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再会 ~南部砂漠遺跡前~ 1

お待たせいたしました。

今回より第7章「再会 ~南部砂漠遺跡前~」に入ります。

 台座の上で赤く光り輝くクエイサ。

「綺麗です……」

 その輝きの神秘性に、見惚れたユカヤがつぶやく。

 皆が一様にユカヤと同じくクエイサの輝きに見惚れていたが、エレアだけは背筋がぞくりとするような感覚を覚えていた。

「すごいね、これ……。このクエイサ自体が純粋な魔力石(パワーストーン)なのかな。それとも更に何か特殊な魔法が付与されているのかな。とんでもない魔力波動だよね、アミィ」

「え、魔力波動?」

 エレアに話を振られたアミィがきょとんとした顔をする。

「たしかに魔法の宝具だとは見た目でわかるけど、特に波動は感じないわ」

「え?」

 今度はエレアが驚いた表情を見せる。当然自分と同じようにアミィも魔力の波動を感じていたと思っていたからだ。

「ユカヤは感じるよね?」

 エレアがユカヤに向かって尋ねる。半竜人であるユカヤは、魔術師としての鍛錬は行っていないがエレア・アミィ以上に魔術師としての素養を持っている。以前にソルフィーシアに会った時もその波動を感じていたので、魔術師や魔力石を見ると魔力の波動を感じ取ることのできる体質である。

「いえ、私も波動は全然感じないです。いかにも波動を出していそうな雰囲気はありますけど……」

「アミィもユカヤも何も感じないのか。私もユカヤが言ったみたいに雰囲気でそう感じちゃってるだけなのかなぁ」

 いまいち納得していないといった顔でエレアがつぶやく。とりあえず今ここでこの議論をしていても仕方ないと考え、話題を変える。

「それにしてもけっこう大きいよねこれ。どうやって持って帰ろうか」

「先ほどの大蛇のような敵は帰りにも遭遇する危険があるから、私とメルは常に戦える状態にしておく必要があるだろう。アミィやユカヤに持たせるわけにもいかぬし、悪いがエレアが持ち運んでくれないか」

 グニの言葉に、エレアが眉を寄せながら答える。

「やっぱりそうなるよねえ。よいしょっと……うわ、けっこう重いなこれ」

 エレアが台座からクエイサを持ち上げて抱えるが、人間の頭より一回り大きいクエイサは、鉄か鉛でできているかのような重さがあった。一般的な少女に比べれば多少鍛えている程度のエレアの腕力だと持ち運んで帰るのには一苦労しそうだった。

「エレアさん、私が持ちます」

 そう言い出したのはユカヤだった。

「え、でも……」

「私、こう見えても半竜人ですから。力も普通の人よりもずっと強いんですよ。村ではよく畑仕事を手伝ってましたから」

 そう話すと、エレアが抱えていたクエイサをひょいと持ち上げて抱きかかえる。その顔には余裕があり、エレアのような抱きかかえているのがやっとという辛さは見えなかった。

「大丈夫、ユカヤ?」

「はい、これくらいの重さなら全然問題ないです」

 心配するアミィに、笑顔で答えるユカヤ。その様子を見たグニが声を掛ける。

「よし、では塔を降りよう」


 塔を下っていく帰り道は、グニとメルがいつでも戦える状態でいたものの、特に外敵が現れることはなかった。

「なるほど、一定の時間が経つと自動的に罠が復活する仕組みなのかしら?」

 行きで解除した魔法の罠が解除されたままになっているのを確認して、アミィがつぶやく。

「そうだよね、じゃないと私達より先にあのゴーレムと戦った人達が解除したままの状態のはずだものね」

 アミィのつぶやきにエレアが続ける。その後も下りの道は順調に進んだ。


 まもなく一階に着こうかというところで、急にエレアが立ち止まった。

「ん、どうしたのエレア?」

 エレアの急な行動にメルが首を傾げる。

「この波動……まさか……。ねえ、アミィ?」

「エレアも感じるの? 気のせいかとも思ったのだけれど」

 エレアとアミィのやりとりの意味がわからないメルとグニ。一方、ユカヤはその意味を悟って、顔から急速に血の気が引いていた。

「エレアさん、アミィさん、これってやっぱり……」

 ユカヤの問いかけに対し、エレアがユカヤの方を振り向く。その表情は険しかった。

 エレアはユカヤに答えることなく、一階へと降る階段を一人駆け下りていく。

「エレア! 待って!」

 慌ててアミィ達もエレアの後を追う。エレアは、塔の入口を出たところで立ち止まっていた。


「なんで、お前が……」

 呆然とした表情でエレアがつぶやく。

 エレアの視線の先、互いの声が聞こえるか聞こえないかという距離に、一人の人物が立っていた。

 漆黒の外套(ローブ)に全身を覆われたその姿、外套から覗く中性的で邪気に満ちた顔。

 それは、間違いなくホルナの村でユカヤを襲った死霊術師だった。

 四人がエレナに追い付き、同じように死霊術師の姿に気付く。死霊術師は、五人の姿と、ユカヤが抱えているクエイサを見ると、口元を引き上げて冷淡な笑みを浮かべる。


「まさか、クエイサを持ち運んできたのがお前達とはな。久しぶりとでも挨拶をするか?」

 その言葉にエレアが激昂する。

「ふざけるな! どうしてお前がここにいる!」

 そのエレアの怒りを死霊術師は軽く受け流す。

「なに、クエイサの遺跡の内部に動きがあったと『遠方感知』で知ったからやってきただけのことだ。まさかクエイサが本当に持ち出されているとは期待していなかったがな」

「あなたはここにクエイサがあると知っていたというの?」

 死霊術師の会話の内容から、アミィが問いかける。

「お前達と別れた後すぐにな。クリスタルゴーレムを相手にする気など無かったからユクリプスに情報を巻いてどこぞやの冒険者が持ってくるのを待とうと思っていたが、まさかお前達が持ってくるとは思わなかったよ」

 その死霊術師の言葉にメルが反応する

「え、じゃユクリプスの情報屋にクエイサの情報を入れたのって」

「我だよ。そうか、我の仕組んだ情報でお前達がクエイサを取ってきたのか。これは傑作だな」

 クックックと死霊術師が引き攣った笑いをみせる。自分達がまんまと死霊術師の思惑通りに死霊術師の代わりに危険を冒してまでクエイサを手に入れたという事実に、エレアが悔しさからきつく奥歯を噛み締める。


「さあ、我にそのクエイサを渡せ。そうしたらお前達ごときの命など興味が無い。見逃してやろう」

「誰がお前なんかに!」

 死霊術師の言葉に怒るエレアを抑えるようにエレアの胸に左手を当てたアミィが、冷静に死霊術師に問いかける。

「あなたは、クエイサを手に入れて何をするつもりなの? それだけの魔力を持ちながら、世界征服でも企んでいるの?」

 そのアミィの言葉に、死霊術師はそれまでの嘲り笑うような表情を一変させる。それは怒りでもない、ただ憎しみに満ちた顔だった。

「我を認めさせる。それが我の望みだ。クエイサはそのための手段にすぎぬ」

「認めさせる……?」

 死霊術師の答えが想像していたものとは違ったため、アミィが訊き返す。死霊術師は、憎しみに満ちた表情から元の無表情な顔へと戻し、淡々と語り始める。あるいは、その語る内容から努めて無表情にしようとしたのかもしれない。


「我は元々平凡な農家の子供にすぎなかった。それをある日、師匠(マスター)となる魔術師に拾われて魔術師となった。お前達にもわかるだろう、自分が魔術師になった時の期待と興奮が」

 そう言われてアミィは自分が師匠に初めて会った時の記憶を辿る。アミィは自分の性格から、期待や興奮よりも不安の方が大きかったことなどを思い出していた。

「しかし、その先で待っていたのは屈辱の日々だった。あの男は自分で弟子として我を見出しておきながら、いざ修行が始まるとことごとくお前には才能がない、使えないと我を罵倒し続けた。自分の名に傷が付くとまで言い放った。しかし当時の我には見返すだけの力が無かった。だから修行をした。必死になってあの男の得意としない魔法も覚えていった。そして見つけたのが、死霊魔法だった」

 そこまでを聞いて、アミィは目の前の死霊術師を可哀相だと思った。自分達の師匠は厳しくも優しい人物だったため、師匠から認めてもらえないということの辛さはアミィには計り知ることができなかった。

「我の死霊魔法を見て、しかしあの男は我を認めなかった。死霊魔法そのものを下賎な魔術師が使うものだと罵倒し、自分の魔術師としての格が落ちるから我を破門にすると言ったのだ。そこで我はあの男を殺した。認めてくれぬ師匠など師匠ではないからな」

 死霊術師は無表情を保ったまま語り続ける。しかし、瞳の奥に再び憎しみの炎が沸き上がってきているのをアミィは見逃さなかった。

「そして我はユクリプスの魔術師ギルドへ行った。この死霊魔法を活かした仕事をしていこうと思った。だが、魔術師ギルドでも反応は同じだった。ギルドの人間は、我が死霊術師というだけで、師匠からの推薦が無いとギルドには入れないと言った。他の魔術師はそんなものを必要としないのにだ。そこで我は悟った。死霊術師はそれだけで世間には認められない存在なのだと。ならば力を付けようと我は考えた。死霊術師でも認めざるをえないほどの力を。クエイサはそのための手段にすぎぬ」


「そのためにホルナの村の人達を殺したというのか! ただ自分を認めてもらいたいというだけのために!」

 それまで黙って話を聞いていたエレアが怒りの形相で死霊術師に問い詰める。死霊術師は無表情のままエレアに返す。

「我を認めさせるために何人死のうが、それは我の興味の範疇外だ」

 そしてもう一度言葉を繰り返す。

「さあ、我にそのクエイサを渡せ。そうしたらお前達ごときの命など興味が無い。見逃してやろう」

「断る! お前だけは絶対に許せない!」

 そう叫んでエレアが腰から細剣(レイピア)を抜く。その動きに合わせてグニとメルもそれぞれの武器を構える。


「やれやれ、交渉決裂か」

 そうつぶやくと、死霊術師は軽く指を鳴らした。それを合図に、砂の大地から湧き出るように、無数のスケルトンとゾンビが姿を現した。


ということで再び死霊術師と対峙することとなったエレア達。

次回は死霊術師との対決となります。

次回更新は次の水曜日の予定です。

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