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作者: 蓮宮誠



 「『ミステリは文学界の異端児である』」


 そう小暮こぐれがおもむろに呟いたのはついこの間のことに思う。うららかな小春日和、俺とあいつと二人で将棋卓を囲んだ。残り少ない高校生活をどうせなら部室で過ごそうということで、この時期は(どうせみんな一緒に同じ大学なのに)部室へ行けば常に誰かしらいるという状態だった。


 しかしその日は珍しく、俺と小暮だけしかいなかった。他の部員はどうしたのかと問えば「腹が減っていたから食べてしまった」と人を喰ったようなジョークで澄まし顔。そして二人で久々に将棋を打った。部室に誰にものともしれない将棋盤を発見してからというもの、二人で暇つぶしのように打ってきた。思い出したように、ぱちり、ぱちり。六年前は二人でルールブックを覗きながらだったのに、今じゃすっかりお互いの打ち筋を読め合えるほどになっていた。負けたり、勝ったり。もう通算何戦目すら覚えちゃいねえ。


「………という言葉をどこかで聞いたんだけどさ。知ってる?」


「知らん。初耳だ」


「そう…じゃあ仕方ないね。しっかし、それにしてもなんで異端児なんだろう」


「作者が好んで大事なキャラを殺しまくってるからじゃねえの?」


「おまえの言葉通りならこの世はみんな異端だらけだよ。異端じゃない物語が異端なんてややこしい逆転現象が起きちまう」


部室の外のあいつは闊達だった。小暮はとにかく頭の回転が早くて機転が利いて、その上人脈も広くて陽気な奴だったから。ああ、たぶんそのせいだろうな。思い出の中の小暮はいつも何かのために目まぐるしく動いている。実際、あいつには止まる暇なんてなかったんだろうなぁ。まるで思春期時代を暴風雨のように駆け抜けていったよ。何度も何度も大嵐に巻き込まれて「もう二度とこんな危ない目にあってたまるか」とも思ったし、時には竜巻が人家を襲うのを冷や汗垂らしながら食い止めようともした。とにかく疫病神か死神かってくらい波乱を起こす奴だったよ。あいつが望む望まずに限らず、な。


 でもこうして将棋盤を挟んでるときは穏やかな顔をしていた。ほんの一時、疲れた旅人が木陰に身を寄せるように。将棋を打ちながらとりとめもない雑談に興じる間はいつだって時間の流れが緩やかだった。眠る花に寄り添えるほど穏やかで、優しくて、淡い。


 そんな淡い思い出の最後の時間のことだから俺はその記憶を大事にとっておくことにしたのだ。もうあんな将棋は指せないからな。


「別にどうだっていいじゃねぇかそんなこと」


俺は眼鏡についたゴミを吹きながら生返事。俺としちゃあ、この角をどう始末するかで今日の、そしておそらく最後の……そして実際に最後となった勝負が決まるのだ。お互い黒も白も忘れてまぜこぜ灰色、ならここで一滴の白を彩って終わりたいのだ。


「どうでもいいもんか。せっかくおまえが創作執筆に興味が湧いたっていうから水を向けたのに」


「悪いが、あいにく俺が目指すのはファンタジーと童話だ。だいたい俺みてえな急拵えの三文文士に文学の常はわからねえよ。そもそも本も漫画も読まねえんだから」


「まあまあ。そう急くなよ。ちゃんとおまえ向けに話すから」


そうか、と俺は返しただけだが小暮はそれで満足だったようだ。満たされて吐き出した講釈は先程の続き。喋りながら将棋打って俺用に話を練っていたのか。なんて奴。



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