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詩集

花嫁

作者: ロースト

花嫁


真っ白い部屋。扉を入るとすぐに見える真正面の白い机。一見、浮かぶかのように見えるいや、それ自体明確に存在がわからないほど真っ白なドレス。壁に掛けられたそれは見間違えようもなく、どうしようもなく、ウェディングドレス。それ以外何もない、生活感の、存在感のない部屋。すべてが白。物体の陰影さえ判りにくいほどの、白。その部屋の中、私はただ、中央に佇む。

ただ一点、その部分だけが白ではない。存在が明確にわかる、陰影のある、物体。それは紅この真紅は真っ白なこの部屋に不要な色。違和感、不自然、不本意…それらの言葉が似合う私。そんな私は、そのウェディングドレスを着れない。着る権利を失っている。私にはもう、そんな純粋さは欠片も残ってやいない。だって、紅い、紅い血にまみれた私が着ることなど、できるはずがないじゃない。

胸ポケットからいつものように純金で作られた十字架を取り出す。丁寧に、丁寧にハンカチで包み、机に慎重に置く。そして、神が鎮座するのだ。

感情の乱れを必死に奥に留めて、十字を切る。きっと私の眼は今、狂気に爛々と輝き、常よりも神に対して感情を顕にしているのだろう。だが、構わない。神は私が必死に奥に感情を隠せたとしてもお見通しなのだから。神は千里の眼を持つ。だから、内裏に隠したとしてもわかっておられる。そして、この心の内は到底隠せるほどの冷静さを持ち合わせず、荒み、荒涼としている。


「ああ、主よ。今日もお守り戴、感謝しております」


虚偽の言葉を述べる。白々しい。如何にも演技だということがありありとわかる。


「慈悲深い方、酷い方。とても、残酷な方」


言葉は募る。しかも神への恨み言。これは反逆者だ。だが、私はもとより神への信仰心などありはしない。神など、何もしないならいてもいなくても同じだ。神はすべてを識っている。すべてを視ている。すべてを感じている。なのに、何もしない。助けてくれない。ならばそれは偽善でしかない。分かっていながら助けてくれない神なんて、悪ほどにひどい存在。私は虚偽を述べるが、


「主は偽善者でしかない」


いっそ、死なせてくれればいいのに。神を裏切った罰にでも、見捨てて下さればいいのに。こんな苦行を強いるぐらいならば、自由にさせて下さればいいのに。


「でも、私は主に逆らえない」


なぜならば、私は主を信じない。しかし、主に心奪われているからだ。こんな汚く、醜い私が、主に、忠誠を誓うのは、自身ですら納得がいかない。

だが、彼は、美しく、何も出来ないが、安らぎを与えてくれる。


「もう一度、もう一度だけ」


彼は千里の眼を持つ。すべてを感じ、すべてを識り、すべてを視ている。だから、この想いも、この言葉も、すべて知っている。なのに、願いは果たされない。救われない。


「あいたい」


彼は、何も出来ない。出来るのは感じることだけ。視ることだけ。識ることだけ。


彼は偽善者。私は汚く醜い。彼にはできないとわかってるのに、願ってしまう。彼に願いを叶えて欲しいと思ってしまう。私の願いは唯一つだけ。唯一つを切望するだけ。なのに、それさえも許されない。

ああ汚い。私はこんなにも醜い。こんな汚れた色を身に纏っている。彼に会うのにこの色は似合う。いや、似合いすぎる。それに、私は彼に会うためにはこの色ではなく、この部屋のような、純白の、何にも汚されていない色じゃないといけない。なのに私はそれを纏えない。私は罪深いから。

でも、それは彼も同じ。彼もまた、汚く、醜い。そして罪深い。私と彼は似ている。だから惹かれあうのかもしれない。それでも、それは許されないことでしかなく、変わることのない理。

私の罪は彼が課したもの。私に強いている。それが彼の罪。私は彼を希求したために、行動を起こし、彼はその原因を作った。毎日、毎日、カッターを持ち歩き、彼のために、彼に会いたいがために、彼を希求するが故に、自傷する。そして、私が彼を希求する原因を作ったのは彼だ。

純真の象徴たる神が、神であるはずの彼が、醜く汚れており、穢れている。彼は純粋が故に、残酷だ。恵みを、祝福を与えるはずの神が、救えようもないほどに、醜く汚れており、穢れている。


「もう一度、会いに来て」


「好きだといって」


「愛してると囁いて」



「もう一度、会いたい」


 そしてまた、私はボロボロの腕を切る。あいたい、と願いながら自傷行為を繰り返す。行動の果てには何も起こらないと理解しているのに。今もまた・・・・・・


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