【究極のチート】です。あなた方の誰か(読者の中の誰か)が育てたスーパーヒーロー『ヒロシ』の物語です。副題【焦日、のち半夏雨の秋(とき)】
1978年1月、雪の舞う東京。二十二歳の社会人一年生・ヒロシは、四畳半の木造アパートで、一枚の新聞紙を震える手で握りしめていた。
あなた方の誰か(読者の中の誰か)の声が、ヒロシに届きます。
「この先、世界は狂う。1989年に向けて、金が金を呼ぶ地獄の宴が始まる。ヒロシ、いいか。お前がその濁流を泳ぎ切り、沈む船から唯一生き残る方法はただ一つ。今すぐ『未来の種』を手に入れ、それを三年間、何があっても守り抜くことだ」
脳内に直接響く、あなた(読者)の声。それは、ヒロシの人生を根本から書き換える啓示だった。
目標は明確だった。1981年1月4日までに200万円を貯め、ソニー(6758)の現物1,000株を仕込むこと。それが、彼がこの混沌の時代を支配するための、唯一の切符だった。
1978年、最初の年。ヒロシの生活は、人間らしい営みとは程遠いものとなった。
朝は一番に会社へ行き、夜は誰よりも遅くまで残務を片付ける。昼食は社食のうどん一杯で済ませ、夜はもやしを茹でるだけの生活。同期がディスコ『マハラジャ』で踊り明かし、高級車やブランドスーツの話で盛り上がる中、ヒロシはただひたすら通帳の数字を増やすことだけに執着した。
「ヒロシ、お前、最近顔色が悪いぞ。少しは遊べよ」
先輩に誘われても、彼は笑って断った。彼の瞳は、常に数字の先にある「未来」を射抜いていた。彼の掌には、すでに鋼の感覚が宿り始めていた。
1979年、二年目。
貯金額が100万円を超えた頃、試練が訪れた。日本中が「土地神話」に浮足立ち、株価も上昇気流に乗り始めた。周囲の人間が、借金をしてでも株を買い、短期間で資産を倍にする様を、ヒロシはただ指をくわえて見ているしかなかった。「今、この金で少しでも投資に回せば……」という誘惑が、毎晩のように彼の眠りを妨げた。
『耐えろ、ヒロシ。今、あぶく銭に手を出すな。お前の標的は、ソニーという『技術の結晶』だ。目先の利益など、塵に等しい』
あなた方の誰か(読者の中の誰か)の声に励まされ、ヒロシは地獄のような節約を続けた。冬は暖房を一切使わず、厚手のコートを着込んで震えながら、ひたすら明日の業務効率化のための計算式をノートに書きなぐった。彼の孤独は、やがて異様なまでの研ぎ澄まされた集中力へと変わっていった。
そして、1980年、夏。
ついにその日がやってきた。通帳の数字は、200万という大台を突破していた。
ヒロシは、会社を半休して証券会社の窓口へ向かった。窓口の行員が、薄汚れたスーツを着た若者の差し出す通帳を見て、怪訝な顔をしたことを覚えている。
「ソニー、1,000株。現物で」
ヒロシの言葉は、確信に満ちていた。
証券コード6758。
このとき、彼が手にしたのは単なる株券ではない。これから始まる激動の八〇年代を生き抜くための、揺るぎない「軸」だった。
購入を終えた帰り道、ヒロシは初めて空を見上げた。
街は、相変わらず浮かれた空気に包まれていたが、彼の目には、その景色がまるで違って見えた。株を握ったことで、彼はこの国の経済という巨大な獣と、ようやく同じ土俵に立ったのだ。
「始まったな……」
彼が呟くと、掌が熱く疼いた。200万という蓄えを、たった一銘柄の「技術」に託したその決断が、1989年の崩壊、そしてその後の長い荒野を切り拓く唯一の光となる。
ヒロシの戦いは、ここから本格的に幕を開ける。
1980年12月31日。大晦日の夜。
ヒロシは、四畳半の極貧アパートで、一枚の「設計図」を広げていた。
社会人三年目のヒロシには、本来なら大金などない。しかし、彼はこの三年間――いや、あなた(読者)から与えられた「知識」を頼りに、あらゆる犠牲を払って軍資金をかき集めていた。
「信用口座、開設完了。証拠金は、これで全部だ」
彼は、自身の血と汗と、極限の節約生活で捻り出した300万円を、迷うことなく証券会社の信用口座に預け入れた。
当時、これだけの証拠金を用意できる三年目社員は、ごく僅かであった。ヒロシは、会社では「地味な雑用係」を演じながら、水面下でこの日のために全精力を注ぎ込んできたのだ。
『ヒロシ、いいか』
あなた方の誰か(読者の中の誰か)の声が、彼の鼓動とシンクロする。
『明日、1月4日。新年最初の大発会。お前が買うべきは、ただの株じゃない。時代を塗り替える破壊力を持った銘柄だ。レバレッジをかけろ。借金を恐れるな。この狂乱の入り口で、お前は一気に資産を10倍、いや100倍に膨らませる』
ヒロシは窓を開けた。冷たい冬の空気が、彼の熱くなった頭を冷やす。
遠くで、誰かが新年の祝杯を上げている。彼らは何も知らない。明日、彼がこの国の経済システムの裏口を叩き割り、莫大な富を根こそぎ奪い去ろうとしていることを。
1981年1月4日、午前9時。
東京証券取引所の鐘が鳴る。
ヒロシの指が、キーボードの上で踊る。
彼の照準は、一点に絞られていた。
1981年1月4日、最初の大勝負。ヒロシの300万円の証拠金を基にした、信用取引のレバレッジを効かせた「全額投入」先を指示してください。
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