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エピローグ

ということで今回が「紅玉の聖女」編最終話となります。

よろしくお願いします。

 アミィと姫に支えられながら立ち上がった女王が、エレアに向かって話し始めようとする。

 エレアは、一国の女王が一体自分に対して何の話があるのか見当も付かない。死霊術師関係の話だったら自分ではなくアミィからも聞けたはずだ。


「エレスティアさん。あなたは、私の娘です」


 その言葉の意味が、エレアは最初わからなかった。きょとんとして、目を丸く見開いたまま動かない。


「あなたは、このユリナと双子で生まれました。エレナと名付けました。しかし、クエイサの鍵となりうる王の娘は一人きりというのが王家の掟。そのため、私は、あなたとユリナのどちらかを選ばなければなりませんでした」

 そこまで気丈に話していた女王の目から涙が零れ落ちる。

「ごめんなさい、エレナ。私は、伝統を破ってでも二人を育てることができたはず。なのに、結局慣習に従ってあなたを捨て子にしてしまった……。本当に、ごめんなさい……」

「まだ傷は完治していません。無理はなさらないでください」

 傍らで支えているアミィがそう声を掛ける。しかしアミィもそうは言ったものの、この状態で落ち着いてなどいられないことはわかっていた。


 エレアは、驚きと混乱状態にあった頭の中を整理する。そして、女王に向かって話し掛ける。


「謝らないでください、女王陛下。私はずっとクエイサを追い続けてきました。だから、クエイサの鍵となるお姫様が二人居てはいけない、という慣習は正しいことだと思います」


 そこまで話してから、エレアは微笑みを浮かべる。


「それに、私は嬉しいです。絶対会えないと思っていたお母さんと姉妹に会うことができたんですから」


 それはエレアの本心からの言葉だった。自分が捨てられたという過去の話よりも、今、こうして家族と出会えたことの方がエレアには嬉しかった。


「エレナ、お姉様……」


 その時、女王をアミィと反対側から支えていた女性が声を出す。エレナが顔を向けると、そこには自分そっくりの顔の少女がいた。美しい長い黒髪に輝くような碧眼。そういえば今自分は火の球を受けて髪も顔もボロボロだな、とエレアは思った。そう思うくらいの心の余裕は生まれていた。


「これからは一緒に暮らせるのですよね?」


 その一言はエレアの予想外だった。家族と会えるという可能性自体をほとんど想定していなかったため、再会した家族と一緒に暮らすという考えがエレアの中からすっぽりと抜け落ちていたのだ。

 しかし、エレアが答えに迷うことはなかった。


「ありがとうございます、姫。ですが私はこの国の姫であるエレナの前に、ユクリプスの特務隊のエレスティアなんです。私の居場所は、この仲間達が居る特務隊なんです」


 そう言って特務隊の仲間を見渡すエレア。グニは無言で返し、メルはポーズを取り、ユカヤは嬉しさから目元が潤んでいる。

 そしてアミィは、真っ直ぐとエレアを見返していた。本当にそれでいいのかとアミィの目は問いかけていた。エレアは、力強くアミィに対して頷く。


「お姉様……、やっぱり寂しいです。せっかく会えた姉妹とまた離れ離れになってしまうなんて……」


 そう言って懇願するような目を向ける姫。その顔は、エイリス王国の姫としてのものではなく、姉と離れたくない妹のそれだった。

 自分と同じ顔でそう懇願されて困ってしまうエレア。どうしようと悩んでいたところ、ある考えを思い付く。


「そうだ、ちょっと待っててください」

 そう言うと、エレアは腰の皮袋から手鏡を取り出す。今日はちょうどユクリプスの昇降城が降りてくる日だった。エレアが手鏡に向かって話し掛ける。


「ソル様、いらっしゃいますか。エレアです」

「あら、久しぶりね。何か報告かしら? 今日は用件が多いので手短だと助かるのだけれど」


 手鏡の向こうに映ったソルフィーシアが答える。エレアは言われた通り手短に用件のみを報告する。


「死霊術師を倒しました。ただ、エイリスの王都にまで侵入を許し多くの人が犠牲に……」

「そう、自分の手で決着を付けたのね、エレア」

「はい」


 その会話に、横からアミィが入る。


「ソル様、アミィです。死霊術師が死んだ今、クエイサをどういたしますか。クエイサは、エイリスの国王の血筋が解放の鍵ということを突き止めました。今、横にエイリスの国王陛下もいらっしゃいます。エイリスへ返すべきなのかどうか……」

「あら、メアリ女王もいらっしゃるのね」


 そう言うと、ソルフィーシアは鏡の向こうで従者に何事かを告げる。そして棚の中から何かを取り出すと、次の瞬間には部屋から消えていた。

 代わりに、エレアのすぐ目の前にソルフィーシアが現れる。エレアが驚きの表情を見せる。


「えっ、ソル様!?」

「こういう話は直接会ってお話をするのが外交というものです」

「え、でも今まで昇降城に居たんじゃ……」

「エレア、魔術師なのだから『瞬間移動』で来たことくらいわかるでしょう?」


 逆に、エレアは自分が魔術師だからこそソルフィーシアが『瞬間移動』で来たことが信じられなかった。普通『瞬間移動』で一回に飛べるのは五百M(メテル)が限界だ。ユクリプスとリヴァルーの間は馬で数十日かかる距離である。魔術師の常識ではありえない距離だった。


「お久しぶりです。メアリ女王。戴冠式以来でしょうか」

「ええ、あれから十年以上経っているはずですが、あなたは変わらないのですね」


 ソルフィーシアと女王が挨拶を交わす。ソルフィーシアは、女王の様子を見ると、女王の腹部に軽く手を向ける。

「失礼を」

 そう言うと、女王の顔が生気に満ち溢れる。『完全治癒』の魔法によるものであった。


「さて、情報を整理したいのだけれど……、アミィ、あなたが一番整理されていそうだわ」


 その言葉にアミィが意味を理解する前に、ソルフィーシアはアミィの頭に軽く手を触れる。対象の人物の記憶を遡る『記憶遡行』の魔法だった。アミィの記憶を遡ることで今まで五人に何があったのかを一瞬にして理解する。


「なるほど、わかりました。メアリ女王、クエイサは本来エイリス王家にあったものが、力の封印を求めて北グラディナダの遺跡に置かれることになった。という認識で間違いないですね」

「ええ、そのように先代からは伝え聞いています」


 大都市ユクリプスの長と大国エイリスの国王という二人の、気品と風格に溢れる会話に、エレアは自分もその王族であるということを忘れ、ただ圧倒されてしまっていた。


「力の封印を求めるという意味では、私の住むユクリプスの浮遊区画に、あらゆる物理的、魔法的な侵入が不可能な、魔法の宝物庫があります。そこに保管すれば、今回のような何者かに利用されるということはなくなるでしょう」


 女王は、顔色を変えずにソルフィーシアの話を聞いている。


「とはいえ、このクエイサは元々がエイリス王家の所有物です。これを機に王家で保管するということでしたら私の立場からはこれ以上は何も言えません」

「今のエイリスにとってクエイサは手に余る存在です。ユクリプスで保管して頂けることは有難いです。ただし」


 女王がソルフィーシアの目を見る。


「二つだけ教えてください。まずは、ソルフィーシアさん、あなたほどの魔術師ならクエイサを使いこなすことができるのか。あなたのことは信頼していますが、強大な力を独立都市であるユクリプスに渡すことになるのは、エイリス国王という立場から防がねばなりません」


 その言葉に、ソルフィーシアはゆっくりと歩くとエレアの横に転がっているクエイサを持ち上げる。


「見てください。私が持っても、クエイサはただの赤い石です。ですが」


 今度は女王の近くまで歩いてくる。すると、クエイサが鈍く輝き始める。


「このように、クエイサは完全に血筋によって制御された一種の魔力石(パワーストーン)です。私がいくら魔力を込めようが、クエイサは反応しないでしょう」

「わかりました。それではもう一つ」


 そう言って女王は今度はエレアの方を見る。


「血筋の者である魔術師のエレナだと力を開放できるのですか」


 そう言われてエレアは女王の言葉の意味を理解した。ソルフィーシア自身が使えなくても、自分がクエイサを使うことができれば、それはユクリプスに巨大な力が渡ることに変わりはないのだ。

 しかし、ソルフィーシアの答えはエレアからすると拍子抜けするものだった。


「無理ですね」

「え?」


 エレアは自分でもすごく間抜けだなと思った声を出す。


「あの死霊術師がどうやってクエイサの力を使うつもりだったのかは知りませんが、クエイサを開放させるにはかなりの魔力が必要です。今のエレスティアがありったけの魔力を込めてもクエイサはせいぜいピカピカ光るくらいのものでしょうね」

「それは今後私が魔法の修行をしたら」

「そうね、『瞬間移動』三回でユクリプスからここまで来られるようになったらかしら」

「ぐぅ……」


 別にクエイサの力を使うつもりなど無かったのだが、ほぼ不可能だと言われたようなものなので、エレアががっくりと肩を落とす。


「では、クエイサはユクリプスで保管頂くようお願いいたします、ソルフィーシアさん」

「わかりました、メアリ女王」


 そう答えて、クエイサを抱えて帰ろうとするソルフィーシアに対し、エレアがそもそもの最初の用件を思い出して慌てて声を掛ける。


「ソル様! 実は一つお願いが……」




 北グラディナダ島、マジェスター北部の街道。

 特務隊の五人を乗せた馬車が、ゆっくりとユクリプスへ向けて進んでいる。


「本当に良かったのエレア? 双子の姉っていうことは次期エイリス国王だったんでしょ」

 メルがエレアの顔を覗き込むように聞いてくる。

「別に権力とかそういうのは興味ないよ。貴族の生活とか息苦しそうだし」


「でも、せっかく出会えた家族とまた離れてしまうのは寂しくないですか?」

 そうユカヤが聞く。エレアは、少し上を向いた後、ユカヤの方を見て答える。

「あれっきりずっと会えないんだったら寂しいだろうけど、これを姫……、妹に渡してきたからね」

 そう言ってエレアは手鏡を取り出す。別れ際にソルフィーシアに頼んで、任務用とは別に、ユリナ姫との会話用の手鏡をもらったのである。ここに来るまでの間にも三、四度ほど実際に手鏡越しに会話をしている。

「ユリナったら私相手だと甘えてくるんだよね。『これはお姉様の前でだけです!』なんて言って」

「あらエレア、もうお姫様を呼び捨てなのね」

「い、いいじゃない。姉妹なんだから!」

 アミィの突っ込みに顔を赤くするエレア。話を変えようと四人を見渡す。


「さあ、ソル様も頼みたいことが沢山あるって言っていたし、早くユクリプスに帰ろう!」


 地平線の上に、小さく、ユクリプスの昇降城が見えてきた。



今までお付き合い頂き、皆様ありがとうございました!

グラディナダ群島を舞台とした第一部は今回で最後となりますが、

機会がありましたら、大陸を舞台とした第二部も続けられればと思っています。

全体を通してのご感想等お待ちしております。

最後にもう一度、最後までお読み頂きありがとうございました!

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