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水樹さんは優しくない

続きを書くことはなさそうなのでこっちに合流

水樹さんは優しくない。




水樹さん、フルネームで言えば長谷部水樹さんは優しくないひとだ。

何が、と聞かれたら主に僕に、と答える。


僕はわりとよくいる、シャイで内向的で夢見がちな男子中学生だ。

書籍の堅苦しさと値段を忌避し、現代では中学生でも持てる携帯でネット小説を読むのが趣味だ。


好きだったジャンルは俗に言う、主人公最強ものとか、ハーレムものとかだ。

けど、そんな幻想は水樹さんにかかるとけちょんけちょんにされてしまう。


水樹さんは、そういったジャンル(水樹さん曰く最低系?)が大嫌いなのだそうだ。

どれくらいかというと、クラスで一度も話したことのない男子が携帯で見ているのをチラ見した瞬間罵倒してくるくらいには。


今日も水樹さんは優しくない。


「だいたいなんで男ってハーレムとか大好きなのかしらね?ハーレムなんてあっちこっちの女にいい顔して結局みんな俺のもの、キリッで、何股もかけられる女の気持ちも考えないで欲丸出しでせっせと種付けに励むとかホントに胸くそ悪いわ。」


「・・・・・・」


「愛されたい願望?征服欲?種の本能?だとしたら男はまだチンパンジーのころから進化してないわけ?」


「・・・女の子だって、逆ハーレムとかあるじゃん」


「確かにね。これに関しては女とか男とかのくくりに拘る話じゃないわ。でも、同じハーレムでも性欲が絡むか否かで大きく違うと思うのよね。汚さとか。」


水樹さんは優しくない。

特に、男という種に対してとてつもない嫌悪感とか拒絶とか忌避とかがあるみたいで、ハーレムを罵倒しながら僕を塵を見るような目で見てくる。

これが小説の世界とかだったら、水樹さんを口で言いくるめたり、水樹さんの男性不振を取り除くイベントとかがあるだろう。

でも現実は無情であり、僕は水樹さんに意見を変えさせるほど口答えする勇気も無く、大人しく罵倒されるしかないのだ。


「あとさそういうラノベ?みたいな話でよくいるツインテールで暴力的で理不尽なツンデレヒロインとかも虫酸が走るわよね。良いとこなんて欠片もないのに、外見設定でヒロイン扱いでどんな理不尽でも許されるとか本当にあり得ないと思うの。どんだけ女バカにしてんのよって話。」


「・・・水樹さんだって、ツインテールで理不尽な罵倒ばっかりで、ツンデレどころかツンギレなのに。」


「そうよ。だって私はそういうキャラクターだもの」


「いくらなんでもそれはない・・・」


水樹さんは自覚している。

自分が僕の妄想でしかないことを。










水樹さんが生まれたのは、一年前だ。


電子世界の仮想にどっぷりと浸っていた僕。

こうあったらいい、こうなりたい。

仮想の中の主人公への憧れがピークだった時期。


俗に言う中二病だった僕は、携帯サイトでヒロイン作成キットといういかにもな怪しいグッズを見つけた。


当時、携帯を手にいれたばかりで危機管理なんかまったくできていなかった僕は、様子見のつもりでクリックしてしまった。

クリックした瞬間、購入を受理しましたという文字が出てワンクリック詐欺という言葉を思い出した僕は怖じ気づいて電源を落とした。

どう対応すればいいか、全く解らなかったからだ。


そのあと少しして冷静になった僕は、近所の図書館のパソコンでワンクリック詐欺について調べた。

馴染みのない言葉ばかりだったが、請求などが来ても無視していいとあるのを見て安心した。

個人情報は書いたりしていないし、大丈夫だろうとたかをくくっていた。


しかし、そのつかの間の安心は三日後に崩された。


僕の名前と住所がしっかりと書かれた小包が届いたのだ。

その側面には、ショッキングピンクではっきりとヒロイン作成キットと書かれていた。


パニックの中、両親に見られたらまずいと思い自室に駆け込んだ。

飛び出てしまいそうな心臓を服の上から押さえ床に座り込んだ。


そして、開けない方がいいのは分かっていたのに、何故か、何故か小包を開けてしまった。


小包自体は両腕で抱えるくらいのサイズだったのに、とても軽かった。

小包の中に入っていたのは大量の発泡スチロールと青いビー玉のようなもの、そしてアンケート用紙だけだった。


アンケート用紙には理想のヒロインについて20の質問と書いてあった。

その内半分はヒロインについてで、残りの半分は僕についてだった。


この時僕は、間違いなく訳のわからない熱に浮かされていた。

躊躇いとかパニックとかをどこに置いてきたのか、背中のリュックから筆箱を取り出した。

中学に入学してから買った使いなれないシャーペンで書き込んだ後、アンケートの最後に書いてあったことを実行した。

シャーペンを握っていない左手をビー玉に伸ばす。

付属の青いビー玉を握ったその瞬間、何かが抜けた、としか表現できない虚脱感が襲う。

僕を突き動かしていた、熱に浮かされたような興奮がさっと引いた。


僕は一体何をしていたのだろう。

変なアンケートにばか正直に答えたり、理解の範疇を越えた行動をとったり。


馬鹿馬鹿しくなった僕は、握りしめていた左手を開いた。

赤いビー玉は、カツンと音を立ててフローリングに落ちた。



「ちょっと、人のコア落としてんじゃないわよボンクラ。」


「えっ・・・?」



妄想が、現実になった瞬間だった。

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