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出会い ~昇降都市ユクリプス~ 2

第1章「出会い ~昇降都市ユクリプス~」の2話目になります。

 翌朝、日の出と共にシルティスエルスが手配していた馬車に乗ってエレアとアミィは<昇降都市>ユクリプスへと向かった。ユクリプスまでは馬車で約半日、ちょうど日の沈む頃に到着する予定である。


「お嬢ちゃんたち、今回もユクリプスにはやっぱりギルド絡みなのかい?」


 道中、小太りの人の良さそうな御者の中年男性が尋ねてきた。この御者は二人の師匠であるシルティスエルスを得意先としていて、以前に二人がユクリプスに行ったときにも御者を務めた顔見知りでもある。当然二人が魔術師であることを知っているので、このように聞いてきたのである。もっとも、顔見知りでなくてもアミィの外套(ローブ)長杖(ロッド)という姿は一目で魔術師だとわかるものだった。エレアの皮鎧(レザーアーマー)に細剣という装備は魔術師というよりは旅の冒険者のようであったが。


「今回はソルフィーシア様に謁見しに行くんです」


 一瞬本当のことを話していいのか迷ったものの、特に秘密にされていたわけでもないと考え、アミィが答える。


「ええっ、ソルフィーシア様にかい? やっぱり魔術師ともなると凄いねえ」

「おじさんはソルフィーシア様に会ったことはあるの?」


 そう訊くエレアに、御者は右手で手綱を持ったまま、左手を大きく左右に振って答える。


「まさか、ワシのような小市民でソルフィーシア様を見たことのある人間なんざほとんどいないよ。常に昇降城に居て、下に降りてくることはほとんどないからのぉ」

「そうなんだ。ソルフィーシア様ってどんな人なんだろう?」

「ワシも人づてに聞いた話だが、ソルフィーシア様は女神のような美貌で、何十年経ってもまるで年齢を重ねない若い女性の姿のままなんだそうだ。不老の魔法でも使っているんじゃないかと言われとるよ」

「『不老』の魔法かぁ。でも何十年も不老っていうのは信じられないなぁ」


 エレアがつぶやく。たしかに『不老』や『若返り』といった魔法は実在するが、そもそもが習得するのがかなり難しい高難易度の魔法である。その上、通常の魔力だと一回の『不老』で老化を阻止できるのはせいぜい数日から一巡り(一週間)程度であり、何十年も歳を取らないというのはとてつもない魔力を持っているか、『魔力付与』で『不老』の力を付与した装飾品を身に付けるかしかない。古代魔法王国時代にはそうした『不老』の魔力が付与された装飾品も多数出回ったというが、今では幻の品であり、そうした装飾品を追い求め古代魔法王国時代の遺跡を巡る冒険者も多い。


「何十年経ってもということは、ソルフィーシア様は昔からずっとユクリプスの統治をされているんですか?」


 今度はアミィが尋ねる。


「お二人さん昔のユクリプスについては知らないのかい?」

「うん、だって私達が物心ついた十年前にはもうユクリプスはソルフィーシア様が統治していたし」


 そのエレアの返しに、ここぞとばかりに御者は昔話を始める。


「ユクリプスはねえ、今でこそあれだけ栄えた都市になったけど、ほんの三十年ほど前までは、荒れ果てた荒野に小島が浮かんでいるだけの土地だったんだ。一巡りに一日しか下に降りてこないということで、今の昇降城地区は絶好の山賊達のアジトになっていた。ワシが若い頃はユクリプスの周辺は危険だから近づいちゃいかんと親に聞かされて育ったよ」

「えー、あのユクリプスが山賊のアジト!?」

「ああ。それが三十年くらい前に、突如どこかからやってきたソルフィーシア様が一人で山賊達を一掃。付近の集落の住民達を集めて、町を作り始めたんだ」

「ソルフィーシア様は元々ユクリプスにいらっしゃったわけではないんですね」


「うむ、大陸からやってきたというのが専らの噂だが、あれだけの魔術師だ、おそらくどこぞやの宮廷魔術師でも務めていて、権力闘争か何かに巻き込まれてグラディナダにやってきたんじゃないかのぉ。ともかく、最初は家を建てたり路面を整備するのにも魔法の力を使ったらしく、あっという間に荒野だったユクリプスは立派な都市に成長していった。そして、エイリス王国の領土内だったユクリプスを、自分達で統治する自治都市とすると宣言したんだ」

「自治都市って普通の街とどう違うの?」

「お嬢ちゃん魔術師だし政治には詳しくないかな。いいかい、普通の街はその街を治める領主に町民が税金を払って忠誠を示す代わりに、領主はいざという時に町民を守る。そして領主はさらに国王に忠誠を示す代わりに、王国から守ってもらうんだ。そこをソルフィーシア様は、『自分の街は自分で守るから、王国からは独立する』と宣言したんだ。でも、エイリスは特に反応を示さなかった。ユクリプスから遠く離れた南グラディナダ島に王都を持つエイリスでは、ユクリプスはあくまで辺境の蛮族の住む土地のイメージで、そこが勝手に独立しようが自分達には何の害も無いと思ったらしい」


「でも実際に戦争なんて起きないよね? 私、グラディナダで戦争が起こったなんて話聞いたことがないよ」

「戦争以外にも、山賊やゴブリンなどの魔族からの襲撃というのも街の外敵になるよ。特にこの南北グラディナダ島は、どういうわけか大陸よりも魔族の数が多いらしい。だからグラディナダでは各領主は魔族から自分の街を守るのに手一杯で、とても隣の街を攻めて自分の支配下に治めようなどとは考えないというのが、戦争が起きない理由になるのではないかな。そして、一人でユクリプス周辺の山賊どもを一掃したソルフィーシア様だ、別にエイリスになんか助けを求めなくても一人で十分に街を守り発展させたんだ。そういえばお嬢ちゃんさっきグラディナダで戦争は起きていないと言ったよね? 実は十年ほど前に戦争になりかけたことがあるんだよ」


「え、本当ですか?」

「ああ。エイリスはユクリプスを辺境の田舎町にしか思っていなかったが、大陸は違った。ユクリプスと交易する中で、ユクリプスの発展速度に目を付けたとある国が、自分の国の配下になるようユクリプスに強制してきたんだ。もちろんソルフィーシア様は断った。海の向こうの大陸の国の配下になってもユクリプスには何の得もないからね。ただ、面子を潰された形となった国側は怒り、面子を守る意味でもユクリプスを武力で制圧しようと船団を率いてやってきたんだ。ちょうど十五、六年ほど前だからお嬢ちゃん達が生まれた頃かな」


「ええ! それでどうなったの?」

「ソルフィーシア様はユクリプスの市民に言ったそうだ。『戦争は起きません。安心してください』と。実際、戦争が起きることは無かった。兵隊を乗せた船団がまさに北グラディナダ島に上陸しようとした時、折からの嵐で船団は壊滅。一隻もグラディナダに上陸することは無かった。市民達の間ではソルフィーシア様が魔法の力で嵐を呼んだと専らの話になったが、ソルフィーシア様は何も語らなかったそうだ。ともかく、その一件以来、ソルフィーシア様とユクリプスの名は大陸にもエイリス王国内にも響き渡り、完全な自治都市として今の繁栄を築いているんだ」


「ほえー、そんな人にこれから会いに行くのかぁ」

「ソルフィーシア様のおかげで、ユクリプスへの街道は安全だということでワシもこうやって護衛一人で商売ができるんだ。ソルフィーシア様にはいくら感謝しても感謝しきれんよ」


 馬車には、御者とエレア、アミィの他に、護衛の男が乗っていた。鎧と長剣で身を固めた、髭を蓄えた傭兵風の中年だった。

「俺もただ馬車に乗ってるだけで金が貰えるんで楽な商売になったぜ。まあ、いざという時になったらしっかり守ってやるから安心しな」


「いざという時が来たら、お前さんよりも魔術師のお嬢ちゃん二人の方が役に立ちそうだけどな」

「おいおい、そりゃねえぜ~」

 そのやりとりに、馬車内が笑いに包まれた。


 そして太陽が真上まで昇りきり、ゆっくりと西に向かって沈み始めようとしていた頃、エレアが声を上げた。


「あ、昇降城だ!」


 地平線上に、高さ2KM(キルメテル)程の高さで浮かんでいる小島が肉眼でも見えるようになった。あれこそが、ユクリプスの「昇降城」である。


「ちょうどあと半分くらいの道のりだな。お嬢ちゃん達、お尻は痛くないかい?」

「お気遣いありがとうございます。大丈夫です」


 御者の問いかけに、アミィが答える。大陸では、バネによる懸架装置により小石などの凹凸でも跳ねない馬車が開発されたらしいが、グラディナダでの馬車はまだ懸架装置なようなものはなく、凹凸で荷台が跳ねるため、乗った者は凹凸の度に臀部を打ってしまう。馬車はまだまだ乗り心地の悪いものであった。二人は、以前初めて馬車に乗ったときに文字通り痛いほどその痛さを味わったため、今回は下に藁を敷き詰めて布で巻いた緩衝材を敷いて乗っていた。


「さあ、あと半分。急いで行こうかね」

今回は文章も短かったので変則的に月曜日の投稿になりました。次回は明後日水曜日の投稿、以降は毎週水曜日投稿となります。ご感想等頂けましたら幸いです。

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