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真実 ~学術都市バンドン~ 2

第9章「真実 ~学術都市バンドン~」の2話目になります。

「おい、グレゴ」

「なんですか、若」

 練習部屋に入ったアレックスが、部屋に居た男に声を掛ける。グレゴと呼ばれたその男は、格式高いこの屋敷はおよそ似つかわしくない、傭兵の訓練所に居る方がよほどしっくりとくる、そんな外見と話し方をした。

「この子に剣の稽古をつける。相手をしてやってくれ」

「へい、知り合いですか?」

「いや、たまたま町を歩いてたら知り合った子だ」

 慌ててエレアがグレゴに挨拶をする。

「エレアと言います。よろしくお願いしますっ!」

「こんな可愛い子を捕まえて、若も隅に置けませんなぁ」

 そう言って豪快に笑うグレゴ。

「茶化さなくていいぞ、グレゴ。エレア、君が練習したいのは細剣(レイピア)対細剣の決闘か。それとも普通の武器を相手にした戦いか?」

 アレックスに聞かれ、即座に答えるエレア。

「はい、死の剣っ、……えっと、普通の片手剣(ロングソード)です」

「そうか。なら最初は俺は見ていた方がいいな。グレゴ、三番の片手剣でエレアの相手をしてやってくれ」

「へい、わかりやした」

 グレゴは答えると練習部屋の壁に掛けてあった複数の剣の中から、比較的短めの片手剣を手に取る。

「まずは君の技量を見たい。エレア、君の全力でグレゴに打ち込んでみてくれ。グレゴは相当の使い手だ、遠慮はしなくていいぞ」

「はいっ!」


 返事をすると、エレアは細剣と左手用短剣(マンゴーシュ)を構える。グレゴも片手剣を右前へ突き出して構える。構えだけでグレゴが騎士ではなく傭兵上がりであることがわかる。騎士の相手をするつもりではないエレアにとっては好都合である。

 グレゴは一見攻撃重視の構えに見えながら、エレアは全然攻撃できる隙を見出せないでいた。しかし、稽古をつけてもらってこちらから動けませんでは話にならない。エレアは意を決してグレゴへ細剣の突きを放つ。

「はぁあっ!」

 エレアの一撃は、グレゴの剣によって弾かれてしまう。だがエレアも初撃を弾かれるのは承知の上で、そのまま次の攻撃へと移る。数度の突きを入れた後、一旦後ろへ下がって距離を取る。


「よしわかったエレア」

 そこでアレックスから声が掛かる。緊張状態から開放されたエレアがどっと汗をかく。

「君の細剣は我流だな?」

「あ、はい。特に誰かに習ったりしたことはないです」

「まず、基本のステップが君はつま先に重心がかかっているが、細剣の基本は踵に重心を置くんだ。そうすることで突きに出た後の次の動作が連続して行える。つま先に重心がかかっていると連続して突こうとしたときに一呼吸遅れるんだ」

 エレアはたった数回の攻撃だけでそこまで見抜いたアレックスの観察眼に驚いていた。すぐに、重心を踵において動作を行ってみる。

「本当だ! 連続して突いても動きやすい!」

「君の運動神経はかなり良い。少しコツを掴めばすぐに技術が上がるだろう」

 アレックスの言葉に、エレアはすっかりやる気に満ちていた。

「はい。お願いします!」


一方、アミィ達四人は丘の中腹に建つ図書館へと来ていた。外から見る図書館はユクリプスの図書館の倍以上の大きさがありそうに見え、外壁には蔦が生えていて歴史を感じさせた。

「すみません」

 そう言ってアミィが扉を開く。入口の受付には、初老の男が座っていた。男は、入ってきた少女達四人をぐるっと見回すと、興味なさ気に口を開いた。

「ここを武器屋か何かと勘違いしてないか? ここは図書館だ。人間以外が来るような場所じゃあない」

 グニとメルを見て男が言う。怯まずアミィが答える。

「はい、図書館だとわかって来ています。調べたい書物があって来ました」

 アミィの言葉に、男は怪訝そうな表情で答える。

「ここは由緒あるエイリスの知識の宝庫であるバンドン図書館だ。どこの馬の骨ともわからん者に入らせるわけにはいかない。身分を証明できるものはあるか?」

 言外に、身分の証明のできないお前達は早く立ち去れという皮肉を込めて男が言う。ユカヤが困った顔をするが、アミィはそれに動じず腰の布袋から札を取り出す。

「エイリス王国全土を管轄する魔術師ギルドのギルド員の印です。ギルドの命で書物を調べに来ています」

 アミィの行動が想定外だったようで、男は一瞬呆気に取られたが、すぐに元の口調に戻って話す。

「ふん、魔術師様のギルドってんじゃ仕方ないが、怪しげな魔術でも使って本を傷つけないでくれよ」

 その言葉にアミィは表情を変えずお辞儀をして、館内へと入っていく。


「何あれ、感じ悪いー」

 受付が見えない位置まで来たところで、メルが羽根をぱたつかせながら言う。アミィは苦笑を浮かべながら答える。

「仕方ないわよ。魔術師というのは本来ああいう態度を取られるものだから」

「えー、ユクリプスじゃみんな普通の態度だよー」

「ユクリプスはギルドのお膝元だから、あの町が特殊なのよ。魔術師は歴史的にも昔は魔法を使えない人を奴隷として支配していたのだし。普通の人は心の奥底に反感は持っているものだわ」

 見回すと、広大な図書館の中にはアミィ達以外には数えるほどの人影しかなかった。アミィがユカヤに話し掛ける。

「ユカヤ、こんなにも広い書棚から探すのだから、ある程度の目星を付けていきましょう。いくら『文字追跡』がそんなに魔力を消費しないといってもさすがに疲れるだろうし、何より日が暮れてしまうわ」

「はい、アミィさん」

 ユカヤがこくりと頷く。

「そうね、歴史書は最優先として、あとは詩や戯曲なども探してみましょう。逆に動植物学や言語学の棚は無視してしまって構わないわ」

「はい」

 アミィの言葉に返事をして、歴史書の棚へと向かうユカヤ。一冊一冊に手をかざして『文字追跡』の魔法を掛けていく。前回かなりの回数唱えたことで『文字追跡』の魔法に慣れたユカヤは、呪文詠唱なしで手をかざすだけで魔法を唱えられるようになっていた。


 それからしばらくの間、ユカヤが『文字追跡』の魔法を使ってクエイサについて調べ続けていた。特に読む本の無いグニとメルは中央のソファに腰掛けてじっと待っている。そこに本を持ったアミィがやってくる。

「二人とも暇じゃない?」

「休めるときにはしっかりと休息を取るのも任務だ。休ませてもらっているよ」

 アミィに問いかけに答えるグニ。メルは空中で後方に宙返りをして答える。

「私でも読める本があったら暇つぶしになるのになー。人間の文字は酒場のメニューくらいしか読めないよ」

「アミィは何か本を探してきたのか?」

「ええ。こんなに大きな図書館なのに、魔法教本が一冊しか無いの。本当に南グラディナダには魔術師はいないのね。読んだことのない教本だから一つでも新しい魔法を覚えるわ」


 さらにしばらく経って、三人の元にユカヤがやって来た。とぼとぼと歩いてくるその表情は浮かなかった。

「クエイサで一通り調べたんですが、見つかりませんでした……」

 そんなユカヤの肩に手を当ててグニが話す。

「そんなに気を落とすな、ユカヤ。すぐに見つかるような情報だったらとっくにあの死霊術師に先を越されているだろう。他の方法を考えればいい」

「まあ、今回は南グラディナダまで来ていい経験だったと思えばいいんじゃない?」

 メルもそう話すが、ユカヤはまだ諦めきれていない様子だった。

「でも、……」

「そうね、何かを見落としている気がする」

「アミィさん?」

 アミィのつぶやきに、ユカヤがアミィの方を見る。

「ユクリプスの歴史書の記述だと、クエイサの鍵となるのは選ばれた血筋の魔術師ということだった。クエイサが南部砂漠の遺跡に奉られていたということは、盗まれたでもない限り、その血筋の魔術師も一緒にグラディナダに来たということだわ」

「そうだな」

 アミィの言葉にグニが相槌を打つ。

「それなのにグラディナダの歴史書や戯曲に一言もクエイサという記述が無いのはおかしい気がするわ。必ずどこかでその魔力が歴史の表舞台に出ているはずよ」


「でもクエイサで探しても見つからなかったんだよね?」

 メルの言葉に、アミィがはっと目を見開く。

「そうか……、そうだったんだわ!」

 小首を傾げるユカヤに対し、アミィが話す。

「『クエイサ』という言葉にこだわっていたから良くなかったんだわ。『赤い宝玉』とか別の言葉で記述されている可能性を考えてなかった」

 その言葉になるほどという顔をするユカヤ。

「そうか、クエイサを別の表現の単語で探してみればいいんですね!」

「ごめんなさい、またユカヤにお願いすることになってしまうけれど」

「大丈夫です! 魔力はまだまだ残っていますから」

 そう言って、駆け足で書棚へ戻っていくユカヤ。ユカヤにとってはまた魔法を唱え続けなければいけないという苦労よりも、まだ皆の役に立てるかもしれないという喜びの方が大きかった。


 それからさらにしばらくの時間が経過して、図書館にエレアがやってきた。

「みんな、待たせてごめん」

「遅かったから何かあったんじゃないかと心配したわ」

 そう言いながらも、アミィはエレアの表情が充実しているのを見て、行かせて良かったと思っていた。

「この短時間で雰囲気ががらりと変わったな。よほど良い訓練を受けたのだろう」

 グニの言葉に、エレアも満足気に頷く。

「調査の方はどうなったの?」

「今、ユカヤが調べているところよ。もう少し待ちましょう」

 そのアミィの言葉が聞こえたかどうか、ユカヤが一冊の本を持って四人のところへ戻ってきた。


「『紅玉』の単語で見つけました。南グラディナダの歴史書です」

 ユカヤが大事そうに抱え込んだ歴史書には、青白い光で古代神聖語の「百十九」というページ数が浮かび上がっていた。


というわけで次回、クエイサの鍵の真実が明らかになります。

ブックマーク、ご感想等頂けましたら幸いです。

次回更新は来週水曜日の予定です。

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