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再会 ~南部砂漠遺跡前~ 3

第7章「再会 ~南部砂漠遺跡前~」の3話目になります。

「アミィ! アミィしっかりして!」

 エレアが泣きながら腕の中のアミィに向かって必死に声を掛ける。アミィがうっすらと目を明けるとエレアの方を向く。

「エレア……ごめんなさい……クエイサ……守れなかっ……た……」

「そんなのいいから! アミィが死んじゃ嫌!!」

 泣き叫ぶエレアを制すようにグニが声を出す。

「エレア! 今はアミィを助ける方法を考えるんだ! これはあの魔術師の魔法によるものだ。エレアでないと回復させる方法がわからない」


 そう言われて、エレアは混乱した頭で懸命に考える。これはあの死霊術師に『死の剣』か『死の手』を使われたものだ。本来なら『治癒』の魔法が使えればすぐに回復するのだが、皮肉なことに『治癒』はアミィしか覚えていない。なんで自分も覚えようとしなかったのだという自責の念が沸いてくるが、それに囚われないよう首を振って思考を戻す。生命力を吸われているのだから、生きるための力が弱まっているのだ。何をすれば活力を取り戻せるか。

「ユカヤ、水をちょうだい!」

 そう指示を出すと、エレアは自分のマントを千切るようにして外す。

「栄養と保温が大事なんだ! 水以外に何か消化の良い食べものも!」

 自分のマントでアミィの体を包み込むと、ユカヤから受け取った水袋を慎重にアミィの口に注ぐ。アミィは飲みきれずに半分こぼしながらも、なんとか水分を補給する。

「長旅だから干し肉とかそんな食べ物しかないよ~」

 困った顔をしてメルが言う。旅のときの食べ物は保存食となるので、どうしても消化には良くないものばかりになってしまう。

「大……丈夫……水を飲んだら……少し……楽になったわ……」

 弱々しい声でアミィが囁く。

「アミィ、無理して喋らないでいいから!」

 エレアの声に少し微笑むと、アミィは深呼吸をはじめた。息を吸う毎に、身体に力が戻ってくるのがわかる。

「うん、大丈夫よ……この場に居てもしょうがないわ、早く帰りましょう」

「そんな、大丈夫なわけないじゃない!」

 なおも心配して声を掛けてくるエレアに対し、アミィが答える。

「大丈夫。私がエレアに嘘をつくはずがないじゃない」


 帰り道は、体力の戻りきっていないアミィをグニが背負って歩いたため、行きよりも移動の速度が遅いものとなった。グニが戦えない状態のため、帰路の途中の大蛇などとの戦いはメルとエレアが中心となった。そうして行きよりも一日多くかけて、なんとかマジェスターの街まで辿り着いた頃には、アミィも自力で歩ける程度には回復していた。


 アミィが食事を取れるように、五人はマジェスターの小さな酒場に入った。エレアが酒場のマスターに頼み込み、アミィのために消化の良い食材を集めて煮込んだシチューを作る。

「お嬢ちゃん慣れた手付きだねえ。うちで働かないかい?」

 そう話すマスターにエレアは困ったような笑顔で返す。

「あはは、料理するのは好きなんですけど、今は他に仕事があるので……」

 その様子をテーブルから見ていたユカヤがつぶやく。

「エレアさん料理もできるんですね」

「私と師匠(マスター)が料理できない分、料理はエレアの担当だったから」

 普通に会話ができるまで回復したアミィが苦笑しながら答える。やがて、その表情がだんだんと曇っていく。

「ごめんなさい。私がしっかりとしていなかったせいでクエイサを奪われてしまって」

「そんな、アミィさんは全然悪くないです! あのとき私がしっかり追い払えていたら……」

 アミィの言葉にユカヤが反応する。

「そんなこと言ったら私があんにゃろの魔法に操られなかったらちゃんと倒せてたんだもん、悪いのは私だよ」

 メルが会話を続ける。雰囲気が重くなりそうなところでグニが話す。

「皆、自分を責めるよりも今できることについて考えるんだ。今はエレアの美味しいシチューを食べて栄養を付ける。そうだろう?」

「そうね、せっかくの久しぶりのエレアの料理だもの、美味しく食べなくちゃ」

 アミィがなんとか笑顔を作って答えた。


 一晩をマジェスターで過ごした後、五人はユクリプスへの定期便の馬車に乗った。最初は昨日のエレアの料理の感想などを話していた五人だったが、やがて話題がなくなり、ただ黙々と馬車に揺られながら時間を過ごしていた。

「ねえ、アミィ」

「なあに、エレア?」

「こんなこと言うと怒られるかもしれないけど」 

 そう前置きをして、エレアが話し出す。

「わたし、あの死霊術師の気持ちがわからなくはないんだ」

 そう話を切り出すエレア。アミィは黙って聞いている。

「私も、魔法も剣も中途半端、料理や笛だって全部中途半端で、誰かに認めてもらいたい、でも自分の実力じゃ認められない、って毎日考えながら過ごしてる。だから、誰にも認めてもらえないことの辛さはわかるんだ」

 アミィは、私があなたのことを認めているわ、と思いながらその話を聞いていたが、話の腰を折ることになるので黙って聞き続ける。

「でも、認められるってなんだろう、って考えると、それって誰かが喜んでくれることなんじゃないかなって思うんだ。魔法が成功したら師匠が喜んでくれる、料理を食べた人が美味しいって喜んでくれる、きっとそういう小さな喜びの積み重ねで、認めてもらえるようになるんじゃないかなって思うんだ」

 そこまで話して、エレアはきっと前を向く。

「だから、あいつのやり方じゃ駄目なんだ。あれじゃいくら魔力が強くなっても誰も喜んでくれない。きっとクエイサの力を解放してもさらに多くの人を不幸にするだけであいつは誰にも認めてもらえないと思うんだ」

 そして再びアミィの方を向く。

「だから私、ユクリプスに帰ったらソル様に今後のあいつの追跡も任せて欲しいってお願いするよ」

「ええ、わかったわエレア」

 アミィも、その優しげな表情をきっと引き締めて頷いた。


 五人を乗せた馬車がユクリプスに着いたのは、ちょうど昇降城が降りてくる前日だった。とりあえず明日までの時間は『薫る椎茸亭』で過ごすことにした。

「そりゃ災難だったな」

 メルの話を一通り聞いた酒場のマスター兼特務隊の先輩でもあるオリゲンが、調合酒を作りながら話す。

「災難なんてもんじゃないよマスター。これで私達特務隊クビになっちゃたらどうしよう」

 メルが羽根を下方向に下げて返す。人間でいう肩を落とす行為と同じである。

「ははは、それくらいでクビにはならんさ。普通はもっと簡単な初任務でも色々失敗したりしてるもんさ」

「そうなのかなー」

「まあ一つ言えるのは、誰でも失敗の一つや二つはある。それを活かして成長する人間は特務隊を続けているし、成長しない奴は特務隊をやめるか任務中にくたばっちまってる、ってことだな」

 そう話すと、オリゲンは出来上がったばかりの調合酒を二杯メルの前に出す。

「ほら、仕事だ仕事。こいつを三番テーブルだ」

「はーい」

 メルが両腕に調合酒のジョッキを担いで飛んでいく。


 翌朝。

 メルもさすがに今回は寝坊をすることなく、朝陽が上る前に五人は『薫る椎茸亭』を出発した。検問所には人の列どころか検問員の魔術師もまだ来ていないうちに辿り着いた。一刻も早く今回の件を報告しなければという思いからである。

 やがて、いつもの検問の魔術師がやってくる。

「おはよう、今回も早いね」

「おはようございます。ソル様に一番で報告したいんですけど、今ソル様に連絡できませんか?」

 エレアが無理を承知で魔術師に訊く。

「うーん、昇降城は上っている間は地上からは連絡が一切つかないんだ。一番最初に並んでいるし多分面会も一番にしてもらえるとは思うけど」

「よろしくお願いします」

 そう言ってエレアがお辞儀をする。前回とは異なるエレアの様子に、魔術師も少し面食らっているようだった。


 やがて、風を引き裂く音と魔法音が重なった独特の轟音を響かせながら、昇降城地区が降下してくる。エレア達は駆け上がるように階段を上がっていった。

「あら、今日は一番乗りなのね」

 そう声を掛けてくるレイラに、エレアが急いで返す。

「レイラさん! 今日のソル様の予定わかりますか? 一番で報告したいことがあるんです!」

「そうね、今確認するからちょっと待ってね」

 そう言うと、レイラは腰の布袋から手鏡を取り出す。一般的に出回っている鏡は青銅を平らに磨いただけのものであるが、この手鏡は、綺麗な透明の硝子が張られたものだった。恐らくは名高いドワーフの硝子職人の手によるものであろう。

 そして、何よりこの手鏡が普通と違ったのは、鏡は自分の姿を映すものであるが、この手鏡に映っているのは、どこか別の部屋のような場所であるということだった。

「ソル様、いらっしゃいますか、レイラです」

 鏡に向かって話し出すレイラ。すると、鏡の向こうの部屋で美しい銀色の長髪の女性がこちらに向かって歩いてきた。ソルフィーシアである。この手鏡は、ソルフィーシアの私室と連絡を取るための魔法の品のようである。

「なにかしら?」

「グニさん達の隊が早急に報告したいことがあるとのことです」

 レイラが鏡の向こうのソルフィーシアに話す。

「わかったわ。いつもの部屋へ通して。すぐに向かうわ」

 ソルフィーシアの答えと同時に、鏡が普通の硝子に戻る。

「いつもの部屋へ行って。ソル様もすぐに来られるそうよ」

「ありがとうございます!」

 レイラの言葉に礼を言うと、エレアは早足で王城へ向かっていった。


 五人は王城『天高きアイロア』に入った後、真っ直ぐにいつもの部屋へ向かった。やがて、部屋に近付くとエレア、アミィ、ユカヤがあることに気付く。

「あ、もう部屋にソル様がいる……」

「待たせてしまったかしら」

「とにかく急ごう」

 いくら貴族としての生活に縁がないエレア達といえど、城の中で走ることが無作法に当たることはわかっていた。なるべく早足で部屋へ向かう。

「失礼します」

 隊長であるグニが先頭になって部屋へ入る。そこには、テーブルの片隅で椅子に座っているソルフィーシアが居た。

「お待たせしてしまったでしょうか」

「いいえ、ちょうど一人で考え事をしたいと思っていたから。それより急ぎの報告とは何かしら?」

 ソルフィーシアの言葉に、五人の顔が強張ったものになる。グニが話し始める。

「はい、『クエイサ』を発見したのですが、話していた魔術師に奪われてしまいました」

 グニの報告に、ソルフィーシアは表情を変えずに立ち上がる。

「エレア、失礼するわね」

「え、はい」

 急に呼ばれたエレアが驚いて返事をするが、ソルフィーシアは一瞬目を閉じたかと思うと、目を開けたときには全てを悟った表情をしていた。

「『読心』と『記憶探査』を使わせてもらったわ。経緯は全て把握しました」

 普通、精神を操作する魔法を使われると、魔術師の場合違和感のようなものを感じるのだが、エレアは全く魔法を掛けられていたことがわからなかった。熟練した魔法の使い手になると相手に違和感を感じさせることすらないのかと、エレアは驚嘆していた。

「まずは謝ります、ごめんなさい。まだ特務隊の経験のほとんど無いあなた方に無理をさせてしまって危険にも晒してしまったのは命じた私の責任です」

 てっきり怒られるか呆れられるかと思っていたエレアは、ソルフィーシアの謝罪にどう反応していいか困ってしまう。

「え、でも……」

「あなた方に落ち度は無いわ。全員自分の責任のように思っているようだけど、その思いは次の任務をしっかりとこなすようにすれば良いから」

 メルは、ソルフィーシアの言葉に昨日オリゲンに言われたことを思い出していた。

 ソルフィーシアは、仕切り直すように全員を見渡してから話を続ける。

「私の方でも少し調べていたのだけれど、クエイサの鍵についてはまだわかっていません。今後はその死霊術師より先にクエイサの鍵について突き止めないといけないわ。今後の調査については他の特務隊のメンバーに任せます。あなた方には一休みしてもらって、それから新たな任務に着いてもらいます」

 その言葉は、エレアの想定内だった。なので、予め用意しておいた言葉を返す。


「ソル様、お願いがあります。私達がクエイサの鍵の調査のメインから外されるのは仕方ないと思ってます。でも、メインの特務隊の人達とは別に私達にも並行して調査を続けさせてください」

 このエレアの言葉が想定内だったかどうか、ソルフィーシアは淀みなく答える。

「今回の任務は肉体的にも精神的にも疲労が大きかったはずよ。休憩も立派な任務だと思って」

 休憩も任務と言われてしまい言葉に詰まったエレアに代わり、アミィがソルフィーシアに答える。

「はい、それは承知しています。しかし、今の状態のままで休んでも体はともかく心は落ち着かず休息にはなりません。それは私だけでなくこの五人共通の思いです」

 アミィの言葉を受けて、ソルフィーシアが再び全員を見渡す。五人全員の目が、アミィの言葉を裏付けるようにやる気に満ち溢れていた。ソルフィーシアは軽く一息吐くと観念したように話した。

「わかりました。でもあくまであなた方の任務は調査です。間違っても死霊術師を探し出してクエイサを奪い取るとかそういうことは考えないように」

「はい!」

 調査を認めてもらったエレアが嬉しさのあまり目を輝かせて返事をする。


「ところで」

 ソルフィーシアとの謁見が終わり、部屋を出たところでグニがエレアに話し掛ける。

「今後の調査は認められたわけだが、何かクエイサの鍵の調査について当てはあるのか?」

 その言葉にきょとんとするエレア。やがて眉を寄せて難しい顔をする。

「そういえば、何も当てがないや……」

「えー! 何もないの!?」

 メルもてっきりエレアに当てがあって強気に出ていたと思っていたので、思わず突っ込みを入れてしまう。

「あの……」

 その時、ソルフィーシアとの謁見中は一言も喋らなかったユカヤが口を開く。

「なあに、ユカヤ?」

「私、当てというか考えがあるんです」

 まさかのユカヤの言葉に全員がユカヤの方を向く。


「もう一度、ユクリプスの図書館に行きましょう。試してみたいことがあるんです」


というわけで次回はユカヤの提案で再び図書館へと向かうことになります。

ブックマーク、ご感想等頂けましたら幸いです。

次回更新は来週水曜日の予定です。

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