世界の果て
高校一年の夏――。
青春を楽しめたとも言えぬ中学生活を送り、高校へ進学したものの
この夏休みに至るまで楽しいことなど無かった。
人間って興味を持ったことにしか目をくれないし
興味を持った人にしか好意を抱かない。
丸という果てのないこの地球も、〝カミサマ〟からすれば
ちっぽけな塵にしか無い。
人間にとって大きな世界は〝カミサマ〟にとっては小さな世界。
そんな小さな世界で舞う極小の人間に何をしろというのだろうか。
キーンコーンカーンコーン………
蝉の鳴き声混じりに薄く聞こえる終業のチャイム。
の、チャイムと同時に終業式も終わり。
「しっかり勉強しろよー」
担任のメガネの言葉には誰も反応せず、
ひたすらクラスメイト達は夏休みということにはしゃぐ。
そんな皆を冷めた目で見ながら、富川 理央は
机の横のフックに引っ掛けた茶色い革の鞄をゆっくりと机の上に置く。
――なんで夏休みっていうだけでこんな騒げるんだろ
暑いだけだし、宿題多いし楽しめることなんかないじゃん
なんて心の中でぶつぶつ言いながら面倒くさそうに通知表を鞄に押し込む。
暑さ対策として一週間前に切ったショートヘア。
これは正解だった、と脳裏でガッツポーズしながら鞄を肩にかける。
別にこんな冷めた理央に友達がいないわけでもないが、
彼女は友達と戯れるとかいう、青春めいたことが嫌いだった。
そんなことして友情を深めてもいずれは大人になれば忘れる。
いや、”忘れてしまうくらいの存在”だ。
ガラリと教室の出入り口の戸を開けるとぴしゃり、と急ぎに閉めて
まだ誰も居ない廊下をとぼとぼと歩き始める。
横目に見える他の教室にはまだ皆楽しそうに話したりして残っていた。
どうせ話の内容は「夏休みの予定どうする?」とかそういうのだと思う。
俯き、目を伏せ、何も考えないよう――何もぶつからないようにゆっくり歩く。
あーあーあーあー、高校なんて楽しいもんじゃない。
なんて考えて。
ドンッ
何か……いや、人にぶつかった。
なんだか自分にそら見ろ、と突っ込みたくなった。
阿呆だ。阿呆だな自分。目を伏せて歩くとかどこの阿呆だよ。
「……すみません」
先輩だったらやっべーとか思いながら頭を下げる。
「……君、なんか悩んでるでしょ。」
「はい、本当にすみま……え?」
返事は絶対「気をつけろよ」か「うっぜー」かと思っていたが
――え?
ぽかん、と口を開けて顔を上げる。
と、もう少し上に顔があったため目線を上げた。
そこにはどこかオタク気質な眼鏡の少年がいた。
多分3年だろうか。
1年にしては大人っぽすぎるし、2年にしては雰囲気がない。
といっても3年なら尚更激怒してくる筈だ。
なんだろうか、新たな説教の仕方だろうか、3年特有の説教だろうか、
それともオタクなりの説教が始まるとしているのだろうか。
心臓をドギマギさせながら冷や汗をたらす。
「君、なんか悩んでるでしょ。」
全く同じ二度目の質問をされた。
ええ、そうですとか言えない。なんかまともに返せない。
真面目に焦っていると、眼鏡の3年はまた口を開いた。
「だったら、うちの部活に入ってよ!俺、部長だからさっ」
開けていた口をさらにあんぐり開く。
何言ってるんだ。
「名前はね、『世界の果て部』!!」
私はこいつを殴りたくなった。