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出発 ~グラディナダ海峡~ 1

今回より第8章「出発 ~グラディナダ海峡~」に入ります。

 昇降城地区からの階段を下りてすぐ、五人はユクリプスの図書館に向かった。前回はエレアとアミィとユカヤの三人だったので、グニとメルは初めての図書館になる。

「へー、魔術師ギルドの地区ってこんな感じなんだぁ。ずっとユクリプスに住んでるけどこっちに来るのは初めてだよ」

「魔術師以外は来る用事がないものね」

 メルの言葉にアミィが返す。やがて、五人の目の前に図書館の建物が見えてきた。

「大きな建物だな」

 グニの感想にエレアが続ける。

「うん、私も初めて来た時には大きさにびっくりしたよ」

 そう話しながらエレアが先頭となって扉を開ける。入口の受付には前回と同じ女性が立っていた。

「ようこそ、ユクリプス図書館へ。あら、以前の……」

「お久しぶりです」

 三人の顔を覚えていた女性に対し、アミィが軽く頭を下げて挨拶をする。そのアミィの横からユカヤが顔を出した。

「あの、この本ありがとうございました!」

 そう言って借りていた『初級魔法教本』を女性に差し出す。

「あら、どうでしたか初めての教本は?」

「はい、とても勉強になりました。ありがとうございます!」

 優しく微笑みながら尋ねてくる女性に対し、ユカヤが目を輝かせながら答える。


「で、ユカヤ」

 先頭に立って図書館内を歩いていくユカヤに対し、エレアが声を掛ける。

「考えがあるって何?」

「はい、『初級魔法教本』の中に、知らない言語を読む『解読』という魔法があったんですけど、そのページの中に、応用魔法として『文字追跡』という魔法があるって書いてあったんです」

「『文字追跡』?」

 聞いたことのない魔法の名前にエレアが聞き返す。アミィが呆れたように答える。

「書物から特定の文字を探す魔法よ。エレア、『解読』のページきちんと読んでなかったでしょう」

「あはは、ちらっと見て使うこと無さそうな魔法だなあと思って飛ばしてた」

 そう言って人差し指で頬を掻くエレア。

「ユカヤは『文字追跡』の魔法を覚えてそれでクエイサの鍵を調べようというのね」

「はい、アミィさん」

 アミィの言葉に、ユカヤが頷く。

「たしかに『文字追跡』の魔法で調べれば、前回は見落としていたクエイサについて記述している本を探し出すことができるかもしれないわね」

 ユカヤのねらいに、アミィが感心する。ユカヤが照れ隠しに本棚にぱたぱたと歩いていくと本を探し始める。

「『知恵と知識の魔法教本』、この本でしょうか。えっと、言語魔法……、あ、ありました」

 ユカヤは素早く目次から該当のページを見つけると本に目を通していく。

「ユカヤってはじめて会った時には古代神聖語が読めなかったんだよね? もう普通に読めちゃってるよね」

「本を読むのは大好きですから」

 そうは言うものの、自分は習得までに数年かかったので、エレアがここでも才能の差を感じて落ち込んでしまう。もっとも、アミィも同じく習得までに数年かかっているのでエレアに才能がないわけではなく、ユカヤが半竜人として特別に人並み以上の知能を有しているという話である。


「よし、呪文は覚えました。たぶん使えると思います。アミィさん、この前の歴史書ってどこでしたっけ」

 ユカヤの言葉に、アミィが背中合わせの棚を探す。

「はい、この本よ」

 差し出された本の上に手を当て、ユカヤが魔法を唱える。

「『我は知識を求む者也。クエイサの文字を追跡し、其を見つけんとす』」

 ユカヤの『文字追跡』の魔法が発動し、本の上に青白く光る文字が浮かび出る。それは、古代神聖語の数字だった。六十七と浮かび出たページ数をめくると、そこは前回アミィが探したクエイサの記述が載ったページだった。

「成功したみたいです。これからどんどん魔法を掛けて調べていきますね」

 ユカヤの言葉にエレアが驚く。

「えっ、でも今の魔法って本一冊ごとに掛ける必要があるんでしょ? ユカヤの魔力がもたないんじゃ」

「この魔法、魔力はほとんど消費しないみたいです。『誘眠』を使ったときのような魔力が減った感じが全然しなかったので。時間はかかると思いますが、皆さんは待っていてください」

 ユカヤの言葉に、残る四人は待つことにした。エレアとユカヤは適当に魔法教本や歴史書などを読み、人間の文字が簡単なものしか読めないグニとメルは、中央のソファに座って休憩を取っていた。


 しばらくして、ユカヤが四人の元に戻ってきた。その顔は浮かない表情をしていた。

「ダメでした……。やっぱり前回の一冊以外にクエイサについて書かれた本はありませんでした」

 肩を落とすユカヤに対しアミィが優しく声を掛ける。

「ありがとうユカヤ。ここにはこれ以上情報が無いとわかっただけでも一歩前進よ」

 とりあえず相談をするにも図書館の中では大きな声を出せないため、一旦図書館の外へ出る。

「さて、これからどうするか」

 グニの言葉に、皆がうーんと唸って頭を悩ませる。そのとき、メルが何かを閃いたようにぽんと手を叩く。

「そうだ! さっきのユカヤの魔法があればどんなにたくさん本があっても調べることができるんだよね?」

「はい、今日全部の本棚を調べてもまだ魔力に余裕はありましたけど」

 首を傾げながら答えるユカヤ。

「あのね、酒場のお客さんに聞いたことがあるんだけど、南グラディナダにバンドンという町があって、グラディナダ中の文献が集められているから<学術都市>という異名が付けられているんだって。そこへ行けばここの図書館よりもたくさんの本から探せるんじゃないかな!」

「<学術都市>か。たしかにそこならクエイサの載った本もありそう!」

 メルの言葉に対し乗り気のエレア。それに対しアミィが不安そうな声をあげる。

「でも南グラディナダまで行くとなるとかなりの日数がかかるでしょう。ソル様に報告せずに勝手に行っていいものかしら」

 エレアがグニの方を見る。特務隊の隊長はグニである。最終的な決定権はグニが持っている。

「図書館へ行って調査をするだけならソルフィーシア様から言われていた範囲から逸脱していないし問題ないだろう。他に何か当てがあるわけでもないしな」

「よし、じゃ早速旅の準備をしよう!」

 そう言って南地区の商店街へ飛んでいくメル。皆もメルの後を追っていく。


 ユクリプスで準備をした五人は、前回の旅と同じく、馬車でマジェスターまで来ていた。そこから更に馬車で北グラディナダ島南端の町ザンプトンへ行き、船で北グラディナダ島に渡る行程である。マジェスターから更に数日かけて、五人は港町ザンプトンに着いた。南北グラディナダ島の交易の要地ということで、街は活気に満ちていた。

「なんか塩っぽい匂いがします」

 ユカヤのつぶやきに、グニが返す。

「潮風と言って、海に近い土地だとこのような匂いのする風が吹くんだ。以前に行った他の町でもこんな匂いがしていた」

「グニは海が初めてじゃないんだ。私もアミィも海を見るのも初めて。こんなに一面に水があるってすごいね」

「私も見たことがあるだけで実際に船で渡るのは初めてだ。船は揺れるので船酔いという症状にかかるらしい。覚悟をしておいた方が良いぞ」

 そんな会話をしているうちに、南北グラディナダを結ぶ連絡船が見えてきた。貨物の輸送が主であるが、人間も数十人は乗れるようになっていた。

「すみません、五人、っとメルはいいのか、四人とピクシーが一人乗りたいんですが大丈夫ですか?」

 エレアが船の乗り口にいる男に尋ねる。

「おう、ピクシーは自分で飛んでいくんだろ? 本当なら一人に数えるところだがまけてやる。四人で百六十ガルな」

「はい、よろしくお願いします」

 アミィが全員分の運賃を男に渡す。

「上に上がったら奥の方から詰めて座ってくれよ!」

「はーい!」

 男の威勢に釣られて元気よくエレアが返事をする。


「う、結構厳しいものだな」

 少し表情を歪めながらグニがつぶやく。

 港を出てからしばらく経ち、もうザンプトンの町は見えるか見えないかという沖まで来ていた。南北グラディナダを隔てているこの海峡は水深が浅く、また常に横風が吹いているため、沖でも所々に白波が立つような揺れがあった。グニはまさに船酔いの状態となっていた。

「私もかなり辛いわ」

 アミィが顔面蒼白となって消え入るような声でつぶやく。ユカヤもそこまで酷くはないものの、若干の酔いがあった。

「私もなんとなくふらふらします」

 そんな中、エレアだけは楽しげに周りの海を眺めていた。

「エレアは船酔いってやつになってないの?」

 こちらは空を飛んでいるので船酔いとは無関係なメルが聞く。

「うん、なんか揺れてるなぁとは思うけど、気持ち悪くなったりはしないよ」

 その様子を見ていた、隣に座っていた商人風の男が話しかけてくる。

「ははは、船酔いは慣れもあるけど体質もあるからね。お嬢ちゃんは船酔いし難い体質なんじゃないかな」

「体質かぁ。私、船乗りとか向いてたのかな」

 そうつぶやくエレアに、なんとか酔いの症状が治まってきたアミィが語りかける。

「もしかしたらエレアは『瞬間移動』の魔法が向いているのかもしれないわ。『瞬間移動』も移動した直後に船酔いと同じような症状になりやすいそうだから」

「瞬間移動かぁ……。あ、そうだ」

 エレアは何かを思い出し、上にいるメルに確認する。

「今日って昇降城が降りてくる日だよね?」

「あ、そうだね」

 メルも忘れていたのを思い出したといった感じで答える。すると、エレアは自分の皮袋の中から手鏡を取り出した。それは、以前にレイラが使っていたものと同じ装飾が施された硝子の手鏡だった。

「ソル様、いらっしゃいますか?」

 エレアが手鏡に向かって話し掛ける。すると、鏡の向こうで書類に目を通しているソルフィーシアの姿が映った。エレアの声に反応して、椅子から立ち上がりこちらへ向かって歩いてくる。

「あら、エレア。何か用かしら?」

「はい、報告です。私達は今、南グラディナダの<学術都市>バンドンへ向かっています。そこでクエイサの鍵について調査を続けようと思います」

「わかりました。南グラディナダに行くというのも良い経験でしょう。ただし、バンドンでの調査が終わったらすぐに戻ってくること。あなた方には他にも色々とやってもらいたいことはあるのだから」

「わかりました」

「ではせっかくの船旅、楽しみなさい」

 そうソルフィーシアが言ったかと思うと、画面は元の透明な硝子に戻っていた。

「あ、向こう岸が見えてきたよ!」

 メルの言葉に、エレアが進行方向を向くと、水平線に、町らしきものが見えてきた。


「ありがとうございました」

 船長に礼を言い、五人は船を下りる。

 南グラディナダ島の北端にある港町キレーは、ザンプトンと同じく港町特有の活気に満ちていた。一見するとザンプトンとの差はほとんど感じられないため、別の島に来たのだという実感がエレアにはあまり沸いてこなかった。

「とりあえず地図と食料を買って、バンドンを目指そう」

 グニの言葉に従って、五人は地図が売っていそうな商店を探した。表通りと思われる通りにあった店に入る。中には恰幅の良い中年男性がいた。

「いらっしゃい。何かお探しかな?」

「ここからバンドンまでの道がわかる地図が欲しいのだが」

 グニの言葉に、男は後ろの棚を探し始める。

「ふーむ、バンドンまでの細かい地図というのは無いな。南グラディナダ全体の地図ならあるがこっちでどうだい?」

「わかった。それを買おう」

「ところであんたら北グラディナダから来たのかい?」

「え、どうしてわかるの?」

 尋ねるエレアに男は答える。

「南グラディナダでヴァルキュリネスやピクシーが人間と一緒にいることなんざほとんど無いからね。それにそっちのお嬢ちゃんは魔術師だろ? 南グラディナダじゃ魔術師自体が滅多にお目にかかれないからね」

「ふーん、そういうものなんだ」

 アミィだけ魔術師だと思われたことに、エレアは自分の格好を見返した。たしかにこの姿は魔術師じゃなくて冒険者だなと納得する。


 その後、食料や野宿の道具を買い込んだ五人は、地図を目当てにバンドンを目指した。途中、森の中で群れから逸れたと思われる単体のゴブリンと遭遇したが、こちらが武器を構えると逃げていったため、特に戦闘が発生することもなく旅は進んだ。野宿をした場所が森の端だったため、朝、日の出と共に歩き始めるとすぐに森を出た。そして、森から出たすぐの場所に、小高い丘を中心とした町が現れた。

「あれが、バンドン……」

 エレアがつぶやく。

 目指していたその町は、うっすらと霧に覆われていた。


というわけで南グラディナダの都市バンドンまでやって来ました。

ブックマーク、ご感想等頂けましたら幸いです。

次回更新は来週水曜日の予定です。

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