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探索 ~南部砂漠~ 1

今回より第6章「探索 ~南部砂漠~」に入ります。

 ユクリプス南の街道を、馬車が走っている。

 この時代、馬車は整備された街道しか走れないため、主要な街道以外で馬車を見掛けることはほとんどなかった。野盗や山賊に狙われるという治安の面と、整備された道でないと車の部分がうまく走れないという技術の面からである。

 そして、このユクリプスから南に繋がる街道は、途中がずっと平原のため治安も良く、人通りも多いため路面の整備もされているという、馬車が走るための条件を満たした街道であった。なにしろ、グラディナダ群島最大の都市である<昇降都市>ユクリプスと、北グラディナダ島でユクリプスの次に大きな第二の都市マジェスターとを結ぶ街道である。


「うーん、やっぱり肩からたすき掛けよりも腰に結び付けちゃった方がいいかなぁ」

 ユクリプスからマジェスターまでの馬車の中で、メルがつぶやく。五人は、あの後ソルフィーシアより『魔力付与』の武具や魔力石を借り受けて、南部砂漠を目指していた。南部砂漠へは、一番近い大都市であるマジェスターまで馬車で行き、そこから砂漠用に装備を整え直して徒歩で進む予定である。

「腰の方がいいのではないか? 肩だと戦闘の時邪魔になるだろう」

 そうグニが返す。グニの背中には、銀色の光沢が眩しい盾が背負われていた。ソルフィーシアより与えられた、『強化』の魔力付与がされた盾である。

「よし、じゃあ腰に巻きつけるか。なんか格好悪いなぁ」

 メルがぼやく。メルに与えられたのは、『回避』の魔力付与が施された首飾りだった。ピクシー用の大きさの既製品で魔力付与された武具がなかったためである。首飾りも、人間用の長さのためメルがそのまま首から提げると飾りが地面に着いてしまうため、さきほどからどうやって身に付けるのかを試行錯誤していたのだった。

「ユカヤはずっと魔法教本読んでるね。こんなに揺れる中、本を読んでたら酔わない?」

 そう言うエレアの腰には、鈍色に光る細剣(レイピア)が掛けてあった。『軽量化』と『正確さ』の魔力付与が施された一品である。

「はい、大丈夫です。本を読むのは楽しいので明るいうちにたくさん読んでおこうと思って」

 そう答えるユカヤの頭に帽子は無かった。ユカヤは『透明化』の魔力付与がされた指輪をソルフィーシアより借り受けていた。指輪の力で頭の角と尻尾が透明化されているため、外見的には半竜人だとはわからなくなっている。

「エレアは揺れる中で本読むと酔っちゃうものね」

 そう話すアミィも、魔術書を読んでいた。アミィには、魔力付与された武具ではなく、魔力石(パワーストーン)が貸し与えられていた。魔力石はその大きさが術者を補助する魔力の大きさに比例するが、アミィが貸し与えられたのは、人間の拳大ほどの大きさの魔力石だった。通常魔術師ギルドで市販されている魔力石が小指の先大から大きくても親指程度の大きさだということを考えると破格の一品である。エレアにも小指大の魔力石の指輪は与えられていたが、より魔法を多く使うだろうということでアミィが大きい方の魔力石を持つことにした。

「あ、そうだグニ」

 エレアが話題を変える。

「ん、なんだエレア?」

「マジェスターに着いたら、ちょっと寄りたい所があるんだけどいいかな?」

「別に用事があるのなら構わないが……。どこか行きたい所があるのか」

「それは、……ね、アミィ」

 そう言ってアミィの方を向くエレア。


 ユクリプスを出発してから四日後の朝、五人を乗せた馬車はマジェスターに着いた。

「わあ、大きな街です」

 そうユカヤが声を上げる。マジェスターはユクリプスほどではないにせよ、北グラディナダで第二の規模を誇る都市であった。同心円状に広がる街路の中心には、領主の住んでいる石造りの城が聳え立っている。

「じゃ私とアミィは行ってくるから、日が昇りきった頃にここで待ち合わせで」

「わかった」

 そう言うと、エレアとアミィは街中へと入っていった。

「では、私達は砂漠へ行くための装備品を買いに行こうか」

 そう話すグニに、ユカヤが答える。

「それにしてもびっくりしました。エレアさんとアミィさんがこの町の出身だなんて」


 やがて、約束の時間にエレアとアミィが戻ってきた。

「お待たせ、みんな」

 そう言うエレアにグニが返す。

「いや、時間通りだ。知人には会えてきたのか?」

「うん、孤児院の先生はもう別の孤児院に行っちゃったらしくて会えなかったんだけど、私達と同じ孤児のお兄ちゃんだったメリストがなんと先生になってて! 時間が経つのは早いなぁなんて思っちゃった」

 そうやって笑うエレア。アミィも顔を合わせて笑っている。その光景を見たユカヤが、二人に声を掛ける。

「あの……、二人は孤児院で育って寂しくなかったんですか?」

 その問いかけに、きょとんとするエレア。

「え、別に寂しくなんかなかったよ? そりゃ孤児院だから生活は慎ましかったけど、うちの孤児院は大きくて何十人も一緒の子がいたし、先生も厳しいけど優しかったし……」

 そのエレアの返しに、少し俯いて話し出すユカヤ。

「私も、孤児でした。私の両親は、私が半竜人として生まれてきたことに驚いて、わざわざホルナの村までやってきて夜のうちに村長さんの家の前で私を捨てました。だから、私は親というものを、家族というものを知りません……」

 そう言うユカヤの肩に、アミィがそっと手を掛ける。

「それでユカヤは寂しかったの? 村長さんは優しくしてくれなかったの?」

「いえ、村長さんは実の子供のように私の面倒を見てくれて勉強までさせてもらったし、村の皆さんも優しかったです」

「ならいいじゃない」

 エレアが再び話す。

「本当の親じゃなくても、親同然に育ててくれた人がいたんだから、そのことに感謝しなくちゃ。それにね、魔術師は師匠の下に付くようになると、師匠が親同然の存在になるんだ。ユカヤもいつか立派な魔術師になったら、師匠と家族同然の暮らしができるようになるよ。なんならうちの師匠のとこに来る? そうしたら私達姉妹だね」

「なら姉弟子のエレアはこの魔法苦手だから覚えませんなんて言ってられないわね」

「うっ、アミィに痛いところを突かれた……」

 そのエレアとアミィのやりとりに、ユカヤは嬉しさのあまり思わず目から涙が零れ落ちていた。

「ありがとうございます。エレアさん、アミィさん……」


 夜、五人はマジェスターの酒場兼宿屋『二角駱駝亭』に泊まることにした。マジェスターの中でも中々の大きさの酒場だったのと、料理が美味しいと昼間にメルが評判を聞いていたからだ。

「うん、聞いた通りだ。このチーズ美味しいねえ」

 両手でチーズを持って頬張りながらメルが満足そうな表情を浮かべる。

「なんでも南部砂漠に生息する駱駝という生物の乳から作ったチーズらしい」

 そう答えながら、グニがエール酒を一気飲みする。ヴェルキュリネスは、その大柄な肉体に合わせたかのように酒に強い種族である。グニも例外ではなく、もうすでに4杯目のエール酒の注文をしたところだった。

「あ、あそこに舞台があるわね」

 アミィが酒場の奥の方に視線を向ける。ここの酒場では専属の楽師や踊り子がいるわけではないらしく、舞台は先ほどからずっと無人のままであった。それを見たエレアがメルに声を掛ける。

「よし、メル。乱入するか!」

 そのエレアの言葉にメルも目を輝かせて答える。

「お、いいねえ。行こう行こう!」

 そう言うと、メルは長槍(ピクシーブレード)の刃の部分に色の付いた布を巻きつける。エレアは背負い袋の中から横笛を取り出す。

「マスター、一曲いいかしら?」

 手馴れた感じでメルが酒場のマスターに声を掛ける。

「お、飛び入りさんかい? おう、どんどん盛り上げてくれよ!」

「まっかせて!」

 マスターの了解をもらったメルが大袈裟に酒場の中を飛び回りながら舞台へ行く。他の客達も何が始まるのかと皆が舞台へと注目する。

「楽師エレアと踊り子メルの舞、皆様お楽しみあれ!」

 そのメルの挨拶を合図にエレアが横笛を吹き始める。それに合わせてメルが舞台を所狭しと華麗に飛び回る。

「わあ、凄い綺麗です……!」

「ああ、初めて見たが流石は本職だな」

 ユカヤの言葉にグニが相槌を打つ。

「エレアさんも凄いです。魔術師なのに剣も使えて楽器の演奏もできるなんて」

「そうなの、なんでもできちゃうのよね」

 ユカヤの言葉に、ちょっと困ったような顔をして答えるアミィ。

「アミィさん……?」

「エレアはね、器用すぎるの。なんでもやろうと思うとすぐにこなせちゃう。しかもある程度のところまでいけるから、逆にその道の達人には敵わない、っていうところまで自分でわかっちゃうの。常に自分は何の道なら究められるのかを探し続けている、そんな生き方だから横で見ていて疲れちゃわないか心配なのよね」

「アミィさん……」

「ごめんなさい、こんなことユカヤに愚痴っても仕方ないわよね。さあ、舞台を楽しみましょう」

 舞台では、ちょうど音楽が最後の盛り上がりを迎えるところだった。


 翌日、相変わらずメルの寝起きが悪く少し出発が遅れたものの、五人は南部砂漠へ向けて出発した。

「それにしても、こんな南に来たのに砂漠があるなんて不思議だよね。たしか砂漠って暑い地域にできるんだよね」

 肌を直射日光に当てないように頭からすっぽりとフードを被ったエレアが歩きながら話し始める。もう日が下り始めていたので、すっかりと周りは砂と岩石の世界になっていた。

「ええ、暑いだけではなくて、雨の降る量が極端に少ないことで、植物の生息しない砂だらけの土地になるらしいわ。だから、大陸の内地のような、海から遠く離れた場所にしか普通はできないらしいわ」

 こちらも全身を布で覆ったアミィが答える。二人とも砂漠は一般知識として聞いたことがある程度の認識だったので、ユクリプスの図書館で気候その他について調べていた。

「でもグラディナダって南に行くほど寒くなるんだよね」

 メルの質問に対してグニが答える。

「そうだな、南グラディナダ島の最南端にあるエイリスの王都リヴァルーは冬の間は雪に覆われると聞く」

「雪ですか。私見たことないです」

 グニの言葉にユカヤが反応する。南グラディナダでは雪が降ることは滅多になく、ユクリプスでも一年に数日程度、ホルナの村だと数年という単位で雪が降ったことは無い。

「そう、だから本来は涼しくなってくるはずの南部砂漠地帯なのだけれど、古代魔法王国時代の魔法儀式の代償として、一体には雨が降らなくなってしまったらしいわ」

 アミィの言葉に、エレアが続ける。

「そんな凄い魔法儀式をかつて行っていた場所だから、南部砂漠にある遺跡には強力な魔法の品々が眠っていて、だから冒険者には人気の場所らしいよ」

「たしかに昨日もこれから南部砂漠遺跡に行くっていう冒険者を街でたくさん見かけたよ」

 メルが答える。メルだけは羽根を布で覆ったら飛べなくなるということで普段の格好のままである。メルの言葉にアミィが返す。

「でも、遺跡の中は魔法による罠だらけだから、魔法の心得の無い冒険者だと財宝までは辿り着けないらしいわ」

「砂漠地帯には凶暴な砂蛸や砂海老が生息しているから、遺跡まで辿り着くこと自体が難しいらしいな」

 そうグニがマジェスターの街で冒険者達から聞いた話をしたところで、遠くから地鳴りのような音が近付いてきた。


「な、何!?」

「あ、後ろ!」

 空を飛んでいたメルが一早く地鳴りの正体に気が付く。五人の背後の地面が盛り上がりながら近付いてきていた。地鳴りはその盛り上がりが出していた。地面の盛り上がりが五人のすぐそばまで近付いたところで、盛り上がった砂が弾け飛んで、中から巨大な物体が姿を現した。地鳴りの主は、全長6Mに達するかという巨大な灰色の槌海老の姿をした生物だった。槌海老は元々グラディナダ近海で獲れる食材でその大きな前脚の鋏部分の肉が美味とされているが、この砂から出てきた生物の鋏は人間の背丈ほどの大きさもあった。その大きく発達した前脚の鋏で一番大きな獲物と判断したグニを捉えようとする。

「クッ!」

 経験豊富なグニは、砂海老が姿を現した瞬間に既に星球連接棍(モーニングスター)と盾を抜いて戦う準備をしていた。砂海老の強烈な一撃を魔力付与で強化された盾で受け止める。キィイインという魔法音が鳴る。それは、通常の盾の防御力を超えた力で攻撃を受けたため、魔力による防御強化をしたという証であった。もし普通の盾で受けていたら盾ごと粉砕されていたであろう。

 砂海老は、一撃を防がれると、そのまま砂の中へ潜っていった。エレアが叫ぶ。

「みんな、あれは砂海老! ああやって砂の中から飛び出しては鋏で人を襲う生物!」

「よーし、それなら……」

 エレアの言葉に、メルが長槍を構えて上空まで飛んでいく。上空からだと、砂海老がどこから襲ってきても一目でわかる。

 今度は五人の左手から地鳴りが迫ってくると砂海老が飛び出してきた。メルが飛び出してきた砂海老の眼を狙って長槍を構えて急降下する。

「もらった!」

 そう言って長槍を振り下ろすメル。しかし砂海老は器用に空中で身体を旋回させると、鋏でメルを薙ぎ払った。咄嗟に長槍で受け止めたものの、圧倒的な質量の差で、メルは地面に叩き付けられてしまう。

「メル!」

 アミィがメルの元へ駆け付ける。メルは地面へと叩き付けられたことによる全身打撲でかなりの傷を負っていた。

「うっ、つ、痛ぅ・・・」

 呻き声を上げるメルに、アミィが『治癒』の魔法をかける。メルの全身から痛みが引いていく。

「ありがと、アミィ。それにしてもあんにゃろ、絶対に許さない……!」

 そうは言ったものの、メルの力では、眼でも狙わない限り、砂海老の厚い鎧のような皮膚に打撃を与えることは難しかった。

 その後も砂海老は何度も方向を変えては跳び上がってグニを襲っていた。グニも盾で受け止めるのが精一杯で、こちらからは攻撃することができないでいた。その重たい一撃に、徐々に体力を奪われていく。


 そのとき、エレアが右手を前方に真っ直ぐかざすと、手を大きく開いた。エレアの手の平の前方に、両手持ち長剣ほどの氷の剣が出来上がる。『氷剣』の魔法で作った氷の剣だった。

「ふうっ……!」

 エレアがさらに気合を込める。エレアの左手中指の魔力石が輝きを失う代わりに、氷剣が人間の身長ほどの大きさまで巨大化する。エレア自身の魔力に、魔力石の魔力も加えたのである。

「メル、次来たらお願い!」

 エレアの言葉にメルが意味を理解し上空へ上がる。

「りょうかい!」

 そして、五人の右斜め前方から砂海老が跳び出してきた。その砂海老目掛けて、メルが攻撃を加えようと長槍を振り出す動作を行う。砂海老は旋回してメルに攻撃を加えようとするが、メルは反撃を受けない距離で止まったため、砂海老の鋏は空振りする。その無防備になった砂海老の腹部に向けて、エレアが必殺の一撃を放つ。


「はぁああああっ!!」


 陽の光に反射して輝く大剣となった氷の剣が、透き通るような魔法音と共に物凄い勢いで放たれる。

『氷剣』は一直線に砂海老の腹部に突き刺さると、その冷気で砂海老の胴体を凍らせながら消えていった。砂へ潜ることができなくなった砂海老が、どすんと地面へ横たわる。

「はああっ!」

 その砂海老の凍った腹部に、グニが星球連接棍の一撃を加える。最初は痙攣しながらも鋏を振り回して抵抗しようとした砂海老も、グニの四度目の星球連接棍の打撃を受けて、ついに動かなくなった。

「初日からこんな出迎えがあるとはな」

 グニが肩で息をしながら話す。

「遺跡に辿り着くまではもうこんなのには遭わないことを願うよ……」

 こちらも肩で息をしながらエレアが返す。


 そんなエレアの願いが叶ってか、その後は大蛇に遭遇するなどの出来事はあったものの、初日の砂海老ほどの障害に出会うことはなく、砂漠での旅は進んでいった。

「ここが、遺跡群か……」

 砂漠に入って三日目、ついに五人は目の前に古代魔法王国時代の遺跡が立ち並ぶ一帯へと辿り着いたのだった。


ということで、次回より遺跡内の探索に入ります。

ブックマーク、ご感想等頂けましたら幸いです。


※作者都合により次回更新は再来週水曜日になる予定です

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