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再会 ~南部砂漠遺跡前~ 2

第7章「再会 ~南部砂漠遺跡前~」の2話目になります。

 死霊術師の合図と共に、砂漠地帯の砂の大地から無数のゾンビやスケルトンが姿を現す。その数は、ホルナの村の時の倍はあろうかという、圧倒的な数だった。

「わざわざ召喚用の儀式石を持ってこなくても、この地に眠っている死体だけで十分。まったく、我ら死霊術師に誂え向きの場所よ」

 そう言って死霊術師が鼻にかけた笑みを浮かべる。

「こんなにいたらゾンビの相手をするだけで日が暮れちゃうよ~」

 メルが長槍(ピクシーブレード)を構えながら嘆く。

「くそ、あいつの所まで辿り着かないといけないのに……」

 エレアも苦渋の表情を浮かべる。


 その時、ユカヤが一歩前に歩み出る。

「ユカヤ……?」

 声を掛けたアミィの方は振り返らず、ユカヤはクエイサを持ち抱えていた両手のうち右腕を前にかざすと、呪文の詠唱を始める。

「『我が魂の力を持って、其を眠りの彼方へと誘う。誘眠!』」

 ユカヤの頭の角が光ったかと思うと、バタバタとゾンビ達がその場に倒れこんでいった。

「やった……!」

 ユカヤが喜びの声を上げる。

「ユカヤ、凄いわ」

 アミィも驚いた様子でユカヤに話し掛ける。話し掛けられたユカヤが答える。

「『誘眠』は精神の集中している相手には効き難いという話だったので、ゾンビになら効きやすいかと思って試してみました」

 そのユカヤの判断力に感心してアミィが話す。

「良い判断だったわユカヤ。しかもすごい魔力ね。あれだけいたゾンビの半数以上が眠ったわ。スケルトンも何体かは眠らせたようだし」

 ゾンビに比べて戦闘意欲の高いスケルトンには精神操作系の魔法である『誘眠』は聞き難かったが、それでも何体かはその場に倒れ込んだまま動かなくなっていた。今や、残ったスケルトンの数はホルナの村の時と同程度、ゾンビは十数体のみとなっていた。エレアの目に、死霊術師までの道筋が見える。

「今度こそ、あいつをっ!」

 エレアが死霊術師を目掛けて走り出す。行く手を遮るようにスケルトンが姿を見せるが、そこはグニが星球連接棍(モーニングスター)の一撃を浴びせる。

「エレア、行け!」

 グニの言葉に黙って頷くと、エレアは再び走り出す。

 スケルトンはそれなりの数が残っていたが、グニがうまくエレアの進路ができるように相手をしていく。一体は星球連接棍で横から叩きつけ、一体は相手の攻撃を受けたまま盾ごと重心を入れ替えて転倒させ、一人で常に複数体を相手に戦っている。


 一方、ユカヤとアミィは後方で戦いを見守っていた。アミィがユカヤに語りかける。

「ユカヤ、クエイサは私が預かるわ。あの死霊術師の狙いが以前と変わっていないなら、クエイサとユカヤの両方が狙われていることになるわ。万が一のことを考えて、クエイサとユカヤは離しておきましょう」

「でも、それだとアミィさんも危険なんじゃ……」

「大丈夫よ。どのみち万が一が起こったら二人とも危険なのだから」

 そう言うと、アミィはユカヤからクエイサを受け取る。

「ふう、こんなに重いものをユカヤは楽に持ち歩いていたのね」

 重そうに持つアミィに心配そうにユカヤが声を掛ける。

「アミィさん大丈夫ですか?」

「大丈夫よ。それより皆を見守りましょう」

「はい!」


 エレアはグニの助けもあり、死霊術師の目の前まで迫っていた。エレアの姿を認めた死霊術師が、『死の剣』の魔法で青白い光の剣を作り出し、迎撃の態勢を取る。

「ハァアッ!」

 エレアが気合と共に細剣(レイピア)を一閃する。『軽量化』と『正確さ』の付与された細剣による一撃を、死霊術師はギリギリのところで受け止める。

「こやつっ……!」

 前回と同程度の実力だろうと見くびっていた死霊術師は、その突きの鋭さに驚く。と同時に、細剣から放たれる光沢に、それが魔力付与のされた一品であることを瞬時のうちに判断する。

「実力で敵わぬから魔力付与の手助けか!」

「お前に言われる筋合いはないっ!」

 その後もお互いの剣を交差させる。細剣に付与された魔法のお陰もあり、エレアは前回のような一方的に押し込まれることはなく、なんとか互角の戦いに持ち込むことが出来ていた。細剣が強化されているという精神的な後押しから、『死の剣』による生命力を吸い取られるという恐怖感も前回ほど感じずに、純粋に己の剣技に集中することが出来ていた。


「てやぁああっ!」

 十数体いたゾンビをメルが全て切りつけ倒し終える。メルは一息つくと、周りを見渡した。スケルトンはグニが相手をしている。すでに数体が倒されていて、グニも余裕をもって相手をしている。あちらは問題なさそうだ。ゾンビはすべて倒したから後方のアミィとユカヤにも心配はない。

 エレアは、死霊術師と戦っていた。メルは前回の死霊術師とエレアの戦いを見ていなかったが、遠目から見る限り内容はほぼ互角か若干エレアが押され気味である。

 よし、と自分が次に取る行動を決めて、メルは宙を飛んでいった。今一番自分が効果的なのはエレアの助けに行くことだ。


「エレア、加勢するよ!」

 エレアがその声を聞いたのは、死霊術師との連撃を終え、一息入れるために後ろにステップを取ったところだった。

「メル!」

「私が来たからには、一気にやっつけちゃうよ!」

 そう威勢の良い言葉を発すと、メルは一気に死霊術師に向かって切り込んでいった。死霊術師は『死の剣』で受け止めるが、すかさずメルは二撃目、三撃目と打ち込んでいく。死霊術師も『死の剣』でなんとか攻撃を防ごうとするが、メルの勢いの前に防戦一方となる。

 やがて、死霊術師の黒い外套(ローブ)に切り痕が増えていった。中には外套の隙間から赤い血が覗いているものもある。『瞬間回避』は致命傷になる攻撃を受けたときに発動する魔法のため、切り傷程度だと攻撃を受けることになる。メルの斬撃が入るたびに死霊術師の顔が苦痛に歪む。

「すごい……」

 その光景をエレアは真横から見ていた。自分がどうやっても互角にしか持ち込めなかった死霊術師を相手に一方的に攻め立てるメルの剣技に、あらためてエレアは感嘆していた。

「これでとどめだぁっ!」

 そう叫んでメルが長槍を大きく振りかぶる。その一瞬の隙を死霊術師は見逃さなかった。


「『魅了』」


 死霊術師が短い魔法の単語を唱える。直後、メルは気を失ったかのようにかくんとその場から落ちると、やがてふらふらと立ち上がってきた。

「メル!」

 エレアの言葉に反応したようにメルがエレアの方を向く。しかし、その瞳に光はなかった。

「あの娘を殺せ。それがお前の使命だ」

 死霊術師の言葉に従うように、メルがゆっくりと長槍を構える。そして一気にエレアの方へ向かって飛んでくる。

「くっ!」

 メルの渾身の一撃を、エレアは片手用短剣(マンゴーシュ)でなんとか受け止める。メルの一撃はその小さな身体からは想像できないほど重く、受け止めた左手が衝撃で跳ね上がる。

「メル、正気に戻って!」

 エレアは、死霊術師がメルに掛けた魔法の言葉を聞き逃していなかった。

 『魅了』。

 掛けた相手を自分の意のままに操る精神操作系の魔法である。『誘眠』などと同様、相手が気を強く保っていれば効き難い魔法であるが、メルはとどめを刺そうと少し油断をしていた。その隙を死霊術師は見逃さなかったのだ。

「……」

 メルはエレアの声に反応せず、ただひたすらにエレアに攻撃を仕掛けてくる。相手の攻撃を受け流すのが専門の左手用片手剣とはいえ、エレアもだんだんと全ての攻撃を受けきれなくなり、左肩の当たりに小さな切り傷を負ってしまう。


 その様子を満足そうに眺めていた死霊術師は、周囲を見渡し、クエイサの存在を見つけると、『瞬間移動』でアミィの前に現れた。

「あっ……」

 急に目の前に死霊術師が現れたことで、アミィは驚きと恐怖で足がすくむ。

「さあ、クエイサを渡せ、抵抗すれば容赦はしない」

 その死霊術師の言葉に、なんとか恐怖心を抑え込んだアミィが死霊術師をきつく睨み返して答える。

「あなたには絶対渡せないわ!」

「そうか、ならば力ずくで取らせてもらおう」


「アミィ!」

 常に全体を見渡しながら戦っていたグニは、メルがおかしな魔法を掛けられてエレアと同士討ちを始めたことも、死霊術師がアミィの前に瞬間移動したこともわかっていた。しかし、常に複数のスケルトンを相手にしているため身動きが取れなかった。エレアかアミィどちらかの援護に行けば、スケルトン達をもう片方側へと逃がしてしまうことになる。

「ハァッ!」

 スケルトンの頭蓋骨に星球連接棍を叩きつけ一体を動けなくするも、すぐに次の一体がグニの目の前にやって来る。グニの顔に焦りの色が見えていた。


 アミィの目の前の死霊術師が、自分の右手を白く光らせる。『死の手』の魔法である。

「アミィさん!」

 近くにいたユカヤが死霊術師に向かって自分の身体を一回転させるようにして尾を叩き付けようとする。それは当たれば致命傷になりうるような太く強烈な鞭のような一撃だったが、動きが大きいため、死霊術師は余裕を持って後ろに下がりその攻撃を避ける。

「ふん、あの時の半竜人か。まあクエイサそのものが手に入れば代用のお前に用は無い」

 そう言うと、死霊術師はすっとアミィの前髪を掴むように額に手を当てる。戦闘の心得の無いアミィは避けることもできずに死霊術師の『死の手』に触れられてしまう。高熱でうなされる直前の全身に寒気が走るような感覚に見舞われ、アミィがその場に倒れこむ。アミィの手からこぼれ出たクエイサの紅玉を拾うと、死霊術師はユカヤの攻撃が当たらない距離まで空に浮かぶ。『飛行』の魔法である。

「あとは本物のクエイサの鍵さえ手に入れば我は至高の魔術師として認められる存在となる。もう鍵の代用候補であるお前に用は無い。命拾いしたな、小娘」

 下から睨み付けるユカヤにそう言い放つと、死霊術師は『瞬間移動』の魔法でいずこかへ消えていった。


 死霊術師が消えたことで、メルの『魅了』の効果も切れる。メルは一瞬意識を失ったかのようにすうっと降下すると、気を取り戻し目を瞬きさせた後、首を左右に振る。

「あれ、私……。あ、エレアどうしたのその傷!?」

 意識を取り戻したメルの目の前にいたのは、全身が切り傷でぼろぼろになったエレアだった。その傷を自分が付けたとは意識が戻ったばかりのメルには思いも付かない。

「良かった、メル。『魅了』の魔法が解けたのね」

 満身創痍のエレアがメルに微笑みかける。しかし、メルとの戦いに集中していたエレアは、周りで何が起きていたか全くわかっていなかった。


「アミィさん!」

 遠くから聞こえるユカヤの叫び声に、エレアがはっとして声の方を向く。そこには地面にぐったりと倒れ込んだアミィの姿があった。

「アミィ!!」

 エレアが自分の傷も顧みずアミィの元へ走り寄る。その目には、ユカヤの手元にクエイサが無いことも、死霊術師がいなくなっていることも映っていなかった。ただ、顔面蒼白となり倒れこんでいるアミィの姿だけが映っていた。

「アミィ! アミィしっかりして!」

 エレアがアミィを抱き起こす。エレアの腕の中で、アミィは苦しそうに吐息を漏らしていた。


というわけでクエイサは死霊術師に奪われてしまいました。

ちょうど物語の前半部が終了、次回から後半戦に入ります。

この機会にぜひご感想頂をけましたら幸いです。

次回更新は来週水曜日の予定です。

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