決戦 ~王都リヴァルー~ 2
「決戦 ~王都リヴァルー~」の2話目となります。
かろうじて肩で息をするものの、女王の傷が深いのは明らかだった。
「その傷ではどうせ長くはないだろうが、大事な『鍵』だ。我が直々に止めを刺すとしよう」
そう言って、死霊術師が『死の剣』を振りかぶる。
「待てええええええ!」
その時、大声で叫びながら、王の間に一団が入ってきた。死霊術師が、その姿を見て片方の眉を吊り上げる。王の間に現れたのは、エレア達特務隊の五人だった。
グニはばっと王の間全体を見渡す。王の間は、女王を守る兵士とゾンビやスケルトンの死人達で壮絶な戦場と化していた。
「ユカヤ」
「はい!」
グニの呼びかけに答えて、ユカヤが右手を前方に突き出す。一瞬髪の毛が逆立つほどの強力な魔力を放出して魔法を唱える。
「『誘眠』!」
魔法の単語と共に、王の間全体で数十匹はいたゾンビの八割方が眠りにつき、ばたばたを倒れていく。何が起きたのかよくわかっていない近衛騎士達に向かってグニが大声で叫ぶ。
「加勢に来ました! 残った死人達の相手を!」
その声に、近衛騎士達は事態を把握し、目の前の敵との戦いに集中する。
エレアは、戦場と化した王の間の中で、死霊術師の姿を探していた。間もなく、奥の一段高い玉座の上で、『死の剣』を振りかざした状態のままこちらを見ている死霊術師を見つける。エレアが死霊術師に視線を合わせると、死霊術師は怒りを露わにする。
「またお前達か……」
そうつぶやくと、死霊術師は腰の布袋から何かを取り出す。
「ここでこれを使うことになるとはな」
死霊術師が取り出したのは、何かの骨の破片だった。それをあたりにばら撒くと同時に魔法を唱える。すると、骨の破片は瞬時にスケルトンと蝙蝠に変化した。スケルトンは今までグニ達が戦ってきた通常のスケルトンとは明らかに違う、骨が黒光りして、着ている鎧や剣も豪華な、「骸骨騎士」の名が相応しい有様だった。蝙蝠は目が真っ赤に光っていて、鋭く尖った牙を剥き出しにして唸り声を上げていた。
その時、死霊術師がある反応に気付いた。女王と姫に対してのみ反応していたクエイサが、別の反応も見せるようになっていたのである。訝しげにクエイサの反応の元を辿っていくと、クエイサが反応していたのは、エレアに対してであった。
最初は疑問の表情を浮かべていた死霊術師だったが、やがて、ある可能性に気付き、姫とエレアの顔を見比べる。同じ黒髪の長髪に碧眼の二人を見比べて、死霊術師は納得してつぶやく。
「なるほど、そういうことか……」
一方、姫は自分が死霊術師に見られていたとは気付かずに、必死になって大声を上げる。
「誰か、誰かお母様を助けて!」
その声に気付いたアミィが、声を上げた少女と、その隣で腹部から大量の出血をしている女性を見つける。玉座にいることや、その豪華な服装から、おそらく二人がエイリスの姫と女王なのだろうと察したアミィは、二人の救出に向かうことを決める。
「グニ、女王陛下を助けるわ! 陛下までの道をお願い!」
「任せろ。メル!」
「りょうかいっ!」
アミィの言葉にグニとメルが即座に反応する。もう細かい指示は無くても何をすれば良いのかお互いにわかり合うまで、五人の連携は深まっていた。
グニ達が駆け寄ってくるのを見て、死霊術師が黒骨の骸骨騎士と蝙蝠のゾンビを放つ。足の速い蝙蝠達が一気に四人の前までやって来る。
蝙蝠達が飛んで来るのを見て、すかさずメルが長槍を構えて高度を上げる。
「てやぁああああ!」
気合の声と共に上空から急降下したメルは、すれ違いざまに蝙蝠に一撃を浴びせる。キィイと言う甲高い悲鳴を上げて、蝙蝠が一匹床に落ちる。仲間をやられた蝙蝠達がメルに攻撃を加えようとその鋭い牙を剥き出しにするが、メルは今度は急上昇して、下からの一撃で別の蝙蝠を切り伏せる。
「ここは私に任せてみんなは早く先に行って!」
「任せたぞ、メル!」
二匹を切り伏せたといっても、蝙蝠のゾンビはまだ三十匹近くいる。グニも加勢するか一瞬悩んだが、グニの武器では、空を飛び回り小さな蝙蝠相手には攻撃を当て難い。ここは自分が加勢するよりもメルに任せた方が懸命と判断して、グニはアミィとユカヤを先導して女王の元へ向かう。
やがて、グニの前に黒骨の骸骨騎士達が現れた。その構えから一目で今まで戦ってきたスケルトンとは違うと判断したグニは、盾を持った左腕を横に開いてアミィとユカヤを制止する。
「私がこの黒いスケルトンの相手をする。二人は、隙を見て女王の元へ向かってくれ」
そう言うと、グニは低い体勢から一番近くにいた骸骨騎士に右手の星球連接棍で攻撃を仕掛ける。骸骨騎士はその一撃をしっかりと盾で防ぐ。衝撃で薙ぎ倒すことも考えての大振りの一撃だったが、骸骨騎士は姿勢を崩すことなく受け止める。
すぐに倒すことが困難だと考えたグニは、複数の骸骨騎士に攻撃を加えながら、相手に反撃の機会をわざと与え、魔法の盾でしっかりと防御していく。アミィは最初、なぜ攻撃できるのに相手に反撃させているのかわからなかったが、やがてそれが、骸骨騎士達をグニの周辺に集めて自分達が進める隙間をグニが作っているのだと気付いた。
一番左端にいた骸骨騎士がグニに攻撃をしようと前進する。それによって、ちょうど人ひとりが進める空間が左端にできる。
「ユカヤ、行くわよ」
「はい!」
アミィは長杖は持っているもののそれで攻防ができるわけではなく、ほとんど丸腰も同然だった。ゾンビやスケルトンに見つかったら一貫の終わりである。しかし、乱戦の中、ちょうどその瞬間だけ、女王の元までの道のりに死人達は存在しなかった。二人が女王の元へ辿り着く。
エイリスの国王である女王に対し、いきなり魔法を掛けるのは失礼かとも一瞬考えたアミィであったが、その傷の深さを見て、すぐに行動に出る。女王の傷口に両手をかざして、『治癒』の魔法を念じる。
アミィの使う『治癒』の魔法は本来治療魔法の中では下位に位置するものである。特務隊に入って使う機会が増えたため、魔法そのものの習熟度は上がっていたが、それでもこれほどの重傷を治せるかは五分五分だった。どんな致命傷でも治せる『完全治癒』の魔法を覚えておけば良かった、と一瞬後悔の念が頭をよぎったものの、すぐに『治癒』の魔法に集中する。女王の腹部の傷口からの出血は止まったが、ここから失われた血を魔法で回復させなければならない。アミィは額に汗を浮かべながら、魔法に集中した。
「あれ、エレア……さん……?」
そのとき、アミィに付き添っていたユカヤがつぶやく。ユカヤは最初、アミィの『治癒』の様子を凝視していたが、女王の出血が止まったことで一安心して、周りを見渡した。その時、ユカヤの視界に入ってきたのが、綺麗な黒の長髪に、輝く碧眼、意思の強そうな整った顔立ち、というエレアにそっくりの女性だった。
アミィもユカヤのつぶやきを聞いて、魔法に集中しながらも目線だけを横にずらす。そこには、エレアそっくりの女性が冷たくなった男性を抱えて座っていた。アミィは物心付いた時からエレアと一緒にいるため、その女性がエレアではないことはわかったが、しかし何らかの関係は絶対にあると感じた。
「あなた達は、一体……」
女性が口を開く。アミィが魔法に集中していると思い、ユカヤが答える。
「私達は、あの魔法使いが女王さまを狙っていると知って、それを伝えに来ました。一足遅かったですけど……」
そう言って下を向くユカヤ。すると、想像していなかった方向から声が返ってきた。
「いえ、あなた方のおかげでこうして私は命を救われました」
そう話したのは、女王だった。苦しげな表情ながら、なんとか笑みを見せる。
「まだ『治癒』の魔法が終わっていません。安静になさってください、女王陛下」
「ありがとう、魔術師の方。名前を訊いても宜しいかしら?」
「はい、私はアムネイシアと申します」
「わ、私はユカヤですっ!」
名前を訊かれ、アミィが正式な魔術師名を答える。ユカヤは相手が女王ということで緊張して早口で自己紹介をする。
「戦況は、どうなっているの?」
そう言って、女王が上半身はゆっくりと起こす。目に入ってきたのは、先ほどまでとは色の違う骸骨達と戦う赤い髪の、おそらくヴァルキュリアの女性。そして、無数の蝙蝠達を相手に宙を舞うピクシー族の少女。近衛騎士達は、なんとか目の前の敵相手に奮闘をしている。
そして、自分が戦った死人使いの魔術師を見つける。死人使いは、ある人物と向かい合っていた。その人物を見た女王の目が大きく見開かれる。
「エレナ・・・まさか、そんな」
女王の言葉に、ユカヤが首を傾げる。
「エレナ? エレアさんのことですか?」
女王は、目の前のアミィに尋ねる。
「アムネイシアさん。今、あの魔術師と向かい合っている少女はあなた方の仲間ですか」
「はい、彼女の名前はエレスティア。私と同じ魔術師で、あの死人使いを追ってきた仲間です」
女王の問いに、アミィが魔法の集中を続けながら答える。
「失礼だけれど、あなた方は北グラディナダの出身かしら」
「はい、私とエレスティアはマジェスターの町の孤児院の出なので正確に北グラディナダの出身なのかはわかりませんが」
そのアミィの言葉に、女王が驚愕の表情を浮かべる。その変化に気付いたアミィが声を掛ける。
「どうされましたか」
そのアミィの問いに対する女王の答えは、アミィがうっすらと予想はしていたものの、実際に聞くまで信じられないものだった。
「あの子……エレナは、私の子です」
女王は姫の方を向く。
「そしてユリナ、あなたの双子の姉です」
「え……」
何の事かわからず、呆然とする姫。
「ユリナ、よく聞いておきなさい。本当はあなたが来年、成人したら教える慣わしだったのだけれど」
そう切り出して話し始める女王。アミィは、傷が完治しないうちに長時間話すのは身体に良くないと思いながらも、その話す内容がどうしても気になってしまい、結果として『治癒』の魔法に専念しながら、女王の言葉に耳だけを貸すことにする。
「エイリス王家では必ず生まれてくるのは女性だけです。私も、私の母も。それは、このエイリスの建国王から続くもので、王家の女性には、特別な力を操ることができると、私の母、先代のエイリス王から教えられました」
「それが、クエイサ……」
ユカヤのつぶやきに、女王がちらりとユカヤの方を見る。
「あなた方は、クエイサのことも知っているのですね。そしてあの魔術師も」
そう言って、死霊術師を睨む様に見つめる女王。
「特別な力、クエイサを使える者が複数居たら争いの源となってしまう、ということでエイリス王家では子供は一人しか産まない決まりがあります。そしてもし双子が生まれた場合は片方を殺すと。長い歴史の中で、過去にも何人もの子供が生まれてきたと同時に命を奪われました」
そこで、視線を姫に向ける女王。姫は、続きを聞くのが怖いといった表情で、それでも母親の次の言葉を待っていた。
「私は、双子を生みました。それがユリナ、あなたとエレナと名付けたもう一人の子です」
女王は唇を噛み締める。
「私は、自分の子供を殺すなんてできなかった。しかし、当時の女王である母からは古くからの慣わしを破ることはできないと言われた。そうして悩んだ私は、エレナを、北グラディナダの孤児院の前に捨てたのです」
衝撃の事実に、姫も、アミィもユカヤも何も話すことができない。
「あの魔術師は、クエイサの力を使える人間は一人だけいれば良いということで、私を殺し、この子、ユリナだけを攫おうとしました。なので、力を使える者がもう一人現れたとなると……」
そう言って女王はエレアの方を見る。アミィも、振り返るようにエレアの方を見る。
「エレア……」
「貴様がクエイサの鍵だったとはな。あの時クエイサを奪っておいたのは正解だったということか」
「何の話だ!」
死霊術師の言葉に、自分がクエイサの鍵である王家の血筋を引く人間だとは思ってもみないエレアが聞き返す。
「その様子だと自覚はないのか。……まあ良い。最後の邪魔な鍵は、私が直々に破壊してくれる」
そう言ってゆっくりとエレアに近付いていく死霊術師。『死の剣』の魔力の密度を上げ、青白い剣の輝きが増す。
エレアも魔法の細剣を胸の高さまで上げて構える。
「今度こそ、お前を倒す!」
エレアが、一直線に死霊術師に向かって突進した。
次回、いよいよエレアと死霊術師の決戦となります。
ご感想等頂けましたら幸いです。
次回更新は来週水曜日の予定です。




