレアがメルの耳元に近づいて叫ぶが、それでもメルは全く起きる気配は無く、エレアの叫んだ息に揺られて向こう側へとふわふわ流れていく。それを見たエレアがついに痺れを切らしてメルの両足をガッチリと掴む。自力で浮いていることもあり、重さはほとんど感じない。

「起ーきーろー!」

 そう叫びながらメルの身体を上下にぶんぶんと揺さぶるエレア。さすがのメルもこれには耐えられずに目を覚ます。

「な、何!?」

 寝起きで頭が回っていないのと激しく揺らされたせいで視界がぐるぐると回って平衡感覚がないメルは何が起きたのが事態を把握できていない。

「おはよう、メル」

 そんなメルにとびっきりの笑顔でエレアが挨拶をした。


「うう、まだ気持ち悪い……」

 よろよろとメルが中通りを飛んでいた。まだ平衡感覚が戻っていないのか時々大きく左右に逸れていく。

「あれはメルが声かけても全然起きないのが悪いんだぞ」

「だからってあれは無いよエレア~」

「まぁまぁ。メル、この先の角を右に曲がるので良かった?」

 アミィの問いかけに、メルが答える。

「うん。ほら、前方に人だかりが見えてきたでしょ、あそこがユクリプスの『中央大通り』よ」

 ユクリプスは、昇降城が降りてくる円状の窪みを中心に、さらに円状に広がった街である。しかし、円状に発展しているとはいえ、降りてくる昇降城地区へと上がる階段は昇降城地区の南方一箇所にしか架けられないこともあり、街の中心から南に伸びる大通りが中央大通りと呼ばれ、一番栄えている通りだった。中通りから角を曲がって中央大通りへと三人が出る。


「うわあ、すごい……」

「朝からこんなにたくさん人がいるなんて!」


 アミィとエレアが思わず声を上げる。中央大通りは、まだ朝も早いこの時間から、人で溢れ返っていた。昇降城へ向かう人だけではなく、両脇に所狭しと並んだ露店を目当てに朝から人が並んでいる。美味しそうな匂いを漂わせた屋台から、髪飾りなどの装飾品を並べた店、そして恐らくはエレアとアミィが作ったものも並べられているであろう、魔力付与の道具を並べた店まで、多種多様な店に人々が出入りしている。

「ほらー、二人とも先に行こうよー」

 人だかりに圧倒されてきょろきょろと周りを見ている二人に対し、メルが声を掛けた時、メル以外からの声が二人に対して掛かった。


「すまない、道を尋ねたいのだが」

「あ、はい」

 そう言って振り返ったアミィの視界に飛び込んできたのは、男性の平均よりも一回り大きな身長の、真っ赤な髪と目をした女性だった。歳の頃は二十手前といったところだろうか。鱗状鎧(スケイルアーマー)を身に付け、背中には大きな棒状の武器を掛けている。鎧の上からでもわかるがっしりとした筋肉質の肉体は、並の男性では力勝負をしても歯が立たないだろう。


「あら、あなたヴァルキュリネスね、珍しい。どこへ行きたいの?」

 そう聞き返すメル。ヴァルキュリネスという単語は、エレアとアミィも聞いたことがあった。山間部で生活する、女性だけの種族で、真っ赤な髪と目が特徴だという。必ず女性しか生まれず、異種族の男性と結婚するが、生まれてくる子供は男の子だと夫の種族、女の子だとヴァルキュリネスとして生まれてくる。基本的には自分達の集落の中で生活するため、見た目的にはピクシーよりも人間に近いものの、ピクシーよりも人間と交流する機会は少ない。もちろんエレアとアミィも実際にヴァルキュリネス族を見るのは初めてだった。

「君もピクシー族ならこの町では珍しいのではないか? 昇降城地区へ行きたいのだが、この通りを真っ直ぐで良かっただろうか」

「あら奇遇ね。私達も昇降城に用事があって今向かっているところよ。良かったら一緒に行かない?」

「そうなのか、それは助かる。私の名前はグニ・ザッカート。よろしく頼む」

「よろしく、グニ。私はメリエル、メルでいいわ。こっちの二人は黒髪がエレアで金髪がアミィ、二人とも魔術師よ」

「エレア、アミィ、よろしく。さすがは<魔術都市>だな。こんな街中を普通に魔術師が歩いているとはな」

「うん、グラディナダ全体を管轄する魔術師ギルドがあるからね。私達みたいな、おっと私はそんな風には見えないかな、ハハハ。アミィみたいな格好の人は大体魔術師だと思うよ」

 エレアが答える。たしかに大通りには白い外套を纏った一見して魔術師とわかる人達も何人も見て取れた。


「グニは昇降城へどんな用事があって行くの?」

 今度はアミィが尋ねる。

「ああ、それが具体的な中身については聞かされていないんだ。族長より書状を受け取っていて、これを見せてソルフィーシア様だったか、この町の統治者に会うのが目的らしいのだが」

「えー!?」

 大きな声をあげたエレアに対して、驚くグニ。驚いて真紅の目を見開いたままエレアに聞き返す。

「ど、どうしたエレア?」

「実は私達3人もソルフィーシア様に会いに行くんだ。しかも三人とも書状だけ渡されて中身は知らされず。グニと全く一緒よ」

「そうだったのか」

「案外四人全員同じ用件だったりしてねー」

 そう言いながらくるくると三人の周りを飛び回るメル。

「三人は何も心当たりは無いのか?」

「そうねー、少なくとも私は一切無し。エレアとアミィは魔術師ギルド絡みの案件かもしれないけどね」


「そうか。メルが知っているかはわからないが、ヴァルキュリネスには成人するに際して必ず『試練』が課される慣わしがある。しかし、私は恥ずかしいことにこの年齢でまだ『試練』を受けていない。だから今回のこの書状の中身は私に課せられた『試練』なのだと考えている」

「試練って具体的にはどういうものなの?」

 そう聞くアミィにグニが答える。

「そうだな、よくあるものは一人で魔族の住む森を抜けて物を届けるとか、もっと単純なものだと素手で熊を倒すとかそういうものだな」

「素手で熊を倒す! だからグニもそんなに身体が大きいのかぁ」

「人間からすると大柄かもしれないが、私はヴァルキュリネスの中では平均的な身長だぞ」

「熊なら私も一人で倒したことあるけどね」

 そう言って背中の長槍を抜いてクルクルと振り回すメル。ピクシー族は自分の身長以上の長さのピクシーブレードと呼ばれる長槍で自分の身長の何倍もの大きさの野獣を狩りながら森で生活しているのである。昨日メルが舞台で見せた長棒の捌きは、ピクシーブレードの構えの応用だった。

「試練を与えられるとかなんか嫌だなぁ」

 そう言うメルに対し、目を輝かせて答えるエレア。

「ソルフィーシア様から課される試練! それを乗り越える四人! いいなぁ、かっこいいなぁ……」

「ちょっとエレア、まだ四人の目的が一緒だなんて決まってないわよ」


 そんな会話を続けていると、前方に長蛇の列が見えてきた。その先頭は昇降城が降りてくる窪みに隣接している。

「うわー、もうこんなに並んじゃってる。待つの嫌だなぁ」

「メルが寝坊したから出るのが遅れたんじゃない。文句言わないの」

「まぁまぁ、せっかくグニも一緒になったんだし、お話をしながら並びましょう」

 そんな会話をしていると、グニが急に周りを振り返った。

「ん、どうしたのグニ?」

「いや、気のせいか、何か異音が聞こえないか?」

「異音?」

 そう言われてエレアは耳を澄ましてみるが、行列の人々の会話しか聞こえてこない。

「んー、特に何も聞こえな……、あれ?」

 何も聞こえないと答えようとしたエレアの耳にも、人々の会話以外のある「音」が聞こえてきた。それは、突風が吹き荒れる時のような音だった。


「エレア、上!」

 アミィが上空を指差して叫ぶ。エレアがアミィの指差す方を見ると、そこには上空遥か高く浮かんでいる昇降城が、はっきりと肉眼でわかる大きさで、どんどんと大きくなってきていた。昇降城地区が降りてきているのだった。異音は、ゴオオオオオオと言う大地が空気を切り裂く物理的な音と、キィンキィンと言うエレアとアミィは普段からよく耳にしている、魔力石(パワーストーン)の魔力を使用するときに出る魔法的な音が混ざり合ったものだった。昇降城の中にあるという超巨大魔力石の力であの小島は昇降しているのだろうかとアミィは考えた。

「そっか、三人とも昇降城が降りてくるのを見るのは初めてか。凄い音だよねー」

 そんなメルの言葉も耳に入らないくらい、エレアは目の前の光景に圧倒されていた。直径1KM(キルメテル)の小島がまさに着陸しようと目の前に迫ってきていた。下から見上げる昇降城地区の下部は剥き出しの岩肌で、所々岩の隙間からは魔術的な模様が見える。


 まさに『大地が降って来た』のだ。


ということで第1章「出会い ~昇降都市ユクリプス~」にて主人公四人が出会うことになりました。

次章では、四人がソルフィーシアに会う理由が明らかになります。

ご感想等お待ちしています。

次回更新は来週水曜日の予定です。

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