決戦 ~王都リヴァルー~ 1
今回より最終章「決戦 ~王都リヴァルー~」に入ります。
エレアが馬を飛ばす。
本来は『乗馬』の魔法による騎乗なので馬を飛ばすという技術が使えることはないのだが、エレアの急ぎたいという意思が馬に伝わったのか、馬も速度を上げて王都へと向かう。
王都リヴァルーが近付くにつれ、街が喧騒に包まれているのが聞こえてくる。それは、祭りの歓声などとは明らかに違う、人々の悲鳴の声だった。
本来いるはずの門番がいない、無人の正門を五人が通る。
「ひどい……」
街の中は、ゾンビとスケルトンで溢れ返っていた。何も知らない市民達が目の前で家族や知人を殺され、恐怖である者は逃げ惑い、ある者は狂乱状態で木の棒を振り回す。
リヴァルーはエイリス王国の王都であるため、町には多くの常備兵が配置されていた。しかし、長くの間戦争などしてこなかった平和の国エイリスでは、常備兵も実戦経験の無い者がほとんどであった。兵士とは思えないような及び腰の構えで、スケルトンの決して鋭くはない剣撃に押し込まれ、逃げ場がなくなったところをゾンビ達に囲まれて倒されてしまっている。
「助けに入るぞ! メル! エレア!」
グニがそう言いながら馬を下りるとすばやく背中から星球連接棍と盾を構える。メルも背中の長槍を構えてゾンビに向かって突進していく。エレアは自分が飛び降りると馬の制御が利かなくなってアミィが振り落とされてしまうので、『乗馬』の魔法で馬を止めた後、二人からやや遅れて、腰の細剣を抜いてゾンビへ向かって切りかかる。
スケルトンやゾンビは今まで倒してきたものと特別変わらぬ強さだったため、三人はすぐに近くにいるゾンビ達を切り伏せる。しかし、助けてもらったはずの常備兵は、三人に礼を言うどころか、上の空でぶつぶつとつぶやいている。
「これは夢だ……これは夢だ……」
その姿を見たグニが、咄嗟にこれでは町の兵士は戦力にならないと判断する。そして町全体を見渡す。見ると、町全体のうち、正門から王城へ掛けての北半分にゾンビとスケルトンがいるようだった。範囲は広いが、まばらに散っているため、全体として相手をしなければならない数はそこまで多くはない。
「エレア! 街のゾンビ達は私とメルで片付ける。エレア達は王城へ死霊術師を追ってくれ!」
「でもこの数をグニとメルの二人で相手をするのは!」
「大丈夫、これくらい私一人でも十分だよ! まかせてまかせて!」
そんなやりとりをエレア達が交わしている時、正門を馬に乗った一団が通ってきた。先頭の騎士が馬上槍の一撃でスケルトンを粉砕するとエレアの方へやって来る。
「無事か、エレア!」
「アレックスさん!」
一団は、アレックスとその私兵達だった。よく見るとグレゴも立派な騎士の鎧を着て後ろにいる。
「はい。私達も今着いたばかりです。街がこんな状態になっていて、おそらく既にあいつが……」
「エレア、君達は王城へ向かえ」
エレアの表情を見たアレックスが即座に決断を下す。
「この状態だとほぼ間違いなく死人使いは王城まで進んでいるはずだ。女王が危ない。魔術師との戦いは俺よりも君達の方が慣れている。急いでくれ」
「でもアレックスさん……」
「大丈夫だ、こんな動きの遅い死人に俺達は遅れを取らんよ。グレゴ!」
「へい!」
「俺はエレア達の王城までの道を切り開く。隊はお前が指揮を取って街中の死人達を始末してくれ」
「わかりやした」
そう言うと、グレゴは騎士隊の兵士達に素早く指示を出す。三手に別れると、次々と馬上槍でスケルトンを粉砕し、長剣でゾンビを切り裂いていく。
「すごい……」
その様子を見ていてユカヤが思わずつぶやく。ユカヤにとって、グニとメル以外にあれだけ見事に死人達を倒すことができる人間を見るのは初めてだった。
「さあ、行くぞエレア」
「はい!」
王城へと続く中央通りは、特に多くのゾンビが徘徊していた。アレックスはゾンビが多いと見るや、武器を馬上槍から長剣に持ち替え、馬を加速させながら一気に切り裂いていく。
「私はバンドン伯子爵のアレックスだ! 死人達は私の軍が退治する。町の者達は家の中に隠れて決して表へは出るな!」
そう叫びながら、アレックスはゾンビの首を切り落としたかと思うと、返す刀で別のゾンビを肩口から切り裂く。グニとメルもアレックスの討ち漏らしたスケルトンとゾンビに攻撃を加える。三人の勢いは凄まじく、王城はすぐ目の前に迫っていた。
「俺はグレゴ達に合流して街の死人達を一掃する。エレア、後は頼んだ!」
「はい!」
エレアを先頭に、五人は王城へと向かって行った。
一方、エレア達がリヴァルーへと到着した頃。
リヴァルー城の門番の兵士が、スケルトンに囲まれていた。
エイリス王国の王城であるリヴァルー城は『いと白きユエリア』という別名を持つ通り、まるで魔術師が造ったかのような真っ白な外壁が印象的な美しい古城である。しかし、城の入口で行われている争いにより、門番達の血で、美しい白の城壁は赤く血塗られていった。
城の中を守るのは王都でも選ばれた近衛騎士である。街の常備兵のように一対一でスケルトンに不覚を取るようなことはなかったが、なにしろ城内は死人達の数が圧倒的に多かった。また、こうした非常事態の時の動きについて、文官など非戦闘員への教えも徹底していなかったため、近衛騎士は文官を守ろうと余計に動き回る事となり、その隙に奥へと侵入を許してしまっていた。
ギリリリと重い音を立てて、王の間の扉が開かれる。開けたのは死霊術師だった。もっとも、死霊術師が自分で重い扉を押したわけではなく、『開門』の魔法によるものである。
王の間は広く、両脇には直属の近衛騎士が槍を構える。そして王の間の一番奥、一段高くなった玉座に、女王と王配、そして姫が座っていた。普段だと王の間に王家の人間が揃っていることは少ない。私室にいることが多いからである。偶然は、死霊術師に味方をしていた。
「何者です」
玉座の中央に座った女性がすっと立ち上がって誰何する。豪華な銀色を主調としたドレスに美しい黒髪の長髪と蒼玉のような透き通った碧眼。何よりもその姿から醸し出す存在感が、彼女がエイリス女王であることを表していた。
誰何された死霊術師は、答えずにクエイサの反応だけを見ている。女王と姫に向けたときだけクエイサの魔力が反応し、王配や他の騎士に向けても反応は無かった。
「お前が、女王か」
その中性的で聞く者をぞっとさせる死霊術師の声に思わず近衛騎士達が槍を突き出して構える。女王は、凜とした声で答える。
「私が、エイリス女王、メアリ=アレクトラ=エイリスです」
「そしてその血を継ぐのが横の姫君か」
そう言って死霊術師は視線を隣に座っている姫へ向ける。姫は恐ろしさから血の気が引くものの、なんとか視線を外さずに正面から死霊術師を見返す。
その時、女王が死霊術師が抱えているものに気付く。
「まさかそれは! いけません、その力は目覚めさせてはいけないもの」
「なるほど、女王陛下はクエイサの事をご存知と……」
死霊術師はもう一度姫の方へ視線を向ける
「ならば鍵は何も知らぬ方が一つだけあれば良い」
そう言うと、右手から青白い『死の剣』を出す。
「あの者を捕らえなさい!」
女王の言葉と同時に、近衛騎士達が動き出そうとするが、それに先じて死霊術師がゾンビとスケルトンを召喚する。近衛騎士達の相手をゾンビ達に任せて、自分は女王の元へと向かう。
女王は、死霊術師がやって来るのを見ると、姫と王配に後ろに下がるよう言い、自らは腰に下げた細剣を抜いて構える。
「ふん、細剣か。あの小娘を思い出すわ」
そうつぶやくと、死霊術師が『死の剣』による一撃を女王に向けて放つ。女王は綺麗な剣筋でその攻撃を防ぐ。
その後も女王は近衛騎士達を凌ぐような細剣の剣撃で死霊術師の『死の剣』に対抗する。無抵抗で殺せるはずだった女王に中々攻撃を与えることができず、死霊術師が苛立ちを見せ始める。
その時、女王の横で悲鳴が起きた。
「お父様!」
女王が視線を横に移すと、ゾンビの攻撃から姫を庇った王配が腹部から大量の出血をしていた。傷は深く、王配は絶命していた。
「くっ!」
初めて怒りを見せた女王が、死霊術師に向かって鋭い突きを放つ。細剣の連撃に、死霊術師は『死の剣』ごと右腕を上部に跳ね上げられる。
すかさず死霊術師に止めを刺しにいこうとする女王。しかし女王は、怒りに我を忘れていたため、死霊術師以外が視界に入らなくなっていた。
ぐしゃり。
いつの間にかやってきていたスケルトンの長剣が、女王のわき腹を抉る。女王は、一瞬何が起こったのかわからないという表情をしてから、そのままどすんとその場に倒れ込んだ。
「お母様ー!」
姫の絶叫が、戦場と化した王の間に木霊した。
というわけで女王が倒されてしまいます。
残された姫の運命は――
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次回更新は来週水曜日の予定です。




